第10話 水の都・メンブラーナ
街の宿屋で一泊した後、俺はメンブラーナの街をクロネと歩いていた。
「ティティちゃん可愛かったねー」
「ああ、賢そうだし、あれは将来良いお嫁さんになるな」
「それはいくら何でも気が早すぎでしょ……」
クロネが俺をジト目で見てくる。
「そ、そうかな……あはは」
「あ! 見て、あそこじゃない?」
クロネが指す方向に、立派な石造りの建物があった。
看板には『メンブラーナ・ギルド』と書かれている。
大きな扉は両開きで開放されていて、大勢の冒険者達が引っ切りなしに出入りしていた。
「よし、行こう」
「うん」
中は大きなホールのようで、正面に長いカウンターが見える。
その奥には、恐らく資料などを収めた書架がずらっと並んでいた。
あの量からみても、このギルドが管理する冒険者の数が、いかに膨大かがわかる。
俺とクロネは一番少ない列の最後尾に並んだ。
「すごいね、人がいっぱい」
「そうだな、メンブラーナは街自体も大きいから」
「みんな強いのかな?」
クロネは目をキラキラさせている。
心配しなくても、大半の冒険者はクロネより弱いと思うが……。
「あ、順番だ、行こう」
俺達はカウンターに進み、受付の職員に会釈をした。
「どうも、フィガロさんの依頼で来たのですが……」
「はい、ではお掛けになって、少々お待ちください」
職員は眼鏡を掛けた綺麗な女性で、知的な雰囲気を持った人だった。
清潔感のある白シャツ姿は、ギルドの制服なのだろう。
というか、その……、今にもボタンが飛んで行きそうなんですが……。
奥の書架から職員さんが、何か資料のようなものを取って戻って来た。
目線を持っていかれそうになるが、俺は気合いで、何とか顔だけに集中するように務める。
「すみません、お待たせいたしました。私、担当させていただきます、リズビットと申します」
「よろしくお願いします」
「よろしくー」
リズビットさんは、クロネに向かってにっこり微笑んだ後、肩までの髪を耳に掛けた。
「こちらはフィガロさまから、昨日の夜にご連絡をいただいております、クラインさまと、クロネさまですね?」
「はい、そうです」
「そうだよー」
「では早速、ご説明させていただきますね。お二人には、まず、手付金として依頼報酬の二割をお渡しいたします、その後、依頼を達成した場合、手数料を差し引いた残り全額の報酬をお支払いします。また、未達成の場合ですが、不慮の事故、その他、やむを得ない理由での未達成の場合は、手付金の返還義務はございません。ですが、当ギルドが不当とみなした場合、手付金の返還義務、また場合によっては相応のペナルティをお支払い頂く可能性もございます」
ふーん、この辺はどこのギルドも同じなんだな……。
俺はポーション奴隷生活に
最初は勝手がわからず、戸惑ったことも多かったなぁと、少しだけ昔のことを思い出した。
「お二人ともに、冒険者登録はお済みのようですので、登録時に受けた説明とほぼ相違ないかと思います、何かご質問はございますでしょうか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「それでは、依頼内容ですが、こちらはケースランクDになります、食材の調達、東の森に生息するヒュージ・ケルウス一頭、期限は一週間後の正午まで。それと、こちらの依頼報酬は金貨3枚ですので、お渡しの際には、当ギルドの手数料三割、銀貨90枚が差し引かれます。最後に、こちらが手付金の銀貨60枚になります、どうぞご確認ください」
リズビットさんがスッと依頼書と銀貨を差し出した。
東の森……、ダンジョンからこの街へ向かう途中にあった森か。
大きそうな森だったからなぁ……迷わないようにしないと。
それにしても、三割とはかなり強気な気がする。
以前、冒険者をしていた街では一割だったはずだが、これも領主の采配によるものなのだろう。
まずは、依頼を一通りこなしてみないとな。
「こちら、最終確認ですが、依頼をご承諾なさいますか?」
「はい、お願いします!」
「それでは依頼完了まで、どうぞよろしくお願いいたします」
リズビットさんは微笑み、丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「リズさん、よろしくー」
クロネは人懐っこい笑みでリズビットさんに手を振った。
リズビットさんは笑みを浮かべたまま、
「お二人に、ヘルメス神の恩恵がありますよう――いってらっしゃいませ」と、言った後、クロネに向かってウインクをした。
ギルドを出た後、メンブラーナの商店街で、森へ向かう準備をすることにした。
「ふわぁー、リズたんギャップ萌え~」
「お前、どんどん素が出て来たな……」
「いいじゃん、これから長い付き合いになるんだしさ、ね? クラたん?」
「ク、クラたんはやめてくれ……」
「えー、可愛いのに!」
クロネは口を尖らせて、ぶーっと頬を膨らませた。
「それより、森に入るからな、カイルからいただいた物資だけじゃ心許ない。少し買い物して行こう」
「さんせー!」
俺は商店通りで、ポーションの空き瓶を大量に買える店を探した。
数件の道具屋を梯子した後、大通り沿いに『バロウズ商会』と書かれた看板を見つけた。
店前には古道具や雑貨が置いていて、冒険者風の客が物色している。
「ここはありそうだぞ」
「ほんとに? もう、めんどくなってきた……」
「ほら、そんなこと言わずに、入った入った」
俺は、だるそうに歩くクロネの背中を押す。
艶のある木製の扉を開くと、カランカランと鐘の乾いた音が響いた。
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