5ー1

 捜査1日目。

 綾と渉の2人は星宮サユリから依頼を受けた、青森雫の自殺した謎を解く為に今日から捜査を開始する。

 その為、渉と綾は別行動を取る。渉はまず、先生達に話を聞く事から始める。

 綾は天文部に見学という流れで天文部の顧問のところに向かった。職員室に入ると綾は、天文部の顧問である竹村たけむら先生のところへ行った。

 「あの、竹村先生」

 天文部の顧問である竹村先生は眼鏡をかけていて、優しそうな顔立ちをした30代半ばと見える男性職員だ。綾達1年生とは、関わりがないが2年の生物、あるいは科学の授業を教えている教員だ。

 「あぁ、滝森さん」

 「竹村先生、ちょっとお話が」

 「あぁ、分かっているよ。滝森さんが話したい事も」

 「えっ?」

 「滝森さんの事はもちろん弟である渉君の事はもう聞いているよ。滝森さんのお父さんから」

 先生は何もかも分かっているよと綾に一度、頷いてみせて綾にも分かるように説明してくれた。

 どうやら2人の父、蓮が学校側に事前に連絡を入れてくれたみたいだ。

 先生はもう一度、周りに生徒がいない事を確認してから綾に話しかけてきた。

 「滝森さんのお父さんから学校に電話があった。ここにいる先生方、始め校長まで滝森さんの今から始めようとしている行動について知っているよ。もちろん、全校生徒には内緒にしている事も。は大丈夫」

 「ありがとうございます」

 「協力してほしい事があったら、その時は先生達に言いなさい」

 「はい。ありがとうございます、先生」

 綾は少し先生とお話をしてから先生に頭を下げて、職員室を出た。丁度その時、星宮と出会った。

 星宮も綾に気が付いて近づいてきた。

 「どうでしたか?」

 「うん、大丈夫。お父さんが学校側に事前に連絡してくれたみたいなの。私と渉が動きやすいように」

 「そうなんですか」

 「うん。星宮さん、渉はまだ教室にいた?」

 「あっ、はい。いたと思います」

 「ちょっとメールしたいからいい?」

 「はい」

 綾は鞄から携帯を取り出して簡単な内容を打ち込み、渉にメールを送った。メール内容が受信されたのを確認してから携帯を鞄にしまった。

 「じゃあ、星宮さんこれからよろしくお願いします」

 「はい」

 「あと私の事、綾でいいよ」

 「!……そうですね、綾さん」

 綾は星宮の案内で天文部の部室へ向かった。向かった先は第2理科室だった。そこが天文部の活動場みたいだ。

 ちなみに理科室は2つあり、第1理科室は科学部が使っているらしい。

 朝霧あさぎり学園は文科系と運動系のどちらにも力を入れている学園。なお、部活は強制ではないため、入らない人もいる。

 星宮が部室のドアをノックして中に入った。中には8人の生徒がいた。

 「遅かったね、星宮さん」

 「すいません、職員室に用があったもので」

 「そうか。で、そちらは?」

 「初めまして滝森綾といいます。今日からしばらくの間、見学させて頂きたいと思いまして」

 「見学?」

 「あれ、綾!」

 「どうも、若菜」

 「若菜ちゃんのお友達?」

 「はい。友達=クラスメイトです、小雪こゆき先輩」

 「職員室に行った時に竹村先生がこちらの滝森さんが見学してから部に入るか、決めるみたいだから、部室に案内するように頼まれました」

 「なるほど……では、ようこそ天文部へ」

 天文部の部室に入ってみるとやはり、星宮と打ち合わせをして良かったというように部室の人にいろいろと聞かれた綾。

 星宮のおかげで綾は怪しまれずに天文部に見学するという形で中に入れた。

 「じゃあまずは、自己紹介からいきますか、部長」

 「そうだね」

 「じゃあ、そこは言い出しっぺから」

 「って、オレから……まぁ、いいか。オレは山里和志やまざとかずし、2年だ。よろしく!」

 「あたしは熊倉くまくらアズサ。同じく2年です。よろしくね」

 自己紹介といった一人から時計回りで紹介されていく。まずは2年の2人から始まった。

 山里和志は、ちょっとした問題児として有名なので綾も名前を聞いて、あの人がそうなんだと始めて知った。

 問題児と言われているが暴力でという訳ではなく、ただの遅刻や身だしなみが悪い方で有名。両耳に小さいピアスをしていて、右手首にはリストバンドをしている。

 次に熊倉アズサ。ショートカットの髪型で見た目は物事ははっきり言いそうなタイプに見える。和志と仲がいい2年同士に見える。

 「あたしとサユリは知っているから大丈夫よね、綾」

 「うん」

 「あれ、星宮も同じクラスなのか?」

 「いいえ。違いますよ、和志先輩」

 「だったら、した方がいいんじゃないのか?」

 「隣のクラスだから分かります。それに綾には、弟君がいるからサユリの事も知っていると思いまーす!」

 「あーあ、そうか。名前を聞いて思ったけど、あの双子かい?」

 「さすが部長。当たりです。ねぇ、綾」

 「うん。私が姉で弟は渉と言います」

 「なるほどねぇ~。弟君は、部活には?」

 「入っていません」

 「そうか。天文部に興味ないかな~」

 「それは渉に聞いてみないと、なんとも」

 朝霧学園の中で滝森と聞けてすぐに分かる人は、だと思い付くだろう。それだけ綾と渉の双子は学園の中では珍しいので、ちょっとした有名人だ。

 「僕は神森冬真かみもりとうまです。よろしくお願いします」

 神森冬真は、優しい顔立ちと言葉遣いで物静かな少年に見える。

 「桜坂小雪さくらざかこゆきです。3年で副部長をしております。よろしくね、綾ちゃん」

 髪を耳より少し高めのポーニティルで3年生だけど、笑うと少し幼く見てしまう。どこか可愛い先輩だ。

 「そして部長の藤村竜也ふじむらりゅうやだ、よろしく」

 眼鏡をかけていてさわやかな笑顔は女性の心に響くだろう。学園で女子に人気と言われているのも分かる人だ。

 「今日は12日にやった天文会の論文の結果を伝えて、今日の部活は終わりだ。竹村先生と相談したのだが、亡くなってしまった雫君の家に行く事が決まった。今日と明日と別れて行こうと思う。今日は先生と僕とアズサ、和志と若菜君で行こうと思う。でも先生は、少し方向音痴ほうこうおんちなところがあるから若菜君、辛いと思うが道案内を頼むよ。明日は星宮君でお願いするよ」

 「「はい」」

 「それで論文の結果は2位だ。1位はいつもの春山校だ」

 「今回はすごいじゃあないの! 本当に2位なのね、和志」

 「嘘いってどうするんだよ、アズサ」

 「今日はこれで部活は終わりにする。そうだ、綾君。これを」

 綾は藤村ぶちょうから何十枚と束になっている紙をわたされた。

 「あの、これは?」

 「これは12日に使った論文だよ。それを読んで見るといい」

 「ありがとうございます」

 「小雪。悪いが綾君にいろいろ教えてあげてくれないか。せっかく見学に来てくれて何もしないじゃ、意味もないし」

 「良いわよ」

 「じゃあ、よろしく頼むよ。えーと、和志とアズサ、そして若菜君は一緒に来てくれ。他は帰ってもいいよ。じゃあ、解散」

 そういって部活は3人を連れて部室から出て行った。

 部室に残ったのは、綾と星宮そして副部長の小雪の3名だった。

 綾は適当に椅子に座り、横には小雪が、綾の前には星宮が座った。

 理科室は四角い机に椅子が4つあり、4人が座れるような作りになっている。

 「あの小雪先輩。私もご一緒してもいいですか?」

 「大歓迎よ」

 綾は論文を机に置いた。





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