九 出撃!! ジャベリンメカ!!
「誰だ?」
「旦那様。お母さんなのです」
「お母さん?」
「そう。うちがこの子の母親」
そう言って姿を見せたのは、ガオガブと同じように健康的に日焼けをしている、二十歳くらいの女性だった。ガオガブよりも胸やお尻が大きく、大人の色気があるが、髪の色はブルーとブラックのグラデーションカラーで、目にはブラウン系のカラコンが入っていて、耳にはきらきらと輝く銀色の大きなピアスをしている。
「良く分からないけど、ギャル系?」
ガオガブの母親を見て、この人、絶対俺よりも年下だろ。うわー。なんかショックだわ。おっと。それより、あれか。この人、全然普通だけどな。チーターに操られてるんじゃないのか? あ。それに、着ぐるみしてないじゃん。と一郎は思った。
「自分ではそうは思ってないけど、ギャルママとかって近所の人に言われるかな」
ガオガブの母親が言う。
「おお。ギャル系の人を、近くで見るの初めてだ」
「お母さん。旦那様はもう行くのです。ガオガブたちは家に帰るのです」
ガオガブが、母親のそばに行く。
「あんたねえ。何言ってんの。女は押しだよ。このまま逃がしちゃ駄目」
ガオガブの母親が、一郎のそばに来ると、一郎をひょいっと担ぎ上げる。
「ちょっと、ええ? 何?」
「とりあえず、うちの家に来な。話はそこでゆっくりしよう」
「お母さん。駄目なのです」
「ガオガブ。あんたの為なんだから。邪魔しないの」
「お母さん」
ガオガブが悲しそうな顔をする。
「お母さん。俺は行きません。用事があるんです」
一郎はガオガブの悲しそうな顔を見て、そう口走った。
「ん? それはもてあそんだだけでこの子を捨てるって事?」
「違います。ちゃんと」
ちゃんと? ちゃんと、俺はどうするんだ? と一郎は思い、言葉を途中で切った。
ここで、お母さんに、ちゃんと戻って来ますとか言ったら、俺はガオガブちゃんと結婚する事になるのか? いやいやいや。そもそも、俺はそんなに本気で結婚するなんて考えてたっけ? こんないきなり結婚なんてしていいのか? もっと良く考えないと駄目なんじゃないか?
「ほらね。ガオガブ。こういう事。あんたあそばれたんだよ」
「そんな事ないのです。今は、旦那様は忙しいのです。しょうがないのです」
「ガオガブ。あんた、そんなにこの男の事が好きなの?」
「はい。好きなのです」
「出会ってからほんのちょっとしか時間が経ってないのに?」
「時間なんて関係ないのです」
「あんたって子は。若い頃のうちにそっくりだ」
ガオガブの母親が言って、一郎を下ろすと、ガオガブを抱き締める。
「あんたの為だよ。少し待ってな」
ガオガブの母親がガオガブから離れると一郎の方を見る。
「うちと勝負しな。あんたが勝ったらうちは、この子の決めた事にもう口は出さない。けど、あんたが負けたら、うちの今夜の御馳走になってもらうよ」
ガオガブの母親が言って、自分の唇を舌で舐める。
「はうあっ」
ガオガブの母親の妙に色っぽい仕草を見て、一郎は変な声を出してしまう。
「お母さん。駄目なのです。そんな事やめて欲しいのです」
「あんたは黙ってな。もう、うちの燃え上がったハートは止められないよ。でやっ!!」
ガオガブの母親が巨大化しはじめる。
「おお。おおおお」
ぐいんぐいんと大きくなって行くガオガブの母親を見て一郎は唸る。
「旦那様。逃げて欲しいのです。巨大化したお母さんはもうガオガブの言う事を聞いてくれいないのです」
「ちゃんと話せば聞いてくれるんじゃないの?」
「背中を見て欲しいのです。あの機械がお母さんの感情の動きと巨大化に反応して作動するみたいなのです。そうなるとお母さんは、好きなだけ暴れて、それが落ち着くまでは、別人のようになってしまうのです」
「あの機械がチーターがつけったっていう機械?」
「そうなのです。旦那様逃げて欲しいのです。ガオガブが時間を稼ぐのです」
ガオガブが一郎の前に立つ。
「ガオガブちゃんは巨大化しないの?」
「ガオガブは巨大化できないのです。怪獣劣等生なのです」
「劣等生って。そのうちきっとできるようになるよ」
「旦那様は優しいのです」
そんな会話をしていると、全長三十メートルはあろうかというガオガブの母親の足が大きく上がり、一郎を踏み潰そうとする。
「旦那様。長くはもたないのです。早く逃げるのです」
ガオガブが足を両手で受け止めながら言った。
「ガオガブちゃんも逃げないと」
「旦那様が逃げるまではガオガブはここから動ないのです」
「ガオガブ。邪魔をするんじゃない。そこをどきな」
雷鳴のような母親の声が降って来る。
「お母さん。やめて欲しいのです。お願いなのです」
「ガオガブちゃん」
俺はどうすればいい? 俺に何かできる事。巨大化がしたガオガブちゃんの母親を止める為の手段。アドミニミニコードを使ってお母さんを変身させたらガオガブちゃんが悲しむ。それ以外でお母さんを止める方法。
「あらぁ。何ぃ? なんなのぉ? ピンチなのぉ?」
コピー一郎の一人が言いながら一郎のそばに来る。
「なんだよ。今どうすればいいのか考えてるんだから邪魔すんな」
「何よぉ。何か手伝えるかも知れないでしょ。冷たいわねぇ」
「ハーイ。ワットハプン?」
またコピー一郎が一人寄って来る。
「だから、邪魔するなって」
「一郎。皆で合体だ。ずっこんばっこん。合体して、戦うんだ。すっこんばっこん」
「また一匹増えた。なんで寄って来るんだよ」
一郎は言ってからはっとする。
「合体だって? そうか。合体して巨大化すればいいのか!! そうと決めたら、早速、アドミニミニコード。一郎巨大化合体。ジャベリンメカ、ゴー!! おいおい。集まり過ぎだから。ちょっと、待って」
一郎の脳内にだけ、謎のテーマソングが流れる中、コピー一郎達が一郎の周りに集合して、合体し、巨大なジャベリンメカとなる。
「んは? ここは?」
合体に巻き込まれ、もみくちゃにされていた一郎は、気が付くと、乗り物の座席のような物の上に座っていた。
「ジャベリンメカのコクピット内だぞ。オス。おら」
「もうそういうのはいいから。コクピット内だって?」
一郎の目前には、巨大化したガオガブの母親の顔がある。
「おお。ジャベリンメカでけーな。よし。ジャベリンメカ。ガオガブちゃんのお母さんの背中にある機械を取りはずすんだ!」
「パオーン」
ジャベリンメカが吠え、特撮戦隊物に出て来るような全体のパーツが四角くどこもかしこも角ばっている、全長三十メートル、体重五百五十トンの巨体が動き出す。ちなみに。カラーリングはもちろん無駄に派手派手であった。
「面白いじゃないか。うちを倒せると思うな」
ガオガブの母親が言い、右の拳を振るう。
「パオーン」
ジャベリンメカがそれをよけると、ガオガブの母親に抱き付く。
「ちょっと? あんた、何してるのよ」
「ぐへへへへへへへ。こんなチャンス逃せるか。ギャルママひゃっほーい」
ジャベリンメカが喋った。
「旦那様。ガオガブはこんなの見たくないのです」
「え? ガオガブちゃん、いつの間に?」
声のした方に反射劇に顔を向けると、一郎の座っている座席の隣の座席にガオガブが座っているのが見えた。
「なんか、たくさんの旦那様にもみもみされている間にこんな所に来ていたのです」
ガオガブが、恥ずかしそうに言い、耳の先まで真っ赤に染める。
「のおおおお。何をしてるんだ俺のコピー達。欲望全開じゃないか」
一郎は声を上げた後に、一抹の寂しさと物足りなさを覚える。
「ん? なんだ、この気持ちは?」
「旦那様どうしたのです? やっぱり、ミーケさんがいないと寂しいのです?」
「なんで、ミーケ?」
「だって、ミーケさんと一緒に今まで戦って来たんじゃないのです?」
「確かに、ミーケがいない事に対して、いや、ツッコミがない事に対して寂しさと物足りなさを感じているのかも知れない」
一郎の頭の中にミーケとともに戦った日々の記憶が浮かんで来た。
「いや。待った。そんな日々の記憶なんてほとんどないぞ。俺達は、まだ全然チーターと戦ってない。それに、そうだ。あいつ、全然役に立ってなかったじゃないか!」
一郎は思わずそう口走った。
「なんだと? ジャベリン。ミーケがいないと思って調子に乗ってるな?」
どこかからミーケの声が聞こえて来た。
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