第7話 雷光

湖で休息をとった後、俺達は次階層へ続く扉の近くでセーフスポットを見つけた。


恐らく、カイル達のパーティーもここを使ったのだろう。

焚き火と、食事の跡が残っていた。


「ったく、相変わらずね」

「どうした?」

 クロネは転がった動物の骨を足でつついた。


「見て、ほらこの殆ど肉が残ってる食べ方はテッド、こっちの綺麗に骨だけ残ってるのがラズね」

「へぇ、良くわかるね? じゃあこれは?」


「ああ、それはカイルよ、食べ終わった骨が並んでるでしょ?」

 さも当然と、肩を竦めながらクロネは手頃な岩に腰を下ろした。


 俺も近くの岩に腰掛け、

「そのクロネの観察眼で、ゲートキーパーの弱点はわからないかな?」と訊ねた。

「ん~、強化ブレイクアウトして戦えるのは2~3分だし、とどめを刺せるかどうかは微妙ね」

「強化?」

「うん、ウチの家系の職能クラスは親父以外全員『格闘家』なの」


 以前、職能を選ぶときに読んだ参考書に書いてあった。

 確か、傭兵や護衛に向く職能だ。


「か、格闘一家か……それは凄そうだな。で、その強化ってのはどういうスキルなんだ?」

「ん? 単純に攻撃力が二割増しくらいになるだけだよ」

「二割……」


 なら、強化系のパワーポーションを使えばさらに攻撃力は上がる。

 ただその場合、副作用が心配だな。


 パワーポーションは力を引き上げるが、効果が切れた時に激しい倦怠感を引き起こす。

 効果持続時間は約20分、相乗効果が得られる時間は2分弱と見ておいた方がいいだろう。

 その2分で落とせなかった場合を考えると、リスクが高い。


「しかも、この階層のゲートキーパーは『トモンストゥルム』、巨大なナメクジみたいな奴なんだけど、私とは相性が

 クロネはべーっと舌を出した。

「……打撃耐性か?」

「そ、だからクラインの便利なポーションでさ、パパッとやっつけられるようなのない?」

「パパッとねぇ……」


 となると、攻撃力を高めるよりは、別の方向で攻めた方がよさそうだな。


「普通にパーティーで攻めるとしたら、どう攻める?」

「うーん、前衛は完全守備に回って、黒魔の雷属性魔法で落とす感じかな?」

「雷か……」


 ポーションはエクスポーションが一本、残り二本でサンダーポーションを作ったとしても、たった二度の雷撃では倒せないだろう。


 となるとやはり能力を向上させるポーションか、相手に状態異常をもたらすポーションを使うか……。直接攻撃できそうなポーションは、どれも黒魔法に比べると威力は劣ってしまう。


「あ~あ、私も親父みたいに『属性攻撃』が使えればいいんだけどさ」

「属性付与? 格闘家も使えるのか?」

「いや、拳聖の職能に覚醒しないと使えないから……、悔しいけど私じゃ無理ね」


 おいおい……『拳聖』って、体術系の中でも最高位の職能だぞ?

 クロネの親父さんは一体、何者なんだ?


「親父さん、凄い人なんだな……」

「強いのは認める……、むかつくけど」

 クロネは子供みたいに頬を膨らませた。

「はは、何だよそれ?」


 属性付与……待てよ、いけるかも知れない!

 俺は水の入った瓶を二本取り出し、一本はサンダーポーション、もう一本は、状態異常を回復するリカバリポーションを作った。


「えー! なになに⁉ 何を作るの?」

 クロネが黒目を大きくして覗き込む。

「俺の直感が正しければ……」

 リカバリポーションを一口飲んだ後、サンダーポーションも一口飲んだ。


「うっ⁉」

「ちょ、クライン⁉」


 お?

 おおお~???


 全身の皮膚がピンと張ったような感覚……、髪の毛が逆立っているのがわかる。

 両手を近づけてみると、パチン! と青い火花が散った。


「おぉ~! 来てる来てる! クロネ、どうだ⁉」

「すごい! 格好いい!」


 クロネは目をキラキラと輝かせている。

 よーし、試しに……。


「はっ!」


 俺は正拳突きを繰り出してみた。

 すると拳の周りに放電によるスパークが走る!


「で、できた……」

「すごいすごい! クライン! どうやったの⁉」

 クロネが興奮して、俺の周りをぴょんぴょん跳ねている。


「状態異常を防ぐリカバリポーションを飲んだ直後に、サンダーポーションを飲む、たったそれだけだ」


 まあ、リカバリポーションは超高級品、こんな使い方をしようなんて考えもしないか。

 それに、サンダーポーションを初めとする魔法攻撃が可能なポーションは、本来の作成法で作ろうとすれば、非常に高度な技術と練達した魔術師、それに入手困難な材料を必要とする。


 とてもじゃないが、俺以外に真似はできないだろうな。


「……じゃ、じゃあ湖で使ったファイアポーションなら?」

「多分、火属性が付与される、てかこれって……」


「ヤバくね?」

「ヤバいよね?」


 俺とクロネは同時に顔を見合わせると、二人でハイタッチをする。


「「よっしゃーーーーーーーーーーーっ!!!」」


「って……あがががががが!」

 突然クロネが痙攣した。


「お、おい! クロネ大丈夫か⁉」


 しまった、まだ効果が切れてなかった!

 俺は慌ててリカバリポーションをクロネに飲ませた。


「大丈夫か?」

「あ、うん、余裕。ちょっと痺れただけだし……」


 レベル0の俺でこの威力……これなら……。

 クロネはひょいと起き上がって、首をコキコキ鳴らした。


「クライン、任せて! 私がゲートキーパーを落として見せるわ!」


 俺達はゲートキーパーの待つ次階層の扉に向かった。

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