5ー3

 ***



 「竹村先生、ちょっといいですか?」

 「滝森君。今度は渉君の方だね。なんだろう?」

 「しずくさんの事ですが」

 「その事だね。お姉さんとは別行動しているんだね」

 「はい」

 竹村先生は一度、周りを見てから渉と共に生徒相談室に移動した。職員室から、そう離れていない生徒相談室に行き、そこで話すみたいだ。

 生徒相談室を使用している時は、使用中という札を出せば、他の人に話の最中に人が入って来る事もない教室なので、ここでゆっくりと話が聞けるのだ。今は、誰も使っていなかったので、竹村先生が渉の事情を知っているからこそ、この教室を選んでくれたのだ。

 お互いに椅子に座り話が始まった。

 「雫さんの事だよね」

 「はい」

 「先生はあまり部室に行かないから、雫さんの行動で答えられる事があれば、いいんだが」

 「あの先生、僕と綾は部活に何か雫さんが、自殺してしまった事と関係があるのではと思っています」

 「それで君のお姉さんが天文部に見学というかたちで入った訳だ」

 「はい。あの12日の天文部の発表会に雫さんも参加されていたと思います。その時の様子は、どうでしたか?」

 渉は綾が言っていた12日に何かあったと気にしていた、発表会から話を聞いてみた。

 先生は少し考えてから答えてくれた。

 「発表会の時は、雫さんは他の学校の発表会を真剣に聞いていたよ。その時は、何もなかったと思う」

 「そうですか」

 「うちの学校は最後だったから、それまでは問題はなかったと先生は思う。ただ」

 「ただ?」

 「最後の発表が終わり、審査が終わってからの雫さんの行動が先生にとっては、少し心配だったかな」

 「何かあったのですか?」

 先生は、その日を思い出すかのように渉に語ってくれた。

 「発動会は結構、時間がかかってね、先生が参加した生徒の家に生徒を送って挙げた時だったかな。雫さん、発表の手伝いに疲れたのか、具合悪そうだったな」

 「そうなんですか?」

 「あぁ。今、思うと雫さんは、僕に何か言いたそうにしていたと思う」

 「言いたそうに?」

 「そう。雫さんの家が最後、でずっと家に向かっている間、下を向いて具合が悪そうだったから『ゆっくり休んで。なんか、具合悪そうだから』と言ったんだ。そのあと家に着いた時に何か、言いたそうな顔と『先生』と小さい声を聞いたよ」

 「雫さんは、なんて?」

 「いや、答えなかったよ。言いかけて、やめてしまった……」

 「そうなんですか」

 「すまんな、知っている事は、これくらいしか、先生には答えられない」

 「いいえ、ありがとうございます」

 渉は天文部の顧問である竹村先生に話を聞いて、生徒相談室を出た。

 そして、次の先生の話を聞き回った。



        ****



 渉は、父と綾に自分が聞いた話を語りだした。

 「天文部の顧問の竹村先生が12日の発表会が終わって、雫さんの家に送っている最中から、雫さんの様子に疑問というよりは、気になったみたいだった」

 「12日……」

 「12日の発表会は、隣町でやっていたから発表会が終わったのは、結構遅くなったみたいだ。参加した生徒は遅くなってしまったから、先生がそれぞれの家に車で生徒を送ったみたいで、雫さんの家が最後。家に着くまでずっと下を向いていたから、先生は具合が悪いのかと思っていたみたいだ。そして、雫さんの家に着いた時に先生が『今日はお疲れ様。ゆっくり休んで。なんか具合悪そうだから』と言ったみたいだ。その時、雫さんは返事をしてその後、『先生』と何か伝えたい事がありそうな感じだった。けど、やっぱり『いいです』って言って、お礼を言って家に向かったって」

 「じゃあ、雫さんは何か先生に伝えたかった事があったと」

 「先生には、少なくともそう見えたらしい。それで少し気になっていたみたいだった」

 「綾の言う通り、12と考えていい。2人共、上手くやっているみたいで安心した。そのまま、油断しないで頑張りなさい」

 「「はい」」

 「お父さん。学校に連絡してくれて、ありがとう」

 「いいよ。父さんも綾と渉が学校で捜査するのに動きやすく出来たらと思ってやった事だから、また明日も頑張りなさい」

 「「はい」」

 「明日はどうするだい?」

 「私は部活の方で、雫の家に行く事になっているの」

 「俺は、一通り先生の話を聞いたから今度は、郵便局に行ってみようかな」

 「分かった。部屋に戻ってもいいよ」

 「「はい」」

2人は、父に今日の報告をして、それぞれの部屋に戻っていった。

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