第65話 ポーション銃

 うーん、何というか罪悪感がすごい……。


 リターナはスキンシップのようなものだと言っていたが、あんなことがあった後で、この食卓は……。


「どうしたのクライン? さっきから全然食べてないけど?」

 クロネがパンをかじりながら言った。


「あ、いや、食べてるよ、うん! 美味いなぁ、このパンは!」

「クラインさん……それ、ハムです」

「え⁉ あ、ほ、ホントだ! あは、あははは!」


 慌ててパンを手に取り、ハムを挟んで頬張った。


「なーんか、怪しいわね……」

 クロネがじとっとした目で俺を見る。


「な、何言ってんだよ、普通だし!」


 ちらっとリターナを見ると、何事もなかったようにスープを飲んでいる。

 昨日の記憶が脳裏に蘇りそうになり、俺は慌ててポーションの名前を並べてかき消した。


「あ、そうだクラインさん、試作一号ができたので、後で試してもらえますか?」

「え、早いね? うん、もちろん。じゃあ、朝飯終わったら中庭で試してみよう」

「はい!」


「何か頼んでたの?」

「うん、ポーションを発射できるような魔導具をね」

「へぇー、面白そう! 私も見る!」

「じゃあ皆で見るかな、あ、えーっと、リ、リターナもどう?」

 やばい、変に意識してしまって口が回らない……。


「ごめんね、ちょっと疲れたから……もう一度休むわ」

「あ、そ、そっかー、うん、ゆっくりしてて。良かったらポーション作るし……」

「ありがと」

 意味ありげに微笑み、リターナは自分の部屋に戻っていった。


 ふぅ~、何とか乗り切ったか……って、え⁉

 見ると、クロネとベルカが怪訝な顔付きで俺を見ている。


「なぁ~んか変なのよねぇ……」

「ええ、同じく」


「ちょ、気のせいだって、あははは……」



 *



 中庭に出ると、ベルカがハンドボウの弓の部分が取れたような魔導具を取り出した。

 黒いボディがスタイリッシュで格好いい。


「これが試作一号、ポーション銃です!」


「「おぉ~」」


「へぇ~軽いわね」

 クロネがポーション銃を手に取って構えた。


「フレーム部分はネルリンガー産の黒王竹を使ってますので、軽量ですが強度も十分にあります」

「ふーん、ちょっといいか?」

 俺はクロネからポーション銃を受け取る。


「えっと、ポーションは、どこから入れれば良いのかな?」

「あ、はい、ここの穴に、この専用試験管を射し込んで貰えれば、一本で十回発射できます」

「なるほど、じゃあ早速試してみよう」


 専用の試験管に、自分の持っていたポーションを移して銃に装填した。


「よし、こんな感じかな」

「クライーン! これ撃ってみてー!」


 いつの間にか、クロネが少し離れた場所で、的代わりの木樽を置いて手を振っている。


「よーし、じゃあ、ファイア・ポーションを撃ってみるぞー!」

「おっけー!」


 俺はポーション銃を構えて、引き金を引く。

 ――プシュンッ!

 試験管の中にいくつかの気泡が上がったと同時に、木樽から真っ赤な火柱が上がった。


「わー! 燃えた燃えたー!」

「これは良い! 素晴らしいよベルカ!」

「そんなぁ、へへへ……」


 ベルカは照れくさそうに頭を触った。


「しかし凄いな……これで俺も……」


 この銃があれば、一体、黒魔術師何人分の働きができるんだ?

 試験管一本で10発の攻撃魔法が撃てる上に、属性は替え放題。

 しかも俺の場合、弾切れはない……。


「どうですか? 何か調整が必要な部分があれば言って下さい」

「いや、飛距離も十分だし、今のところ不満はないかな」


「なるほど、では引き金のテンションや、重量はどうですか?」

「そう言われると、引き金がもう少し軽い方がいいかな。重さは丁度良いね」


「わかりました、では少し引き金を軽くしておきます」

「ありがとう、よろしく」

 俺はベルカに銃を手渡した。


 ん、ちょっと待てよ?

 この銃があれば、俺じゃなくてもポーションが撃てる……?


 仮に一般兵に持たせれば、近接戦闘のできる黒魔術師が簡単に量産できてしまうじゃないか。

 量産すると凄い武器になるんじゃないのか?

 これを装備した軍隊とか、想像しただけで恐ろしいぞ……。


「なぁベルカ、こういう魔導具は出回ってたりするのか?」

「んー、どうでしょう……。私は見た事がないですけど、簡単な機構ですから既にあってもおかしくはないですねぇ」


「もし、これが誰かの手に渡ったとして……、複製するのは簡単ってことか?」

「ええ、たぶんすぐに作れますね」


 もしこれを奪われたとしたら、大変な事になりそうだぞ……。


「大丈夫ですよ、クラインさん。認証術式を組み込めば、クラインさん以外に使えないようにもできますし、他の人が持った瞬間に破壊することも可能です」


「そんなことできんの⁉」

「はい、やります?」

 思ったよりも簡単そうに返事をするベルカ。


「じゃあ、お願いできるかな、この魔導具はちょっと危険な気がする」

「わかりました! では、すぐに取りかかります!」


 と、そこにリターナが顔を出した。


「私も少しいいかしら?」

「あれー、姉さん、具合はもういいの?」

「ええ、もう大丈夫」


 リターナはポーション銃を眺めた後、自分の短剣を取り出して、ベルカに見せた。


「この柄の部分にポーションを仕込めるようにしたいの。で、例えば何処かを押したり握ったりすると、剣身にポーションが流れるようにできないかしら?」


 ベルカはうーんと空を見上げ、

「できますね」と答えた。


「「できるんだ……」」


「すごいわね……何でも作れるんじゃない?」

 クロネが感心したように言った。


「いえ、たまたまですっ、えへへ……」

「確かにその短剣……、パラライズポーションとか仕込んでおけば、かなり有用な気がするな」

「ふふ、でしょ? しかもポーションは全部クラインが作ってくれるしね」


 リターナの言葉を聞いて、不思議そうな顔をしたベルカが言った。


「あの……、クラインさんは、どうしてそんなにポーションを作れるのですか? 高位の錬金術師でも、パラライズポーションは簡単には作れないと聞いた事がありますし、先ほどのファイア・ポーションも、かなりの貴重品だと思うのですが……」


 あ……バレたかも?

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