高校二年生
心に穴が空いたまま高二になった。
好きになった相手は名前も知らない人だった。ただ、トランペットを吹いているのを何回か見たことがあり、吹奏楽部だということだけは知っていた。
クラスメイトでもなければ、同じ部活でもない。接点はまるでなかった。そこで、吹部の友達に頼んで橋渡ししてもらうことにした。その友達から彼女がよく小説を読んでいるという話を聞き、自分が小説を書いていることを利用して近づこうと考えた。
まず、吹部の友達に俺の小説を宣伝してもらう。その後、移動教室の時間を狙って、彼女の教室の前で友達と会話し、出てきたら会話に混ぜる。そこで自己紹介して顔見知りになっておく。そんな計画を立て、成功させた。
それを知ることができ、「彼女に話しかけられる」という勝手に作った権利を得た。
しかし、話しかけようとしたら声が出なくなった。勇気が足りなかったのだ。顔見知りのまま二週間が過ぎようとしていた時、追い込まれたせいもあって、ようやく踊り場にいた彼女に声をかけることができた。
「Mさん、だよね?」
俺は明らかに震えていた。手も足も全て。段差につまずきそうで、今にも足を滑らしそうで、手すりに掴まって、ゆっくりと階段を上った。
「うん」
どうして名前を知っているの? といった顔をした。だから改めて自己紹介して、会話へと入った。
Mさんはとてもフレンドリーで、感覚的にナンパした俺とも普通に会話してくれた。三分足らずの会話だったが、それでも幸せだった。
そんな風にして何度か会話したり、口実をつけてLINEを交換したりとそこそこ順調であった。それなのに、悪夢は訪れた――
夏休みに入った。地獄のような夏休みだ。Mさんと会えないというだけで、毎日が苦痛であった。そして、溢れんばかりの気持ちを吐き出すこともできずにいた。
唯一の救いがLINEを交換していることであった。そこでやり取りをしていると、ほんの少しだけ気が楽になるのだ。しかし、丸一日既読がつかなかったり、会話が止まると不安になる。
「一緒に宿題しよう」という文を送ると、「いいよ」と返ってきた。彼女の所属する吹奏楽部は社畜で有名で、返事が来た時点では具体的な日付けを決めることがてきなかった。それでも、その言葉を頼りに夏休みを生きていたと言っても過言ではない。
夏休みが半分近く経過して、喜びは焦りに変わっていった。というのも、彼女は宿題するという話を忘れたかのように普通に会話してくるのだ。忘れるほどにどうでもいいことだったのかと思ったのだ。
焦りは日を重ねるごとに増して行き、ついに足枷が外れた。溜め込んでいたものが一気に溢れ、LINEで告白してしまう。
『ありがとう。でも、自分、恋愛感情がないし、性欲もない』
そんな感じのことを言われ、遠回しにフラれたのだ。
『でも、だからといって、気まずい空気になるのはやだぜ?』
それでも、彼女は友達でいたいと言ってくれた。
『そういや、勉強会の話、部活が忙しかったから行けてなかったな。今度いつ空いてる?』
そして、彼女はあの約束も忘れてなどいなかった。もう、それだけで幸せだった。俺はフラれたにもかかわらず、彼女のことがより好きになっていた。
数日後、図書館で勉強会という名のおしゃべりした。それ以降、たまに二人きりでカラオケや祭り、ショッピングモールへ出掛けるようになった。本当の意味で友達になれた気がしたし、彼女のことを諦めようと頑張った。他の人を好きになろうとしたのだ。
*高校三年生へ続く
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