第19話 メンブラーナの酒場にて
リスロン商会から出ると、外はもう夕闇に包まれていた。
「だいぶ遅くなっちゃったな」
「でも、行った甲斐があったわね」
「ああ、これで大きく前進できる」
大通りを歩いていると、風に乗って賑やかな声が聞こえてくる。
「ねぇ、クライン、一杯やってかない?」
「お、いいね」
冒険者達の楽しそうな笑い声に誘われるように、俺とクロネは酒場の中に入った。
中はかなり広くて、大きな丸テーブルが20卓ほど置かれている。
何人ものメイド服を着た店員さんが、忙しそうに食事やお酒を運んでいた。
「あそこ座ろうか」
「うん」
空いているテーブルに、二人で向かい合って座り、店員さんに麦酒を二杯頼んだ。
すぐに可愛らしい女の子がやって来て、麦酒をテーブルに置く。
「あいよーっ、お待たせ~! お兄さん達、つまみはいかが? サクサクポテトに塩茹で豆、今日のイチオシは魚骨のカリカリせんべいだよぉ~!」
「えっ、美味しそう……」
「これだけじゃ寂しいし、何か頼もう」
「じゃ、私、魚骨のカリカリせんべい!」
「俺は……塩茹で豆をお願いします」
店員さんはニコッと微笑み、
「あいよーっ! すぐにお持ちしまーっす!」と言って、奥のカウンターの方へ小走りに駆けて行った。
「とりあえず、乾杯しようか?」
「うん」
「「カンパーイ!」」
喉を鳴らしながら麦酒を飲む。
「ぷはーっ!」
「さいこーっ!」
噂には聞いていたが、メンブラーナの麦酒はこれほどに旨いのか。
このクリアな苦味。やはり、水が綺麗なのも関係あるのかな?
この分だとワインも期待できる。
「いやぁ、しかし、クロネとこんな風に仲間になるとは……夢にも思わなかったよ」
「そうよね、偶然、私が深手を負って、偶然、クラインが置いてかれて……、何か一つでもタイミングが違えば、こうはなっていなかったと思うわ」
「なぁ、神様って信じる?」
「何? もう酔っ払ってんの?」
「違う違う、本気で聞いてる。ほら、
そう訊ねるとクロネは思い出すように目を上に向け、
「そりゃあね。でも、もう、あんまり良く覚えてないかなぁ。何となく冷たい印象だったのは覚えてるけど」と、答えた。
「あの声ってさ、やっぱり神様なのかな?」
「うーん、そもそも、神様じゃなかったら誰って話じゃない?」
「だよなぁ……てことは、俺とクロネが仲間になったのも、神様のお導きってことになる」
「はは、そんなのどっちでも良いわよ、どうせ先のことなんてわからないんだし、その日その日を楽しめれば、私はそれでいいかな」
そう答えて、クロネがジョッキを飲み干すと、店員さんが料理を運んできた。
「あいよーっ! お待たせしました! こちらが魚骨のカリカリせんべいで~す!」
「おぉ~!」
クロネの前に、こんがり揚がった魚の骨が盛られた皿が置かれる。
「はい、こちらは塩茹で豆! いつもより多いョ!」
塩茹でされた房付きの豆がどんぶりに一杯ぎっしりと詰まっていた。
「すごいボリュームだ……」
「あ、麦酒をあと二杯と、ワインを一本」
「あいよー! 少々お待ちくださいねー」
店員さんの後ろ姿を眺めながら、俺は塩茹で豆を口に入れた。
うん、程よく塩味が利いていて、酒の肴に丁度良い。
クロネも魚骨せんべいを、パリパリと美味しそうな音を立てて囓っている。
「うん、これ香ばしくて美味しい!」
「これも食べてみろよ、旨いぞ」
俺はクロネに塩茹で豆を勧めた。
「へぇ、なかなかイケるわね」
「ところで、さっきの話なんだけどさ、リスロンさんを信用して大丈夫かな?」
「ん? そうねぇ、悪い人には見えなかったけど……、ま、絶対裏切らない人なんていないんだし、気楽にいきましょ? もし、裏切ったら私がお仕置きしてあげる」
「そ、そっか、ははは……」
クロネが言うと洒落にならない。
でも、リスロン商会に居た、あの背の高い男の人……、凄腕の冒険者特有のひりつくような圧迫感といい、あれは只者じゃないだろうな。
まあ、クロネより強いとは思えないけど、今度会った時にそれとなく聞いてみるか。
「でも、森を領地にねぇ。そんなこと、本当に可能なの?」
そう訊ねるクロネの口から、魚骨せんべいが少しはみ出している。
「可能だと思う……、だけど正直言って、あの時は勢い任せな部分もあったんだ。それに、しがらみの無い土地なんて、この辺じゃ東の森くらいだし……」
「ふーん、まあ、私には良くわからないけど……、ま、駄目ならまた違う方法探せば良いんだから、そんな顔しないで今日はパーッと行くわよ!」
クロネが俺の口に魚骨せんべいをねじ込み、ワインを飲み干した。
「そ、そうだな、よーし! すみません、ワイン追加で!」
「あいよー!」
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