第67話 Aランクパーティー
採掘所の前には、黒山の人だかりができていた。
「あ、クラインさん! こっちです!」
フォウさんが手を上げた。
「状況はどうですか?」
「はい、坑道に残っていた人達は、ほぼ避難が完了しています。ただ、何人か、血の気の多い冒険者が残っているようで……」
「魔獣はどんな奴?」
クロネがミスリルグローブを装備しながら聞いた。
「それが……、とんでもないのが眠っていたようでして、お二人は『ミルメコレオ』という魔獣をご存知ですか?」
「ミルメコレオ?」
ほぇ~っとした顔で、フォウさんを見つめるクロネ。
「身体の前半分は獅子、後ろ半分は蟻の魔獣です。今では殆ど遭遇しないと言われていますが……恐らく、かなり昔に対峙した冒険者が倒せなかった為に、封印をしていた個体かと」
「……討伐レベルは、どのくらいかわかりますか?」
「最低でも、Aランクパーティーでないと討伐は難しいでしょう」
「やったねクライン、やっぱ私達ツイてるわぁ~!」
クロネが拳をパンパンと叩くと、フォウさんが驚いた顔を向けた。
「ず、随分と余裕があるように見えますが……?」
「おっけおっけ、私達に任せといて~♪」
ひらひらと手を振り、クロネが坑道に向かおうとした、その時――。
周りの野次馬達が急にざわつき始めた。
「お、おい、あれ、白狼だろ?」
「嘘だろ、なんでAランクパーティーが……」
「聖槍使いのシリウスか? 俺初めて見たぜ!」
皆が口々に噂していると、海が割れるように人混みが分かれ、五人組のパーティーが姿を見せた。
「メンブラーナのギルドで、ここにミルメコレオが出たと聞いた。お前が責任者か?」
長い槍を持ったリーダー風の男が、フォウさんを見て声を掛けてきた。
フォウさんは俺をちらっと見て、
「村の責任者は別にいますが……、この場は私が任されております」と答えた。
「そうか、俺はAランクパーティーの『白狼』を率いている、シリウスだ。ミルメコレオは発見次第、即討伐対象の魔獣なのは知っているな? ギルドからも正式に依頼を貰ってる、これが依頼書だ」
フォウさんは依頼書に目を通し、俺に「本物のようです」と告げた。
「なんだ、そっちが責任者か?」
シリウスは面倒臭そうに顔を歪めた。
Aランクか何だか知らないが、高圧的な態度は少し気に食わないな。
だが、ここで、わざわざ揉める必要もないか……。
「ええ、クラインと言います。あのー、この討伐、お断りするわけには行きませんかね?」
白狼のメンバーの中から、一番小さい男が前に出て来た。
「何を悠長なことを言ってんだ⁉ 早く討伐しねぇと、手遅れになるぞ!」
「手遅れ?」
「ミルメコレオは単体でも繁殖ができるんです」と、フォウさんが横から説明をしてくれた。
「へぇ、なら、もうちょい待って、三体くらいに増やそうよ」
クロネの一言に、場が凍り付く。
「な……、何を言ってんだ、このお嬢ちゃんは?」
「悪いことはいわねぇ、怪我しねぇうちにお家に帰んな」
「遊びじゃねぇんだ? わかるな?」
盾役っぽい体格の良い大男が、クロネの頭に手を置いた。
――ま、まずい⁉
「あ、あまり、この子を刺激しな――」
――ドンッ!
クロネのボディブローが決まり、大男がくの字になって崩れ落ちた。
お、遅かった……。
「う……うご……がはぁ……⁉」
大男は何が起こったのか理解できていない。
目をパチパチと何度も瞬きして、冷や汗を流している。
「で、まだやんの? 一応、手加減してあげたけどさ?」
クロネが大男を見下ろす。
「フ、フランクを一撃だと……⁉ ウチの盾役だぞ……?」
「お、おい、シリウス! やられっぱなしじゃ面子が立たねぇぞ⁉」
「そうだ、周りを見ろ、皆見てるぜ」
残りのメンバー達がいきり立つ。
「やってくれたな、小娘! どうやったのかは知らんが、いいだろう……、この聖槍のシリウスを舐めた代償は高くつくぞ!」
シリウスが槍の石突で地面を突くと、槍先が三叉に分かれた。
「ふん、恥かいても知らないわよ?」
クロネが応戦しようとした時、周囲に尋常じゃ無い冷気が漂ってきた。
「な、なんだ⁉」
「何これ、さ、寒いんだけど……」
と言って、クロネが俺にひっついてくる。
「――皆さん、少し頭を冷やして頂けますか?」
見ると、フォウさんの背後に、氷の結晶を纏った精霊が浮かび、おびただしい冷気を放出していた。
「あれは……せ、精霊術か⁉」
「嘘だろ⁉ こんな村に
「この場での争いは、我が主リスロン様の指示により認められません」
「まずいぞ、アレを相手にすると無傷じゃ済まねぇ、討伐もあるし……」
白狼のメンバーがシリウスに言った。
シリウスが手を上げ、
「チッ! わ、わかった、わかったから、それを引っ込めてくれ」とフォウさんを宥める。
「いいでしょう」
フッと精霊が消え、肌を刺すような冷気が収まった。
「はぁ~、凍え死ぬかと思ったぜ、まったく……。だが、どう落とし前をつけるんだ? こっちは一人やられてるんだぞ?」
――と、その時、坑道から傷ついた冒険者が走ってきた。
「ひぃぃー! た、助けてくれ~!」
倒れた男に駆け寄り、ポーションを飲ませた。
「お? おぉ⁉ あれ、い、痛くねぇぞ? す、すまねぇ、あんた命の恩人だ!」
「いいから、何があった?」
男は周りをキョロキョロと見た後、
「ミ、ミルメコレオが増えやがった、今、二体だ! まだ、仲間が残ってんだ、頼むよ、助けてやってくれ!」と縋るように言った。
「聞いたか! 最早、一刻の猶予もならん、我ら白狼が討伐を開始する!」
シリウスが高々と宣言し、パーティーが坑道へ走り出すと、野次馬の冒険者達から歓声が上がった。
「ちょ⁉」
クロネの肩をつかんで、小さく首を振った。
「いい、先に行かせるんだ」
俺はポーション銃に試験管を装着しながら言う。
「何でよ⁉」
「あいつらじゃ二体は無理さ、それに、後から行った方が、有り難みが増すだろ?」
「なるほどね~……、おっけー」
相手は魔獣……、遠慮せずに済む。
出し惜しみ無しで戦ってみるか……。
俺とクロネは顔を見合わせてニヤリと笑った。
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