第3話 鏡勇気は子連れ問題児になりました。
ぎゃああああああああああ!!!
もみ上げを引っ張られながら俺は桐冬先生と教室に向かっていた。
(いてぇ……それより何で先生は赤ちゃんの事を聞いてこないんだ?)
正直に言うとそこだけは助かっていた。聞かれても返す言葉がみつかっていなかったからだ。
ちなみに才波さんは俺の背中ですやすやと寝ている。さっきお店で名前は知らないが、おんぶするやつを買ったので抱っこしなくていい。俺としてはそれだけで非常に楽だった。
教室にたどり着くと俺は桐冬先生に放り投げられた。
(こっちには赤ちゃんがいるんだからもっと親切にしてくれよと思った)
はっ!!
気がつけば俺はクラスからの視線を集めていた。そりゃそうだよ。遅刻してきて、更には赤ちゃんを背負っているんだから……。
分かっていたことだ。しかし、実際にその状況になってみると恥ずかしくて死にそうだった。
沈黙が続く思い空気の中、俺は静かに席に着いた。隣の席は空いていた。才波さんの席だ。
(本当に才波さんは赤ちゃんになったんだ……)
俺は才波さんに雷が落ちた時に居たが、赤ちゃんになったというのは、半信半疑でいた。
隣の席が空いているのを見ると、改めてあの時の実感が湧いてくる。
なんとか1時間目を終えたが本番はこれからだ。
休み時間になるとクラスの連中が一斉にこちらへ駆け寄ってくる。
「ねぇ、何その赤ちゃん?」
「可愛いい~~!」
「おい……鏡、まずくね?」
様々な声と視線が俺の方へと向けられる。この空間が俺には気持ち悪く感じた。人が周りに大勢集まったせいか、才波さんが起きてしまった。
オギャアオギャア才波さんは大泣きし始める。
クラスの雰囲気が重くなり始める。
「ごめんな……ちょっと」
俺はこの場から離れようとする。何だかここに出来る限り居たくない。初めて教室から離れたいと思った。
「何か……ごめんな」
クラスの一人が謝る。俺はその言葉を無視して、教室から離れ、人気のない場所に移動した。
俺はひとまず屋上に移動した。昼休み以外は人がいなく、とても静かだ。才波さんの泣き声がとても響き渡る。
「もうそろそろ授業が始まるか……このまま授業をサボってしまおう」
俺は出席よりもあの場所に居たくないという気持ちの方が圧倒的に強かった。初めて授業をサボってしまった。そこまで優等生では無かったが、そこそこの成績はとっていた。問題児という扱いはされていない。さすがに今のこの状況では問題児になってしまっただろう。
あれっ?才波さんが泣き止んだ。
「あれ、お前がサボりなんてめずらしーな」
(しまった……人が居たのか)
「あれ、俺のこと知らない?」
「知ってるよ、木更津竜、学年一の問題児だろ」
「お、当たり……そういう君は鏡勇気、陰キャ代表」
「ほっとけ」
木更津竜、学年一の問題児赤い髪に鋭い目付き、とてもヤンキーらしい見た目だ。ちなみにこいつは隣のクラスだ。
早く居なくなってくれないかと勇気は思う。
「あれぇ? 背中に居るのもしかして……」
才波さんに気づいたか、面倒だなこりゃ。
「お前……誰とヤったんだ?」
(問題児はそういう考えしかできないのか?)
「なぁ誰とヤったんだよ?」
「誰ともやってねぇ」
それ以上はやめろ俺が悲しくなる。まさか俺も童貞を失う事よりも先に子育てをするとは思わなかった……これじゃ一生童貞だろうな。
ーってそうじゃなくて!!
ここも嫌な場所だ。俺にもっと平穏な場所は無いのか?
「あれっ授業に出んの?」
「お前がいるからこの場所を立ち去ろうと思っただけだ。」
「そうか、じゃな」
もっとグイグイくると思っていたがどうやらそうでもないらしい。意外な一面をみれた。
「さて…………どこに移動しよう?」
階段で立ち止まり考える。
(このまま家に帰ってもいいな)
いつもならこんなこと絶対に考えないが今は違っていた。なにしろ、昨日から非日常な事が起こりすぎて疲れてしまっているからだ。
(休みたい…………)
今は頭にその事しか無かった。
「そこで何をしている?」
…………またこの威圧感だ。先程の凄さは無いもののこの疲れた体に衝撃が駆け巡る程である。
振り返ると桐冬先生が今度は割りと真剣な表情で立っていた。手には教材を持っている。授業を終えて、職員室に戻る最中だったらしい。
(考えてるうちに2時間目、終わっていたのか)
「悪いが、家には帰らせないわ」
「分かってますよ……桐冬先生」
相変わらず鋭い先生だ。
(俺の考えてることを見抜きやがる…………)
「あと、放課後職員室に来なさい。とても重要な事だから」
「分かりました」
(……才波さんのことだろう、先生の表情が物語っている。)
そんなことを考え俺は教室に戻って行った。
教室に戻ると3時間目が始まろうとしていた。
「遅いぞ鏡」
と先生が俺に言う。
「すみません」
俺は席に着いた。
体が凄く疲れていたせいか、俺は眠りに就いていた。
才波さんの泣き声で俺は目を覚ます。気がつけば昼休みになっていた。ランチタイムだ、お腹が空いたから泣き出したのだろう。俺は机の横にかけているビニール袋からミルクを取り出し、才波さんがに飲ました。周りからの視線を感じていた。ミルクを飲ませ終えると、俺は机を立ちトイレに向かった。
「あっ」
俺は廊下で茅野を見つけた。
(気まずいな……)
俺は無視をしながら廊下を歩いた。茅野も俺に気付いたようだが目でおってくるだけで話しかけては来なかった。
そして放課後………俺は職員室へむかう。
職員室に入ると桐冬先生が立っていた。
「来たわね」
「来たくなかったですけど……」
俺は早く要件を済まして帰りたいと思った。それと同時に今日は早くに帰れそうにないとも思っていた。
「職員室に来てもらって悪いけど……これから校長室に行くわよ」
「はい」
何となくだが、予想はしていた。高校生で赤ちゃんを連れているというのは大変な事だと分かっているから。
俺と桐冬先生は校長室に向かう。
校長室、入った瞬間から緊張した空気がピリピリと漂っていた。目の前の校長先生からは桐冬先生とはまた別の威圧感を感じていた。
「さて……早速本題に入ろうか」
校長先生の声はとても重たかった。俺はあまりの緊張に唇を噛む。
「その赤ん坊はどうしたの?」
来たーーー!!!
俺は返答に迷う。拾ったといえば警察沙汰になる。俺の子と言えば…………退学だろう。別の言い訳は通用しなさそうだ。
「……………………」
黙秘、これが俺の答えだった。というより、返す言葉が出てこなかったのだ。
そして沈黙が長く続き、俺が耐えられなさそうになったとき校長先生が口を開いた。
「今、君が言いたくないならいいよこの件は保留だ」
その言葉に俺はめを丸くした。保留…………それは今の俺にとっては救いの言葉だった。
「しかし校長それでは!!」
桐冬先生は校長先生に反発した意見を問いかける。
「まあまあ桐冬先生、この件は喋れないときは絶対に喋れないと私は思うよ、彼の気持ちの整理がついたらまた話そうよ」
俺にはその時の校長先生が神様の様に思えてしまった。
「確かに、卒業まで話さないのは困るけどね」
「約束します、卒業までには自分で向き合って話しをつけます」
俺は校長先生が俺を信じてくれたと思った。ここで俺は決意した。
(高校生活の中で……この問題を解決してやる)
「…………」
桐冬先生は言葉を失っていた。これで本当に解決するのかと何度も思った。
話が終わり……俺はすぐに帰宅した。
(はぁ疲れた…………)
こんなんで本当に高校生活送りながら育児ができるのだろうかと不安になっていた。才波さんのこの愛らしい姿が唯一の救いだった。
制服から私服に着替えると俺はすぐにぐっすり眠ってしまっていた。
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