第1話才波朝日が赤ちゃんになりました
「なんか暇だな…………」
学校でなんてことない言葉を漏らす俺は鏡勇気。
何処にでもいるような普通の高校生だ。
今日は新学期、2学期の初日席替えがある日
俺は叶わぬ願い事をしながらかすかに心を踊らせていた。
(席替えで才波さんの隣になれたらなあ……)
才波朝日、勇気のクラスメートで学年一と言われるほどの美少女だ。白く透き通った肌に艶やかでさらさらしていそうな黒髪、スタイルが良くて何よりも性格が優しくて素直で抜群に良い。
勇気も才波さんに心を奪われたうちの一人だった。
才波さんと隣の席になる。このクラスの男子なら皆期待しているだろう。もちろん勇気も期待をしていた。
そして席替えが始まった。俺は才波さんより出席番号が前なので先にくじを引く。
(……36番か)
窓側の前から3番目の席だ。別に俺は自分の席の場所はどこでも良かった。問題は………
(才波さんの席の位置だ………………)
才波さんの番になった。俺は、才波さんの方へ意識を向けた。それは俺だけではなくクラスの男子全員だった。
(才波さんの席は………)
俺の心臓の鼓動が早くなる。
才波さんは引き終わると俺の方へ近づいてくる。
ーーーーーーーー!!
(まじか…………)
才波さんはなんと俺の隣の席になった。
期待はしていたが、まさか本当に隣の席になるとは思わなかった。実際になってみるとどうすれば良いか分からない。
「えっと…………よろしくお願いします」
先に口を開いたのは才波さんだった。
「よろしく…………」
(なんか才波さんの顔が赤くなってないか!?)
時間が経つにつれて彼女の頬が紅色に染まっていく。
それにつられ俺の頬も染まっていく。
(まさか…………いや。そんなはずナイナイ)
俺の中で駆け巡った思考を必死にかき消した。
(冷静に考えてみろ………だってさっきの挨拶が初めてだろ、才波さんと言葉を交わしたの)
「あの…………大丈夫?」
「うわぁ!! ……えっと大丈夫」
「それならいいのですけど…………」
さりげなく気遣いできてすげーな、やっぱり育ちがめちゃくちゃ良いんだろうなとそう思った勇気である。
結局才波さんと話したのは席替えの時だけで1日が終了した。終了したといっても今日は始業式なので午前だけで学校は終わりだ。しかし、学校が終了する時点で才波さんとは別れるので1日が終了した気分になっていた。
「なんか……腹へったな飯でも買って来るかな」
その日、雨が降っている夜に俺はコンビニへ訪れた。鏡勇気は高校生で一人暮らしをしていた。といっても、親は海外に転勤になったので俺だけがこの家に残っていただけた。ちゃんと家賃や生活費はもらっているのである程度裕福な生活はできていた。しかし、勇気は生活力がほぼなかったので不健康な食生活を送っていた。だから、コンビニにいくことが毎日の日課となっている。
コンビニの帰り道のある交差点で見慣れた姿を目にした。
(あれ、才波さんじゃ…………?)
なんと才波さんが傘をささずに交差点の信号に立ち止まっていた。
その姿は暗いが透き通っていて相変わらず綺麗だった。
しかし、青白くいかにも風邪を引きそうな状態でいた。
勇気はすぐさま才波さんに駆け寄った。
「どうしたんだよ…………こんな雨のなか立ち止まっていたら風邪ひいちまうぞ」
そんなことを良いながら傘を差し出す。
「えっ…………?」
顔を上げた才波さんの目はとても潤んでいて、今にも滴がこぼれ落ちそうだった。
(才波さんのこんな顔初めて見る…………)
俺は圧倒されていた。かける言葉をみつけられないでいた。
「えっと…………鏡くん?」
勇気にやっと気づいたのか、今まで青白かった肌がどんどん赤に染まっていく。
「ここにいたら風邪引く。取り敢えず近いから俺の家に来い」
「えっ…………!?」
動揺する才波さんを無視し俺は才波さんの腕を強引に引っ張り俺の家へ向かった。
あまりにも強引な態度をとった勇気だが才波さんは抵抗をしなかった。
俺は家に着くと早速風呂を沸かし、才波さんにタオルとクローゼットに閉まってあった小さめの服を渡した。
「風呂に入ってそれに着替えて」
「えっと…………はい」
才波さんは呆然としながら風呂場に向かっていった。
はっ………………!!
(なにしてんだ俺は!?)
さ…………才波さんを強引に家に連れ込んで風呂に入らせた。考えたらとてもヤバいことをしていることに気がついた勇気は机に頭をゴンとぶつけた。
(やってしまった……才波さんに嫌われたかな俺)
隣の席になって青春を期待し始めた勇気だったが、今の状況に高校生活の終わりを感じていた。
鏡勇気は思い立ったらついやってしまう性格だった。今にも倒れそうでずぶ濡れになっていた才波さんを見て、放っておけなかったのだ。
しばらく机の上に頭をのせながら絶望に浸っていると、扉が開く音が部屋に響き渡った。
「あの…………お風呂貸してくれてありがとうございました」
才波さんはちょっと大きめの俺の服を着て覗いている。
俺は絶望に浸っていたが、その愛らしい見た目をみてそんな思考は飛んでしまった。
「すげえ…………」
口から言葉が漏れるほどその見た目は可愛らしかった。一見小動物のような可愛らしさだが髪が濡れていることによっていつも以上に艶っぽさがでていた。更に小さめの服を選んだつもりが、才波さんにとっては少し大きく、見た目をいろんな意味でパワーアップさせていた。
「えっと……あの……その………」
才波さんは困惑していた。そりゃそうだ。突然クラスメートの家に強引に連れてこられて、お風呂に入れられたのだから。
「…………あ。くつろいで……」
困惑しているのは勇気にとっても同じことだった。というより焦っていた。微妙な空気が流れていて、居心地が悪く感じてしまう。
「……なんであんな所に立ってたんだ?」
聞いちゃダメだとなんとなく分かっていたが、居心地の悪さのせいか、いつの間にか、聞いてしまっていた。
「えっと、ケンカをしてしまって…………」
ボソッと呟くと才波さんは口を閉じてしまった。ケンカをしたと言うのは親とだろうか?
(才波さんも喧嘩とかするんだな…………)
勇気は才波さんをなんでもできる完璧な美少女だと思っていたので意外な気持ちで居た。
まだ聞きたいことは沢山あったが今の状況が状況なので聞く事ができなかった。
少しの沈黙の間勇気は頭を回転させ、才波さんに問いかける内容を考えた。
「ここに連れてきた俺が言うのもなんだけど、これからどうする?」
そしてたどり着いた答えがこれからどうするかというものだった。
「あの…………帰ります」
「大丈夫か? 喧嘩して出ていったんだろ家」
「大丈夫です…………はい」
全然大丈夫そうな顔をしていなかった。
「しばらく家に居ても良いんだぞ。今は俺一人で暮らしてるから」
言葉を発した後に自分が何を言ったのか気付き、恥ずかしくなっていた。
(これって才波さんに同棲してくれって言っているようなものじゃないか?)
「や……本当に帰ります。」
俺の同棲(?)の誘いをすぐに才波さんは拒否した。
(まあ…………そりゃそうだよな)
「ここに居たら……恥ずかしくてたまらないから」
頬を紅色に染めながら言った才波さんに俺は戸惑っていた。
「えっ?」
俺の中に色々な感情が込み上げてくる。
(俺…………やっぱり嫌われてる?)
「優しい方なんですね……」
また才波さんは口を開いた。
「そうか?」
まさか優しいと、才波さんに言われるとは思いもしなかった。ひとまず、嫌われていなかったようなので俺は安堵した。
「帰るんだったら俺も一緒に行くよ、一人じゃ不安だろ?」
「そんな……悪いですよ」
時計は9時を回っていた。流石に帰らせないと不味いだろう。
「いや……一緒に行く。まだ雨ふってるし、また交差点で立ち止まって風邪をひく可能性も0じゃないからな」
「分かりました……お願いします」
才波さんも断念してくれたようだ。素直に諦めてくれて良かったと思う。
「じゃあ行くか」
流石に相合い傘は恥ずかしかったので、傘を2本持ち、片方を差し出した。
エレベーターを降りて一階へと向かう。少しの沈黙に俺は息を呑む。
「本当に良かったのか?」
「ええ……」
彼女は俯きながら恥ずかしそうに言う。
「かくまってくれてありがとうございました」
「いいよお礼なんて……」
俺は目線を反らして、頬をかきながら、照れ臭そうに言った。
「これではっきりしました、わたしは貴方の事が好きです」
あまりにも意外な発言に俺は目を丸くした。
「えっ?今、何てーー」
ピカッッ!!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
突然激しく音とともに才波さんが光だした。
俺は眩しくて目を閉じた。俺の思考が停止する。
(何が起きたんだ!?)
ゆっくりと目を開けるとそこにはーーーーーー
才波さんの姿が無くなっていた。黒い焦げた跡をみて俺は察ッすることができた。
才波さんが光ったんじゃない…………。
落ちたんだ。雷が。
「えええええええええええ!!!!?」
俺はあまりにも訳のわからない事が起きたので驚きを隠せないで居た。何故か幸いにも俺の貸した服は焦げていなかった。
(そうじゃなくて、才波さんはどうなった?)
「オギャアオギャア……」
何故か俺の服の中から泣き声が聞こえた。
(何だ……?)
俺は服をかき分け中を覗いてみる。
ー!!!!!!?
そこには赤ちゃんが居た。とれも可愛らしい赤ちゃんが元気良く泣いていた。
…………才波さんが赤ちゃんになりました。
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