第76話 守護魔石

「さて、女性を虐める趣味はないんだが……」

「ふん、勝ったつもり? 笑わせないでよね」

 マリンダは憎らしげに俺を睨んだ。


「仲間を傷つけた者は許さない」

 俺はポーション銃を向け、パラライズポーションを撃った。


「それは何かしら? ベルカの魔導具?」

 平然とした顔でマリンダが訊ねる。


 なぜ動ける……?

 確かに今、パラライズポーションを撃ちこんだはず。


「フフフ、ハハハハ! その顔……、思い通りにならなかったようね?」

「そうか、なら……これならどうだ?」


 俺はレアポーション『コカトリスの息吹』を撃った。

 相手に石化異常を与えるポーションだが、効果は一時的なもので、リカバリポーションで治すことができる。


「ふふ……それだけ?」

 やはりマリンダは平然としている。

 

 これは何かあるな……。

 状態異常で捕まえようと思ったが、仕方ない。


「クロネ、殺さずに捕まえられるか?」

「おっけー、任せといて」


 クロネが拳を鳴らし、軽くその場で飛ぶ。


「まとめて眠りなさい!」


 マリンダが小さな白い玉を頭上に放り投げた。

 玉が破裂し、真っ白い煙が立ち込める。


「オホッ! オホッ! な、何よこれ……れ? んごー……」

「ク、クロネ⁉」


 突然クロネが倒れ、イビキをかき始めた。

 クソッ! 睡眠薬か?


「あら? 貴方は状態異常に耐性があるのかしら?」

「昔から寝付きが悪いんでな!」


 ――サンダー・ポーション!


 返答ざまに距離を取りながら、サンダー・ポーションを三発撃ち込む!

 が、マリンダは素早く身を躱した。


 くそっ! 意外に素早い!

 走りながら、クロネにリカバリポーションを撃つ。


「ん……あれ?」

「クロネ!」


 併走するマリンダに、鈍化の効果を持つ『スロー・ポーション』を撃ち込む。

「な……⁉」


 ガクッとマリンダがスピードを落とした。

 そこに猛スピードでクロネが突っ込む!


「つっかまえたー! ほい!」

 手刀を首に落とすと、そのままマリンダは崩れ落ちた。


「やれやれ、こんな時間がかかるとは思わなかったよ」

「殺していいなら簡単なんだけどねー」

 さらっとクロネが怖いことを言う。


「そ、そうか、それより……」

 俺はマリンダを木に凭れさせ、持ち物を調べた。


「これは何だろう?」

「んー……ペンダント?」

 クロネがマリンダの胸元から、ぼんやりと輝くペンダントを取り出した。


「これは守護魔石かな……? そうか、これに麻痺耐性が付いていたのかも知れない」


 俺はクロネからペンダントを受け取ると、魔法収納袋にしまった。


「どうすんのこの女」

「そうだな、拘束して屋敷に連れて行くか?」


 その時、リターナとベルカがやって来た。


「二人とも、大丈夫だった? あら、余計な心配だったみたいね」

 クスッと笑うリターナ。


「あ、あの、すみません、わたしのせいで……ご迷惑をかけてしまって」


「何言ってんのよ」

「こんなの迷惑の内に入らないよ」


「ありがとうございます、うぅ……」


 ベルカは涙を溜めた目を向ける。


「それよりベルカ、これ何かわかるか?」

 俺はさっきのペンダントを見せた。


「あ! それはわたしが造った守護魔石です、姉弟子に取られてしまっていたので……」

「そうか、なら良かった、ほら」

 ベルカにペンダントを渡し、

「で、どうする? 流石に殺すのは気が引けるんだが……」と皆の意見を求めた。


「あの、わたしも命を奪うのはやりすぎだと思います……」

「私はどっちでも」とクロネ。


「――なら、泳がせましょう」


「泳がせる?」

「ええ、彼女を操っているのが誰か、まぁ、おおよそ見当は付くけど、きちんと知っておくのも大事だわ」

 リターナの言葉に、皆が頷いた。


「決まりね、後は私に任せて、適当な場所で解放するわ」


「一人で大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、逃がすだけだもの」


「わかった、じゃあ先に屋敷に帰ってるからな」


 そう言うと、リターナは「ええ」と小さく手を振りながら微笑んだ。


「は、早く帰ってきてくださいね」

「姉さん、早く終わらせて一杯やろうねー」


 俺達はリターナを置いて、先に屋敷へ戻った。

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