幸せな国にあるパッカー車

日々人

幸せな国にあるパッカー車


ストレス物質が解明され、対処法が確立された昨今。

この国の朝はとても穏やかだ。

おやすみ前にカプセルを一錠飲むだけで、翌朝すっきりと目覚めることができる。

一日の生活で蓄積されたストレスは、翌朝の枕元へ転がっている。


カプセルを服用すると睡眠中にストレスを含んだ呼気が集まり、一つの塊が形成される。

その塊の大きさは、一般的には豆粒からミニトマトくらいの大きさだが、現在報告されているもので最大級のものはテニスボールほどの大きさが確認されている。


寝起きにそれを摘まんで拾う瞬間、人々の心は大変穏やかで、心に全く淀みを感じない。


「もしかすると。これまで生きてきて、一番熟睡することができたのではないか」


と毎朝、目覚める度にそう思わざるを得ないほどの爽快感がある。

薬は毎日服用しても依存性はなく、人体に対する薬害も今のところは確認されていない。

ただ、一番の問題となるのはやはりこの「ゴミ」問題だ。


ストレス物質からなるこの塊はとても厄介な代物だ。

この物体はとても固く、破壊することも焼却処分することも困難を極める。

この塊は一般ごみでは回収されず「特定産業廃棄物」として回収された。

集められたストレス物質は、一時的に保管施設に収容されたがそれも直ぐに一杯になってしまった。

このゴミ問題を研究した結果、なぜか生きものの体内だといとも簡単に消化できることが判明した。


とはいえ、ストレス物質をまちがって人が口にすると、そのストレスを受け入れることになり、大変危険である。

国は他の生物に与えることで、塊の山を解消させる方法を選択した。

その中で、もっとも効率よくストレス物質を口にしてくれる生きものは「カラス」だとわかった。

生態系を永続的に持続させるためにはスカベンジャー(掃除屋)は欠かせない。

カラスは人間社会にとって、より親密で欠かせない存在となったのだった。


 

 ー ー ー ー ー



今日もまた、静かで穏やかな一日が始まろうとしている。

争いや喧噪という言葉が聞かれなくなったこの国の朝、上空では黒い翼が飛び交う。

その下では無数に広がる塊が山のように集められている。

集積場に降り立った翼は、その塊をくちばしで啄んでは次々と呑み込んでいく。

再び上空へ飛び立ち、拡散された黒い翼は大きなくちばしから「耳障りな声」を発する。

ストレス物質の塊に込められた「忌み嫌われる人間の言葉」を巧みに操るようになった黒い翼。


しかし、それに対する鬱陶しさに対しても、人々はぐっすりと眠り、翌朝になってしまえば何ら気にすることはない。

傍らに転がる塊を後目に、心も体もとても穏やか。

快調である。


カーテンを開き、窓に近寄る。

晴れ渡った空を、夥しい数の黒い翼が横切っていく。





 ー ー ー ー


 


 



…という妄想話でした。

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