十 ミーケの帰還
「ミーケ?」
一郎は周りを見るが、ミーケの姿はない。
「ふふふふふふ。ミーケはここだ!!」
きゅうーんという音ともに、一郎達の座っている椅子の下から何かが上がって来る気配がする。
「はい。ミーケ登場」
ガオガブがいるのとは反対の一郎の隣に、ジャベリンメカのコクピットの床部分から生えるようにしてミーケとミーケが座っている椅子が出現した。
「ミーケ。どこ行ってたんだ? 心配したんだぞ。調子はどうなんだ? 大丈夫なのか?」
一郎はミーケのそばに駆け寄る。
「いち、いや、ジャベリン。近いよ」
ミーケがおろおろしながら、小さな声で言い俯うつむく。
「どうした? やっぱり調子が悪いのか?」
「そんな事ない。ないけど」
ミーケが言って、少しだけ顔を上げた。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
一郎はミーケの顔に自分の顔を近付ける。
「うん。大丈夫。ごめん。心配させて。あの光線も全然効いてない。一時的にミーケのデータ内で混乱が起こっただけ。ガオガブもNPCだから、同じような存在のミーケを壊す事はできないから。ジャベリン。心配してくれて、あり、あり、ありがと」
ミーケが言い終えると、また顔を俯ける。
「そうか。それなら良かった」
「旦那様とミーケさんが仲直りなのです」
ガオガブが嬉しそうに言う。
「はあ? お前、なんでそこにいんの?」
ミーケの態度が豹変ひょうへんする。
「ミーケ。なんでそんな。いきなりそんな事言うなって」
「ジャベリン、何それ? 酷くない? これの味方すんの?」
「まあまあなのです。せっかく仲直りしたのです。喧嘩はやめるのです」
ガオガブが二人のそばに来た。
「あれ? なんか、お前ら、仲良くない? お前らまだ結婚とか言ってるのか?」
ミーケがやさぐれる。
「いや、それは」
「今はお母さんの事が先なのです」
「そもそもさ。なんで、結婚なの? なんか、ガオガブが勝手に好きなってんじゃん。ミーケ。意味分かんない」
ミーケの態度が物凄く悪くなる。
「あれは、その、……なのです」
「え? 何? なんて言った? ミーケには全然聞こえないんだけど?」
「だから、その、おっぱいを揉まれたからなのです」
言ってからすぐにガオガブがきゃー言ってしまったのです。というリアクションをする。
「どゆこと?」
一郎はガオガブを見つめた。
「ガオガブとお母さんはおっぱいを揉んだ人と結婚する設定なのです」
「あ、そうなんだって、うい? 何その設定?」
一郎はガオガブの顔を二度見した。
「おかしいだろ。どんな設定だよ。考えた奴連れて来いよ」
ミーケがキレる。
「いや、でもさ。よくよく考えたら、結婚したら駄目じゃないか? ガオガブちゃんてイベント用のNPCノンプレイヤーキャラクターなんだよね? そもそもさ、そんな設定の事を俺に言っちゃてるのも変だし。って、ああ。俺はプレイヤーじゃなくてボット寄りだから良いのか。まあ、それはいいや。それは置いとくとして、結婚しちゃったら、このイベントなくなるんじゃないの? 早い者勝ちとかなの?」
「そうなのです。このイベントは早い者勝ちなのです。けど、このゲームは、いえ、このデル―ジョン内にあるゲームはエロゲー世界以外はNPCも自由に振る舞うように作られているのです。例えば、プレイヤーの一人と結婚して、どこかのNPCが役目を放棄する事になってもちゃんとそこには新しいNPCが補充されるというようになっているのです」
「何それ。凄くない?」
けどエロゲー世界だけ駄目ってのが許せないぜ。と一郎は思いつつ言う。
「エロゲー世界だと、NPCが虐待ぎゃくたいとかを受ける可能性が高いって判断されてて駄目なんだよ。ジャベリンみたいな奴が多いからだな」
「はあ? からだな。じゃないよ、ミーケ。なんだよそれ」
「ミーケの事いじめるじゃん」
「何言ってんだよミーケ。いじめてないよね? 一度もいじめてないよね?」
「ガオガブは旦那様の事を信じているのです」
「うんうん。ガオガブちゃんありがとう。はあ~。癒いやされるわー」
一郎は、しみじみとガオガブちゃんていい子だなあ。と思う。
「旦那様、旦那様。まださっきの話には続きがあるのです。結婚したらその二人は、一緒に暮らせるようになるのです。冒険も一緒にできますし、この世界からも出てゲーム前ロビーにある家にも行けるのです」
「マジ?」
「マジなのです。お母さんを作った司馬伽藍しばがらんという博士は、AIに人間の感情を持たせて、人間と同じようにするというコンセプトを持ってAIの研究をしているのです。そのコンセプトのお陰で、お母さんの一部であるガオガブ達も人を好きになったり、結婚したりできるのです」
「なんか、あれだな。壮大な話になって来たな」
一郎は、結婚か。と遠くを見るような目をして思う。
「パオーン」
ジャベリンメカが吠え、ガオガブの母親のおっぱいを揉む。
「ジャベリン。あれ!」
ミーケが声を上げた。
「嘘だろ? このエロメカ。俺だってまだお母さんのは触ってないのに。何やってんだ。いや、違った。せっかくまじめな話をしてるのに何やってんだ」
「こら。お前、そこは、駄目だろ。うちは、まだ、そういうのされた事ないんだぞ」
ガオガブの母親が切な気に言う。
「え? どゆこと?」
一郎はガオガブの母親を見つめる。
「お母さんはお父さんなしでミーケを生んでいるのです。だから、まだ、経験なしなのです」
「うん。なるほど分からん」
一郎は考えるのをあきらめた。
「もう。設定がばがば過ぎだろこのゲーム。お母さんに言ってちゃんと作り直してもらうからな」
ミーケが吠える。
「おいー。このエロメカ。いつまで揉んでんだよ。早く、背中の機械取れよ」
ガオガブの母親とくんずほぐれつしているジャベリンメカに激しい嫉妬と苛立ちを覚えた一郎は声を上げた。
「ねえ、ジャベリン。このエロメカ、頭爆発しないね」
ミーケが不思議そうな顔をする。
「そうだな。なんでだ?」
「オコタエシマス。ソレハコピーダカラデス」
片言かたことの日本語で誰かが言った。
「誰だ?」
一郎は周りを見る。
「馬鹿。なんで話すんだよ。黙ってろって言ったろ」
ミーケが自分の座っている椅子に向かって言う。
「ミーケ? お前、何してんだ?」
一郎はミーケの座っている椅子をじろじろと見る。
「なんでもないよ? この椅子は、ただの椅子だよ?」
ミーケがあからさまに何かを隠していますというような顔になりながら言う。
「この椅子に何が?」
「こら、ジャベリン。駄目だ。近付くな」
ミーケが椅子から下りると、一郎を椅子から遠ざけようと一郎の腕を引っ張り始める。
「こら。ミーケ。放せ」
「駄目。これはミーケのなの」
「怪しい。今の発言、余計に怪しいぞミーケよ」
一郎とミーケは引っ張り合いを始める。
「ズルイヨ。ソンナフウニイジメルナラボクヲイジメテヨ」
椅子が言って変身する。
「お、お前は!?」
「何やってなんだよ。コピーエム一郎。略してエム郎の馬鹿!!」
ミーケの座っていた椅子は真っ裸まっぱの一郎の姿になった。
「コピーエム一郎? 略してエム郎?」
「あ。なんでもないよ。なんでもないから」
ミーケが顔を不自然に横に背そむけつつ言う。
「ミーケ。お前、俺のコピーに何をした?」
「ミーケハワルクナイヨ。タダ、コノエムロウヲイジメテクレタダケダヨ」
「これ、こんなのを、俺が出してたの?」
一郎は愕然がくぜんとした。
「ジャベリン。エム郎を馬鹿にするな。エム郎は凄いんだぞ。エム郎。椅子」
「ハイヨロコンデ」
エム郎がミーケのそばで四つん這いになる。
「うむ。くるしゅうない」
ミーケが言ってエム郎の上に座る。
「マジかー。お前ら……」
一郎は額を片手で押さえ、深い深い溜息を吐いた。
「エム郎は一人になったミーケを慰めてくれたんだぞ。一郎は追いかけて来てくれなかったじゃないか」
ミーケが唇を尖らせて言う。
「ミーケ」
一郎は、ミーケが去った時のガオガブとのやり取りを思い出した。
「いや、でもあの時は、連れ戻してもまたガオガブちゃんを変身させると思ったんだ。だから、先にガオガブちゃんの方の問題を解決しようと思って」
「それならそうやって言えばいいじゃん。そうしたらミーケだって、そんな事しないし、変身させた事だって謝ったよ」
「あの時はしょうがなかったのです。ガオガブは気にしてないのです」
ガオガブが笑顔で言う。
「ミーケ。お前、なんか、変わった?」
一郎は、ミーケがなんか急にしおらしくなってる。と思う。
「ソウダヨ。イイヨー。イイヨー。ストレスタマッテキテルネー。モットストレスタメヨウヨー。ソンデモッテ、ツネッテ。モットツヨク、コッソリカツダイタンニー。オーイエス。オーモア―」
「もう、エム郎。せっかくジャベリンが騙だまされてるのに。なんで言っちゃうかな」
「あーあ。これ駄目なやつだ」
一郎は一瞬でもミーケがしおらしくなってると思った事を後悔した。
「ミーケさん」
ガオガブがどん引きする。
「馬鹿エム郎。いじめられたいからって、なんでそういう事言っちゃうかな」
ミーケが声を上げる。
「よし。ミーケの事はもう放っておこう」
一郎は言って前を見る。
「分かったのです。ミーケさんには悪いとは思うのです。けど、ちょっと、やっている事が高度過ぎて、ガオガブはついて行けないのです」
ガオガブも言って前を見た。
「二人してなんだよ。ミーケはここだよ? ここにいるよ?」
「ホウチプレイ。ズルイヨー!!」
「おいエロメカ。お前、まだ、おっぱいを。どんだけ揉んでんだ」
ジャベリンメカがまだ破廉恥はれんちな行動をしている事に気付いた一郎は声を上げる。
「もう。旦那様。お母さんがくねくねしてるのです。見てられないのです」
ガオガブが言って顔を両手で覆う。
「あ、あのガオガブちゃん? 指、隙間すきま」
ガオガブの顔を覆う手の指と指の間には大きな隙間があり、全然目が隠れていないという事に気付いた一郎は思わず言ってしまう。
「旦那様はエッチなのです」
ガオガブが顔を俯ける。
「もう。かわいいなあ」
「ジャベリンとガオガブがいちゃちゃしてる!!」
「アアー。イイヨー。イイヨー。モットケッテヨー」
ミーケとエム郎の声がコクピット内に響いた。
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