十五章 入学式
入学式前から波乱だったけど、そのあとすぐに担任の教師が来たおかげで、俺も御虎もいろいろ追及されずに済んだ。明日からは覚悟しなきゃいけないかもしれないけど。
「なあなあ。入学初日から惚気全開なんてすごいな。」
廊下を並んで移動中、隣で歩いていた男子が絡んできた。面倒な。
「色々あって懐かれてるだけだから、そういう絡み、やめてくれ。」
今後のことを考えてイライラしていたのか、少し無愛想な口調になってしまった。まあ、内容がそのことだしいいか。
「悪い悪い。俺、遠くから来ててさ、仲良くできそうな人探してたんだ。これからよろしくね。」
素直な人。か、そんな印象なら、さっきの罪悪感が増えてきちゃったな。
「態度悪くてごめん。こちらこそよろしく。話題にはなってたけど、なんで俺なんだ?」
「いやぁ、もとから隣で歩く人に話しかけようかなーって思ってたんだよ。君が隣なのはほんと偶然。」
「そっか、どこから来たんだ?」
「富士山の反対側。」
「山梨か、この辺雪降らないけど、そっちはよく降った?」
「もうメッチャ降ったよ。毎年雪かきさせられて面倒で仕方なかったよ。」
「そっかそっか。かまくらとか」
話している途中で体育館についてしまった。
「はーい。みんな静かについてくるんだよー。」
この担任の声はよく通るな。
整列して入場し、事前に伝えられた席に着席して、校長やら生徒指導の教師やら学年主席やらの話を聞いて入学式は終わる。眠かったな。
「ねえねえ、なんかあの校長、頼んだら何でもしっかり考えてくれそうで、頼りがいあったな!」
マジかこいつ、あの長ったらしい話をちゃんと聞いてたのか。
「眠かった。」
「うえ!聞いてなかったの?結構いい話してたぞ?まとめて話せる人は賢いとか、長く話せる人は想像力があるとか、人褒めるの上手なんだなーって。」
「取捨選択ができない人は?」
「特に言ってなかったけど、きっとどうにか褒めるんじゃない?」
自分のことならそっか。
再び教室に戻され、必要なものが配布される。配布が終わって、配布に不備が無いかの再確認も終わったら今日は解散。担任が号令をかけて放課後になった。
「はいはーい。それじゃ、チャットグループ作るので、みんな交換の準備してくださーい。」
お調子者かまとめ役かわからないが、連絡事項を共有できるのは悪い事じゃない。とりあえず御虎が困らないように手伝い・・・は、沙紀が見ているから行かないでおこう。
「ねね、せっかくだし俺らも連絡先交換しよ。」
「もちろん。」
「あと、あの子とのことは深堀されたくないんだよね?」
「え、うん。」
話題に出されるのも心穏やかじゃないけど。
「わかった。俺から話題に出さないようにするし、話題振られてたら助けるよ。」
うれしいけど、どうしてそこまでするのだろう。不思議な人だ。
「なぜ?って顔してるよ。最初にできた友達だもん。大事にするよ。」
笑いながらも、当然。と言った様子で、
「ありがとう。」
良い人に巡り合えた。
連絡交換は手馴れているのか、あっという間に回ってきた。
「二人とも交換いい?スザキシュウヤ(洲崎修也)だ。よろしく。」
「もちろん。雨井糀だ。」
「フジノミドリ(藤野翠)だ。雨井さんにも自己紹介まだだったね。」
そういえばまだ名前を聞いてなかった。
「俺はさっき叫んでた人の手伝いしてるんだ。あとでグループに入れとくよ。」
あれ?さっき叫んでた人じゃないの?
「雨井さんわかりやすいな。さっきの人はあっちにいるよ。」
藤野さんの視線の先を見ると、確かに似たような人がいる。
「あー、あいつとはよく間違われるんだよね。他人なのに外見がほぼ一緒で、昔から一緒だから、あいつと間違って俺に告白してきた女子もいたなぁ。」
なんだその面白い話。
「まーでも、俺はあいつの手伝いしてるだけだし、どちらかと言えば目立ちたくないから助かってるんだけどね。」
なんて話を、本人を見ながら聞かされていると、彼が藤野さんを見てこちらに駆け寄ってきた。
「ふじのん、終った?」
「やめろって言ってるだろその呼び方。」
「いいじゃん高校デビューだよ。」
「芸人になった覚えはない。多分終わったけど、どうせ漏れがあるから明日確認しような。」
「だねー。あ、二人とも修也の相手してくれてありがとね。カツアゲされなかった?」
「初対面にカツアゲするヤンキーじゃねえよ!」
そっちがボケでこっちが突っ込みだったか、仲良いなあ。
「藤野翠だ、山梨から越してきたんだ。よろしくね~。」
「雨井糀。委員長はもう決まりそうだね。」
「二人ともよろしく。俺は葛城晶だ。それと雨井さん、そろそろあっちに行った方が...」
視線を追うように後ろを向くと、目の前にみ...琴の顔がある。
「そろそろ一緒に帰るぞ!」
なんだかすこしご立腹の様子だ。
「初日からこんなにいいものを見れるとは、雨井さん、今から雨じゃなくて美味しい方にしたらどう?」
「そっちこそ、ふじのんも似合ってると思うよ。」
「なぁっ」
少しだけ言い合って、荷物をまとめる。
「それじゃお先に。また明日〜」
こういう時、だいたい逃げる俺が引っ張る側なんだけど、み...琴に引かれて帰路に立つことになった。
「ねー、こーじ。」
不満をあらわに、下駄箱で声をかけてくる。
「ん~?」
靴を取り出しながら返事をしたら、すこしあしらっているようになってしまった。
「あのさ、学校じゃ、あんまり関わりたくない?」
正直、人にうわさされたり、見ものにされるのは好きじゃない。
けど多分、この質問はそういう意図じゃないし、御虎が寂しがりなのは、週に一回布団に潜りこんでくることから知っている。
「そんなことない。・・・けど、嫌がらせとか、されてほしくないから、目立たないようにするのが一番だと思って。」
沙紀は口を挟まない。
「むふ・・・そっか、じゃあ、今日は許す。でも、明日から私を煙たがったら、何かしてもらうからね。」
・・・何を命令されるかわからないのが余計に怖いな。無理が無ければいいけど。
「まあそういうわけだから、私も一緒にいれば、そんなに違和感ないでしょ?」
沙紀は何を恥ずかしがってるんだ?
「それはまあ、確かに?」
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