第6話 夜中に目が覚めて思う





何時なのかわからないけど、けたたましい音で目が覚める、と言うか、起こされた。


例のアレ。

「地震です、地震です」


私は目が死ぬほど悪いから、すぐに眼鏡をかける。

隣になぜか微妙な距離で寝ている、旦那の腕を思わずつかんだ。そのくらいけたたましい音だった。


「子供達は、大丈夫かな」


旦那が言うから、

立ち上がって、もはや自分一人で生きていけるくらいに育っているでっかい子供たちの部屋を確認に行く。


全く何事も無いかのように寝静まっている。ティーンは凄い。眠気が勝つんだ。凄いね。逆に心配にもなった。本当に大きな災害何かが起こった時、この人たちは大丈夫だろうか。




寝室に戻る。



なぜかわからないけど、私たち夫婦は廊下の電気をつけずに子供たちを確認に行っていた。

戻る廊下を旦那が携帯で照らしてくれる。ぼやあーーと浮いた旦那の顔を見て、何事も無かったことを確認。そして、優しい旦那、私を照らす旦那の顔を見る。



でも、布団に入っても眠れない。



全然眠れない。大好きなバーニーズマウンテンの大きな体を想像して、一頭、二頭、と数えてみるけど全然眠れない。


ならば、携帯だ。


ツイッターを見て、地震情報を確認する。なるほど、それほど大きな地震ではなかったみたい。良かった。それ以外には感染症のニュースばかりが並ぶ。



あっという間に寝入った旦那の寝息を聞きながら、

いつになったら、終息するのだろう、学校は始まるのだろうか、9月が新学期になったら、新入生は夏服だなあ、とかそんな事を考えているうちに、ますます目がさえてきてしまった。暗闇の中ではっきりと起きている私。




ふと、何事も無かったかのように寝入っている娘を思った。




下の子は身長がどんどん伸びている。上の子はもはや微妙に抜かれている。


私にそっくりの下の子。


真っ黒な髪、はっきりとした眉毛、長い手足、そしてうっすらと覆う毛深い手足。長い指。とてもきれいな指と形の良い爪。そして、旦那にそっくりな体質。手のひらにも足にも汗をかく。多汗症、と言っていいかもしれない。最大の、そして、絶対に似てほしくなかった体質。それは、体臭。もっとはっきり言うなら、腋臭、なのだ。


旦那と結婚した時、旦那は全く臭くなかったから、そんな体質とは知らなかった、けど、旦那は物凄く念入りに体を洗う。帰宅したら、すぐに足も洗う。面倒くさい人だなあと思った。朝の着替えもとても手間がかかる。腋にしっかりとデオドラントを塗って、完全に乾くまで待つ。それから、洋服を着る。お風呂に入らないで、寝入る、何て事はほぼ、無い。でも、そこまでしないと、臭う、臭い、んだそうだ。あの、腋臭の人特有のにおいの持ち主なんだ、そうだ。


でも、思い当たる節はある。たまに洗濯物が臭いのだ。しっかり洗ったのに、臭い。それは、あの、臭い、なのだ。そして、白いTシャツは、黄ばむ。




初めてその臭いが娘から漂ってきた時は、失望した・・・。



耳がべたっとしているから、もしかしたら、と予感はあった。でも、その予感は、あまりにも私と瓜二つのこの下の子に関してはきっと杞憂なんだろうと思っていた。むしろ、願っていた。



いや、杞憂ではなかった。




現実だった。



そんな彼女の事を眠れない夜に思って、憂う。


もう少し大きくなったら、手足の毛はなんとかしよう。いや、今、もう始めてもいいかも。

私は、子供の頃、手足にうっすらと、でも、うっそうと生える毛を見ては死んでもいい、くらいの絶望に襲われていた。でも、下の子は、それに加えて、臭くて、足もサンダルがはけない程、汗が出て、誰かと手をつなごうと思っても、いつもしっとり湿っていて、嫌な思いをするんだろう。

悩むだろう。

きっと困るんだろう・・・・・




大人の女性に近づく段階で、悩むのだろう、と思うと、可愛そうで、申し訳なくて。

どうしようもない事なんだけど、夜中だからかな。



絶望さえ感じてしまった。



健康であればいい、ただそれだけを願っていたはずなのに。



もっと、可愛かったら良かったのに、

お母さんに似れば良かったのに、

お父さんに似れば良かったのに、

もっと頭が良かったら良かったのに、

色が白かったら良かったのに、

身長が高ければ良かったのに、



もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、・・・・・・・って永遠に求める。






夜中だからだな。




多汗症の治療のどっかの病院のページを携帯で見ているうちに寝てしまった。





昨日の夜、ああ、無事でよかった、ってそれだけを願った下の子が起きてきた。





良かった。

今日も私とソックリだ。







憂う事なかれ。








今日も一日が始まる



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