第5話 私刑と自粛警察

 私刑は、凶悪犯罪をおこなったとされる被疑者やそれに関係する人、有名人等特定の個人についての噂を流布したり、ネット上で情報を発信する法によらない私人による制裁のことだよね。

  例えば、まとめ系サイトは多くの人に閲覧されるような記事を書くことで収入を得ているから、他人の文章を引っ張ってきたり、話題のことについて真偽不明の情報を載せたりすることが多いんだよ。

  だから、常磐道での煽り運転をした車の同乗者について、各まとめ系サイトが過剰な情報合戦を始め、全く関係のない人の個人情報を晒して名誉を傷つけたにもかかわらず、訂正も謝罪もなく責任を取らないことで問題になったのは記憶に新しいかな。


 自粛警察は、コロナにおいて政府からの自粛要請に対して自粛をしない人や協力的ではない店舗などに対して強い言葉を投げつけたり、暴言を吐いたり、張り紙をしたり、特定の罹患りかんした人についての個人情報をネット上で発信しているよね。

  例えば、自粛警察は不安に煽られてや、正義感から引き起こされる部分が大きいけど、中には不安を煽ってみたり、動画で収入を得ようとしたりしている人もいると思うよ。

  最近だと、営業自粛をしないパチンコ店に並ぶ行列に対して「帰れ!」「来るな!」と叫び、動画撮影をしていた事で警察官が出動するトラブルがあったばかり。


  自粛警察をする側からすると、私刑は凶悪犯罪の犯人や関係者には制裁にすべきという正義感、自粛しない人や協力的ではない店舗などに注意してやめさせなければならないという正義感によるものだとしても、受ける側からすると不特定多数の人間から直接的、間接的に攻撃を受けている点では私刑リンチであり、嫌がらせだと思う。

  以前からある私刑も新しく出てきた自粛警察も言葉は違うけど、やっていることは同じだと思うな。それに、私刑は当事者とは無関係な人であり、自粛警察をする人は自粛している人の一部であり、されど、どちらも同じ国民なんだよなぁ。


  それから、自粛警察という言葉が生まれたのは、SNSを含めたあらゆるメディアにおいて面白おかしく取り上げるための、誰にでもわかりやすいラベリングが必要だったからじゃないかな。

  匿名性が高いSNSやまとめ系サイトによる発信では責任者の特定が難しかったり、時間がかかったりする上に責任を取らされたという事例が少ないのと比べて、話題を取り上げて盛り上げ、収入や注目を集めやすいからね。ローリスク、ハイリターンと簡単に考えている人が多いからと思う。

  何らかの利益を得たい人によって作られたところが大きいと思ったんだ。


 そして、自粛警察をする人はもちろん同じ日本に住む人であるということは確かだし、このコロナ禍の中で自粛をしている人たちの中には、正義感が強くきちんと守ろうとする人、「自粛せずにコロナ罹患しても自己責任だよね。」と無関心な人、不満はあれど仕方ないと自粛する人と様々。

  その自粛している人の一部が、マスメディアなどを介して自粛しない人たちが取材を受けているのを知り、自粛しない人や協力的ではない店舗に対しての不満が募っていったと思うのね。


 また、「自粛しなくても罰則がないから問題ない。」という理由で遊興目的の外出する人や「子供がストレスになっているから。」と子供へ責任転嫁するオカシイ親が外出したり、協力的ではない店舗の「家賃などの経営費の問題がある。」「来店するお客さんがいるから仕方がない。」という発言が開き直っているように映り、正義感の強い人にとって不満となって更なる正義感を強め、コロナが広がらないようにと思っての行動が徐々にエスカレートしたように感じるよ。

 ちょっと前のことだけど、GW中の外出自粛時期にマスクをしていない親子が有名なYouTuberの自宅のチャイムを何度も鳴らしてたらしい。母親が子供にけしかけてたらしく、親を注意しようとするが、親は物陰に隠れて出て来ないって怒ってたけど、自粛のストレスがこんな親子を生み出すほどに狂ってきているのかな?


 もし政府が自粛しない人に対する罰則を作れば、自粛警察という国民同士の衝突や医療崩壊は落ち着くと思うけど、経済を回す人がいなくなれば落ち込むと思う。それに、アメリカや中国、韓国が徐々に経済活動を開始し始めていることもあり、罰則を作って経済活動にも制限をかけるより、少しでも経済を回せる人に回してもらい、経済活動を続けようという政府の方針だろうけど。

  また、衝突が起きても政府に何かしらの責任を問われたり、「批判が向くことはない。」「批判されてもどうにでもなる。」と国民に対して気にも留めていないのかもしれないね。


 まとめると、「自粛警察」においては、政府の後手に回った対応により求心力を失った結果、国民は先の見えない不安になってる。そして、誰でも情報を使ったビジネスが発達してるため、玉石混合の情報が氾濫し、正しい情報を掴むことが難しくなっての無知が、コロナ禍というきっかけに自粛をする人の一部が自粛しない人に対して法的手続きを経ない私刑などの一連の迫害、隣人同士のトラブルが起きてしまった。

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