第66話 名工トッテル

「それはその……」


 ベルカに打ち明けるべきか、それとも……。

 いや、迷うことはない。


 リターナがベルカの素性に問題はないと言った。

 ならば仲間として、俺も覚悟を決めるべきだ。


「俺は、ポーションを自由に作る事ができる」

「はい、それは……錬金術師で――」

 ベルカの言葉を遮り、俺は続けた。


「違うんだベルカ、俺はどんなポーションでも瞬時に作れるんだ」

「え……?」


「いいか? ちょっと見ててくれ」


 俺は魔法収納袋から水の入った瓶を取り出した。


「中身を確かめて欲しい、水が入ってる」

「あ、はい、確かに水です」


「そうだな、何のポーションを作って欲しい?」

「えっと……、じゃあ、『トッテルの光沢液シャインポーション』とか、いやぁ、これは流石に無理ですよね?」

「ほら」

「え?」

 俺は瓶をベルカに渡す。

 ベルカは恐る恐る瓶を傾けて、ポーションを一滴手の平に落とした。


「ぬ、ぬぁんとぉーーーーーっ!!!」

 わなわなと震えながら、手の平を見つめている。


「こ、これは……ほ、ほんもの……、でも、どうやって……」

「はは、不思議だろ? これが俺の職能、ポーションマスターの能力さ」


「あわわ、し、信じられない……でも、こ、これ、もらってもいいですか?」

「いいよ、いくらでも作れるからね」


「ぬはぁーーっ⁉ め、名工、トッテルの光沢液が、いくらでも……」

「それ、凄いの?」

 クロネが横から訊ねた。


「トトト、トッテルと言えば、歴史上、最も有名な伝説の魔導技師ですよぉっ⁉ その技術はもちろん、使用していた道具類は現在も魔導具作りの基礎として普及しています! 中でも消耗品のオイルや薬品類は、門外不出で直系の工房にしか伝わっていませんのことーっ!」

「ま、まぁまぁ、落ち着いて? で、その光沢液が本物って……どうしてわかったの?」


「わたしが居たベルクカッツェ工房は、トッテルの直系から枝分かれした工房でして、光沢液の製法だけは伝わっていたんです。当然、数えるくらいしか使ったことはありませんが、匂いや粘度、色合い、スッと馴染む感触、間違いありません。ちょっと見てて下さい」

 ベルカはポーション銃を取り出して、ボディに光沢液を塗って布で磨いた。


「「おぉ!」」


 銃に上品な輝きと艶が!


「全然仕上がりが違うんですよ……美しい。もちろん、防腐効果や耐水効果もあります」

「へぇ~、なるほどねぇ~」


「いや、本当にすごい……、え⁉ え? ちょ、ちょっと待って下さい! え、やだ、どうしよう? も、もしかして……クラインさん、トッテルシリーズ全部作れちゃうって、そんなことあります?」

 少し震え声でベルカが訊ねてきた。


 瞬間的に、いくつかのポーションが脳裏に浮かぶ。

「あぁ、んー、作れるよ、全部かどうかはわからないけど……、5~7種類くらいはそれっぽいのがある」


 答えた瞬間、ベルカが俺に抱きついてきた。


「ちょ⁉」

「クラインさん! 愛してますぅーっ! わ、わたし、もう、クラインさん無しじゃ生きていけません!」


「ちょっとベルカ? そんなポーションのひとつやふたつで大袈裟じゃない?」

 やれやれとクロネがベルカを俺から引き離す。


「うぅ~、すみません、取り乱しました……。でも、大袈裟じゃないですよ、わたしにとっては、魔導具作りが人生の全てなんですっ!」

「あ、うん……そうなのね」


「じゃあ、一通り作っておくから、足りなくなったり、欲しいものがあれば遠慮せずに言ってくれ」

「や、やったぁーーー!」


 ベルカは満面の笑みを浮かべ、飛び跳ねている。

 よっぽど嬉しかったのかな。


「村長~! 大変、大変~!」


 小さな犬獣人の男の子が走ってきた。


「どうしたの⁉」


「ハァハァ、村長……、だ、誰かが封印されてた魔獣を掘り返しちゃったみたいで……」

「え⁉」

「採掘所ね?」

「うん、フォウさんが呼んできてって」

「わかったわ、ありがとうね」

 クロネはクシャッと頭を撫でた。


「よし、丁度良い、実戦で検証してみよう。ベルカ、銃を」

「あ、はい、どうぞ」

「リターナは、村を頼む、魔獣は俺とクロネで対処する。あと、その子に美味しいお菓子でもあげてくれ」

「わかったわ」

「気を付けてください!」

「お、お兄ちゃんありがとー!」


「おっけー、じゃ、クライン、行くわよ!」


 俺とクロネは採掘所に向かって走った。

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