第2話 鏡勇気は子連れ高校生になりました。
次の日勇気は悩んでいた。
(高校どうしよう…………)
ただでさえ昨日の事が夢のように思えてしまうのに、そこには現実的な問題があった。学校に連れていくという選択肢は無い。色々と面倒なことになるに決まっている。家において行こうにも、見つかったときに、虐待の扱いをされてしまう。警察に行こうとも考えたが、雷が落ちて赤ちゃんになったと言うことを誰も信じてくれないに決まっている。そしてこの考えに至った。
(今日は学校を休もう…………)
取り敢えず考える時間が欲しい、そう思った。
オギャアオギャアと勇気が必死に頭を悩ませている間も才波さんは元気に泣いている。
(ずっと泣いてるな…………もう慣れてきた)
ピンポーン
インターホンの音が部屋に響き渡る。今の俺には恐怖を感じてしまう音だ。
(げっ! もしかして…………)
「勇気~何してんの遅刻するわよ?」
やっぱりそうだった。
あいつだ…………この状況に一番面倒な奴が来てしまった。
「愛梨か…………」
茅野愛梨、俺の幼馴染みで空手部の部長だ。
「なんか、変な泣き声が聞こえるんだけど…」
(しまった! 才波さん早く泣き止んでくれ~)
「わりぃ。今日は体調が悪いから、ゴホッ、学校休むわ、ゴホッ」
必死に誤魔化そうとする俺だったが逆効果になってしまった。
「ちょっと!? 大丈夫…………あれ? 鍵が開いてる」
(しまった!! 昨日鍵かけるの忘れてた)
あまりにも予想外なことが立て続けに起こったので日常的な動作の一つを忘れていた。
「入るわよ?」
ーー間に合わない!
「………………」
「………………」
ヤバい見られしまった、一番面倒なこいつに……。
オギャアオギャア、才波さんは泣いている。
「勇気…………何その赤ちゃん?」
「えっと……これはその……拾ったんだよ」
……しまった。
言ってはいけないことを言ってしまった。焦りでついつい言葉が漏れてしまった。
「まさか…………誘拐?」
ほらこうなる予想はしてたんだ、うん。
俺は冷や汗をだらだら流す。そしてこれから地獄が訪れる。
「勇気のバカァァァァーーーーーー!!」
ぐほぉぉぉぉ!!?
オギャアオギャア、才波さんは泣いている。
俺の股間に正拳突き
○に代わってお仕置きよ(^-^)
(^-^)じゃねえーーーーーー!!!
予想以上の痛みが股間に押し寄せる。
男の急所に一発で正拳突きを喰らわせるとは……さすが空手部部長。
「最低。私の初恋返してよ!!」
(はっ? 何いってるの?)
「勇気なんて、捕まっちゃえばいいんだ!」
何故か大泣きしながら俺の家を飛び出していった。すごい傷を幼馴染みにえぐられた勇気であった。
オギャアオギャア、才波さんは泣いている。
(それにしても………泣き止まないな才波さんどうすれば泣き止むんだ?)
俺はスマホを取り出し泣いている原因を調べる事にした。
「お腹が空いているか…………」
多分これだろう、昨日赤ちゃんになってからそういえばなにも食べさせて無かった。
「ミルクでも買ってくるか…………」
しかし、一つ問題があった。
この辺りにある育児用具を売っている店は俺の属している高校の目の前の通りに存在する。他の店に行こうとしたら、電車に乗ることになる。
「仕方ない行くか……」
さすがに電車に乗っていくのは色々と問題なので学校前の通りに存在する店に行くことにした。
俺は今建物の物陰に隠れている。何故隠れているのかというと、まだ時間的に登校している奴がいるからだ。といってももう登校終了の時間に近かったので、今登校しているのは毎回ギリギリに来る奴だけだった。
幸いにも俺の知り合いでこの時間に登校している奴はいなかった。生活指導の先生が校門の前に立っているが、俺の行こうとしている店はあの位置からでは見えないはずだ。
「よし…………行くか」
思えば俺は今結構スリルのあることをしている。小さかった頃に見ていた逃走中を思い出す。
俺は建物の物陰からでて才波さんが怖がらない程度にダッシュで店の前まで直行した。
「よしっ着いた…………」
店に着いて俺は安堵する。
「まずはミルクだな」
ミルクにも色々な種類があったが俺は一番低価格のものを購入した。
他にも赤ちゃん用カラカラする玩具など子育てに必要そうな物を購入した。
(早速、ミルク飲ませるか)
まだ才波さんは泣いていた。さすがに泣きすぎだろうと思った。泣き始めてからもう1時間が過ぎ去ろうとしていた。
ミルクは購入後お店で飲まさせてくれたので助かった。
「泣き止んだか……疲れた」
ミルクを飲んだら才波さんは眠ってしまった。
(やっぱり可愛いな)
赤ちゃんになったとはいえ才波さんの面影はきちんとあった。これはこれで特有の可愛さがある。
「ふぅ……」
俺はため息をつき家に帰ろうとして店を出たその時!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
(なんだこのドラ○エで魔王と戦っている時のような威圧感は!?)
まさか…………と勇気は恐る恐る振り向く。
「何してるんだこんなところで学校は?」
ーー!!!!!!!
「桐冬先生…………」
そこには眩しいくらい笑顔の大魔王がたっていた。
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