4ー1

 出入口から少し離れた場所で星宮の話を聞いていち早く、双子の父、蓮が行動を起こした。

 「とにかく話を聞こう。こちらへ」

 「はい……」

 「綾と渉も一緒に聞きなさい」

 「いいの、お父さん?」

 難しい依頼の時は綾と渉は、席を外しているが今日の依頼は父向きの仕事なので、自分達が一緒にいてもいいのか、一応、綾の方で父に聞いてみた。

 「その方が星宮さんも気持ちが楽になるだろう。大人2人と話すよりも」

 「一緒に聞いてもいいかな、星宮さん」

 「お願いします」

 綾は一応、星宮さんにも同行してもいいのか、許可をもらった。

 綾と渉も一緒に話を聞く事になった。3人はソファーに座った。

 「じゃあ、話してもらえるかな?」

 「はい」

 星宮は鞄の中から一通の手紙を出して蓮に渡した。蓮は手紙を受け取り、差出人を確認した。

 「開けてもいいかな?」

 「はい、どうぞ」

 蓮が手紙の中を確認した。そこには、一言だけ、文字が書いてあった。


 ーーー ごめんね ーーー


 という言葉だけが。蓮は星宮に視線を戻した。

 「これは?」

 「私にも分からないです。手紙を貰って何日か、考えてみたのですけど……雫さんは何を伝えたかったのか。私には……」

 「お父さん、私も見ていい?」

 「いいかね?」

 「はい」

 綾は手紙を受け取り、そして内容を見て、渉や簾堂にも渡していく。

 「彼女は、君に何を伝えようとしていたのだろう」

 蓮と簾堂の2人が星宮に質問していく。

 「ちょっと嫌な事を聞くかもしれないが彼女、雫さんに変わった様子は,、なかったかい。何でもいいから」

 少し考えてから星宮も答えた。

 「いいえ……なかったと思います。雫さんとは、部活しか会わないので。私が気付いていなかった、だけかもしれませんが」

 「そうか」

 大人2人と星宮の会話を聞きながら綾は手紙を見ていた。いや、考えていた。

 何かないのかなと思いながら。ふっと視線が手紙の切手にいった時に綾は『あっ!』と自然と声を出していた。

 綾の声にその場の4人が綾を見た。

 「……この手紙、雫が亡くなる3日前に書いた物だよ」

 「本当かい、綾ちゃん」

 「はい。郵便切手のところの消印が」

 「本当だ……」

 綾が見つけた事をその場の4人に話をして、大人2人が確認してみると綾が言った事は本当のようだ。

 綾の隣に座っていた渉が綾の肩に手を置いた。綾は渉を見た。

 「綾、あの事を話してみたら?」

 「……そうね」

 「綾?」

 綾は一度、父を見てから話し始めた。

 「私、雫とは同じクラスなの。雫が自殺してしまう前に友達と話し込んでいたの。その時、雫はなんだか……元気がないように見えた。雫本人は風邪気味って言っていたの。けど、私には一瞬、雫が何か悩み事でもあるかのように見えた。無理に聞くのはどうかと思っていたけど……」

 「それなら私も……」

 「星宮さんも!」

 「はい。変わった様子ではなかったので、たいして気にしていなかったのですが、綾さんの話を聞いて思い出しました。私も同じ部活なので部活の時の雫さん、いつもと違って元気がないような、その場に居たくないような、そんなふうに見えたので私も『大丈夫』と聞いた時に綾さんと同じく『風邪気味なの』だと答えていました」

 星宮も綾の話を聞いて思い出したのか、自分も感じた少しの違和感を星宮も話をした。

 やはり、星宮も綾と同じく風邪気味と言われて、たいして気にして居なかったみたいだが、綾と同じ回答に双子の父、蓮が頭の中で考え事をしていた。

 「仮説だけど、あの時には2人には、雫さんの様子が変だと思えたという事だね、綾、星宮さん」

 「「はい」」

 「もし、そうだったら少しは前に進めた……ありがとう、2人共」

 「いいえ、簾堂さん」

 「あの刑事さんはこの事件の担当なのですか?」

 「そうだよ」

 「あの……家の人はなんて言っていたんですか?」

 「いつもと違う様子には見えなかったと。ただ、15日だけは風邪を引いたみたいだからと言って部屋からお昼まで出てこなかったみたいだ」

 簾堂は自分しか知らない情報を警察手帳か何か、自分でメモしたものを見ながら調べた情報をその場にいる、4人に教えた。

 「そのあとは?」

 「お昼に母親が部屋に訪ねた時には返事がなく、寝ているのかと思いそのままに。夜はさすがにご飯を食べた方がいいと思い部屋に行き、雫さんを呼んだが返事がなく、部屋の中に入ってみたら」

 「雫さんはもう亡くなっていたという事か、秋於あきお

 「そうだ」

 テレビでは報道されていない情報を聞いた綾達は、複雑な思いというか、言葉が出てこなかった。始めて聞いた情報だったからだ。

 綾は静かに簾堂を見て。

 「じゃあ、雫は……」

 「ここにいる人だけに教えよう。青森雫さんは15日のお昼頃には、もう亡くなっていたと考えてもいい。ニュースでは昨夜と伝えているが俺はそう考えている。時間帯は教えられないが」

 「じゃあ、雫さんは日曜日のお昼頃に」

 「そういう事になる」

 「雫……どうして自殺なんて……してしまったの」

 綾の悲しい声が聞こえた。

 しばらく沈黙となった。それぞれが何か考え、答えを出そうとしていた。それだけ周りは静かだった。

 どうして雫は、自ら自殺という道まで選んで命を落としてしまったのか、一体そこまでして追い込んでしまった訳がなんなのかといろんな思いが浮かぶ中、綾達その場の5人は、何か必死に思い出したり、考え込んでいたりした。

 「あっ!」

 手に封筒を持っていた綾は突然、思い付いたかのように声をあげた。

 「どうした、綾?」

 渉が綾に問いかけてみた。

 「この日付って、私が雫に元気がないよって聞いた日だよ」

 「えっ!」

 星宮は驚き、綾から封筒を受け取り、切手のところに押してある消印を見た。

 そこには11月13日と押してあった。

 「私も同じ日に部活で」

 「まさか!」

 「間違いないです」

 「どういう事だ、蓮?」

 「雫さんはその前の日に手紙を書き、そして次の日に手紙を出したという事か」

 「そうか、住所が近ければ、すぐにでも届くけるし、出した人が速達と言えば、すぐに届けるはずたし」

 「郵便局は早さが自慢ですって、欲広告を出しているのを見た事があるわ」

 父の考えが分かった綾と渉は、お互いにその場にいる簾堂と星宮にも分かるように説明をした。

 2人の考えがあっている事に父、蓮は頷いて、今度は簾堂に質問してみた。

 「そうだな。それに雫さんの家の近くに郵便局があれば、そのまま行く事ができる。近くに郵便局はあるか、秋於?」

 「……確かにあるぞ、郵便局」

 「本当ですか、簾堂さん」

 「あぁ」

 簾堂は自分で調べたメモ帳を見ながら答えていった。

 「だんだん分かってきたぞ」

 パズルのピースがまっていくみたいに少しずつ謎が解けていく。

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