十六章 左之家

下駄箱を出て、すぐに家族が出迎える。帰りは左之家の両親もいる。

「沙紀~!制服姿が校舎とマッチしてて素敵よ!」

「お母さん。朝も似たようなこと言ってたじゃん。もういいよ。」

「何言ってるのよ、沙紀は何でも似合うだから何回でもいうわよ。糀君もこんにちは。春休み中は沙紀がお世話になったわ。これからもよろしくね。」

「いえいえ、むしろ助かりました。」

「それと、あなたがみk・・・えっと、琴ちゃんね。沙紀がね、とっても可愛くて賢い子だって、よく話してるのよ。これからも仲良くしてくださいね。」

「あ、はい。私も、さっちゃんといつも仲良くさせてもらって、えっと、ありがとうございます?」

「ふふっ、こちらこそうちの娘と仲良くしてくれてありがとうね。」

沙紀の母親は嬉しそうにしているが、俺の母親は心配そうに話しかけてきた。

「ねえ糀。そういえば思ったんだけど、糀が取り合いになったりして、仲悪くならないか心配なんだけど・・・。」

否定するにも目の前の親に失礼だし、肯定するほど自信過剰でもないから回答に困るけど、俺と沙紀が離れられない理由は・・・

「・・・むしろ、琴が俺と沙紀を引いて離さないから、たぶん大丈夫だよ。」

今後もきっとそうなる、なってほしいなって願いでもあるけど。

「こーじ。これからどうするんだ?」

左之家がいて、雨井家がいて・・・たしかに、どうするんだこれ?

あ、いや、てっきり、三人で帰るものだと思ってたけど、別に、というか入学式なんだし、それぞれの家でお祝いしてもいいよね。でも御虎は雨井家に付いてきて居づらいと思わないだろうか・・・。

「糀、答えないとみこちゃん不安になっちゃうでしょ。」

それはそうだ。考え出すと、考えたまま口を閉じる癖は、なんとかしたいな。

「あ、ごめん、どうしよっか。あんまり考えてなかったから・・・。」

とはいえ具体的な事も、どうするのがいいのかも見当がつかない。

悩んでいると、沙紀が動いた。

「はぁ。今更なによ。父さん。予約って増やせる?」

「はっはっは、もとより貸し切りだ。人が増えても変わらないよ。」

相変わらず沙紀父のやる事凄いな。一般家庭ならせいぜい焼き肉に行く程度だぞ。

「ありがとう!って言うわけだから、雨井家も来てくれない?入学祝いだから。」

これが他人なら、遠慮したりいくら払えばいいか聞くところだけど。

「あぁ、糀君も息子みたいなものだからね。一緒に来てくれると私たちもうれしいし、なにより、私たちにも祝わせてもらいたい。」

少し、かかる言葉が重いけれど、それはそれとして自分の両親を見る。どちらも、(行ってきなさい)という顔をしているが、

「あら、二人ともいらして下さいよ!もう長い付き合いなんだから、それに、これからのこともたくさんお話ししたいですし!」

人懐っこい沙紀母は、遠慮がちな両親をいつも飼いならしている。なのに利用したりしないのだから、娘がこうもお人好しになるのだろう。

「なに?」

「え、いや。何でもない。」

見てたのバレた。

「そうなの?」

御虎が、「長い付き合いがあるのか?」という疑問を四文字で投げてくる。

「そうよ。最初は知らないけど、物心つく前から一緒にいたから、私はてっきり兄弟だと思ってた頃もあったみたい。」

沙紀は笑って話すけれど、両親は少し困った顔で笑っている。沙紀さん、兄弟が夜、家にいないと叫んで泣いたことは話さないのね。

「こーじも?」

「ん~。俺はよく覚えて無いからなぁ。外出る度に、沙紀と遭遇してたから。一時期は、テレポートできたり、複数人いるんじゃないか。とか思ってたことはあったかも。」

「複数人かぁ・・・」

やめて御虎さん。真面目に考えないで。

「ささ、続きは車の中ででも。迎えが来たからね。」

沙紀父の言葉通りに、大きめの車が迎えに来ていた。

黒塗りの高級車・・・ではないけれど、一般的な車よりも高いだろうし、車内も広い。

そのまま車に乗せられて、すこしだけ昔話をしていたらあっという間に目的地についてしまった。


駐車場は社員用以外には乗ってきた車しか止まってなくて、外から見える店内も、店員さんらしい人しか見えない。

因みに、以前、同じように貸切りのお店に入らせてもらった時には、客が入ってから窓を閉めていたので、この窓は入店後に閉めてしまうのだろう。

子供に合わせた速度で店に向かう沙紀父の後ろを、みんなでついて行く。

お店に入ると、他の店員とは違う色の服装の店員さんが出迎えてくれて、責任者か店長かバイトリーダーかわからないけど、相変わらず沙紀父が大物であるという事を知らしめてくる。

指定された席・・・は特になかったけれど、各々で座席に着くと、すぐに料理が運ばれてきたが、なんだかすごくおしゃれだ。

配膳を終えた店員さんに、沙紀父が何かを言ってから、すこししてタッチパネル式の注文デバイスが、各テーブルに届いた。

「も、申し訳ございません。我々はてっきり」

「あ、謝らなくて結構です。事前に伝え忘れた私の責任ですから。会社もあなたも何も悪くありませんよ。」

落ち着かせるように沙紀父が言うのだけど、威厳があるおかげで少し怖い。

こういう時はいつも決まった流れがあって、

「お父さん、せっかくだし食べようよ。このサラダすごい美味しいよ。」

と、無邪気なふりをした沙紀が、畏怖している店員から沙紀父を誘導して離す。じゃないと店員さんがずっと謝り続けるから。

「お、そうか、じゃあ早速食べよう。店員さん、これからも頑張ってください。」

「は、はいぃ。」

そそくさと引っ込んでいった店員さんは、ちょっとかわいそうだった。

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黒兎と日常 埴輪モナカ @macaron0925

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