第29話 話し合い

 話し合いの日、ジオマイスター家の屋敷には、ギルドマスターのシバさんとリズビットさん、俺とクロネ、リターナが集まっていた。


 円卓の置かれた豪奢な部屋に、所在なさげな顔で皆の顔色を窺うグレイの姿があった。


「や、やあ、よくぞ来てくれた。掛けてくれたまえ」


 俺達は礼をした後、腰を下ろす。

 第一声はシバさんの一言から始まった。


「この度、領主代理であるグレイ様に、領民を代表し陳情に参りました」

「ふん、陳情とはまた大袈裟だな……、申してみよ」

「は、メンブラーナの税ですが、現在は、いささか厳しすぎるとの声が上がっております。無理を承知で申し上げますが、従来の税に戻して頂けないかと……」

「そ、それはだな……まあ……」

 グレイはしどろもどろになりながら、頭を掻いた。


「イグニス・スパロウ伯爵――」

「――⁉」

 俺の言葉にグレイが息を呑んだ。


 やはり、リターナの情報は正しかったか……。


「グレイ様、やはりスパロウ伯がこの重税の元凶なのですね?」

「う……」

「そ、それは本当ですか⁉ もしそうなら、我らが力に……」

 シバさんが身を乗り出した。


「……ど、どうにもならんのだっ! もはや、私にはどうすることも……」

「大丈夫です、ジオマイスター卿は助かります」

「な、なんだと? クライン、どういうことだ?」

 シバさんが血相を変え、詰め寄って来た。


「それは、グレイ様からお聞きになった方が良いかと……」


 皆の視線が集まり、グレイは観念したかのように口を開いた。


「父上は呪いに倒れた。色々な術士に診せ、解呪を施したが一向に良くなる気配すらなかった。その時だ、スパロウ伯から連絡があったのは……。伯爵は父上に掛かった呪いを解ける魔術師を紹介してくれると言った」


「呪い……」

「でも、呪いの類いなら、当ギルドにも解呪師がいます」

 リズビットさんが言うと、グレイは首を振った。


「それが、父上に掛けられた呪いは、かなり特殊なものらしいんだ。あのドレイクが言っていたから間違いは無いと思う……」


「ドレイクが……」

 シバさんとリズビットさんが顔を見合わせた。


「スパロウ伯は魔術師を紹介するには金がいると……。それも法外な金だ、払えるわけがない! そう答えたんだ。でも、税が上がれば自然とスパロウ伯の実入りも増えると言われてな……父上の容態も日毎悪くなる一方だった。父上さえ、父上さえ戻れば……全て元通りになると思ったんだ! 別に嫌がらせなんかじゃなかった……強い冒険者を集めたのも、父上に万が一があった時に伯爵を討つためだ!」

 机を叩き、グレイは悔しそうに顔を歪め俯いた。


「例え嘘でも、そのような事を口にしてはなりません!」

 シバさんが窘めるように語気を強めた。


「その必要はないですよ、グレイ様」

「――何?」


「復讐など必要ないと言ったんです。それに、話を聞いた限り伯爵に非はない。例え王に訴えたとしても、増税を選択されたのはグレイ様ご自身であって、スパロウ伯に強要されたものではないですから」


「し、しかし!」

「私が呪いを解きましょう――」


「クライン⁉」

 シバさんが心配そうな目を向ける。


「ですが、条件があります」

「……何だ、言ってみろ。本当に父上の呪いが解けるのなら、何でも聞いてやる」

「二つ、あります。まず、ひとつ――、この街の税率を戻してください」


「いいだろう、もう一つは?」

「私は東の森を開発し、街を造ります。既に何人かの方には協力も取り付けてありますが……、このジオマイスター領と不可侵条約を結んでいただけませんか?」


「ばかな! あの地は、我がエイワス王国とレグルス皇国との緩衝材とも言える場所。街など造れば余計な争いが生まれるかも知れんぞ⁉」

 シバが慌てて口を挟んだ。


「しかし、あの土地の所有者はリスロンさんです。エイワス王国でもレグルス皇国のものでもない」

「それは……、確かにそうだが……」


「仮に街が大きくなり、自然と両国の架け橋となれば商いも増え、両国にとっても実りを生むはずです」

「……まぁ、あの森を開発など実現できるとも思えんが……、いいだろう、不可侵条約でも何でも結んでやる。だが、忘れるな、結ぶのはジオマイスター家であって、エイワス王国とは関わりのないこと。後の判断は父上に任せる。いいな?」

 ただの馬鹿息子だと思っていたが、どうやら彼もいずれ良い領主になりそうだ。


「ありがとうございます。では、ジオマイスター卿の元へ案内して頂けますか?」

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