十四章 初登校

今朝の早い時間から来たのは両親で、沙紀ではない。

「実質双子の晴れ姿なのだから」と言って制服姿の俺と御虎・・・琴を激写しに来たのである。

そんなハイテンションな両親とは逆に、クラス割り振りがどうなるか心配で仕方ない人もいる。

撮影会が始まって十分もしないうちに沙紀が来て、登校時間までほどほどに余裕があったせいで、犠牲者が一人増えた。み・・・琴は楽しそうだったけれど。

そのまま家族を連れて高校へ歩いたのだけれど、後ろからパシャパシャと写真を撮っていて正直鬱陶しかった。警備員さん、怪しいあの人たちどうにかして。(警備員は察して動かないけれど。)

昇降口で一度分かれるので、「また後でねー」的な会話をしている家族も多いが、俺は一度として振り向かなかった。こんなところでもカメラ構えてる親とか恥ずかしいじゃん・・・。

「こーじ、どうして無視しちゃったの?」

「そうだよ。今日くらいいいじゃん。いつもだし。」

「「今日くらい」なのに「いつも」なのがおかしいんだよ。」

少し声が届きにくい中、頑張って聞き取りながら足を進める。

クラスは各教室の廊下側の壁に、そのクラスの人が番号順で描かれている。1年の教室は全て一階にあるので、昇降口に近い場所から見ていく。四組にない。三組にもない。二組に、あった。苗字の番号順なので一桁は確定であるが・・・。1番ではない。青木って苗字の人が居るから俺は2番か。御虎は28、沙紀は7番か。あれ?みんな同じクラス?

同じ疑問を持ったのだろう沙紀と御虎が交互に顔を合わせる。

「そんなこともあるよ。とりあえず自分の席に座ろ。」

教室に入って席に着き、バックを机の上に乗せる。やることなんてそれだけなので周りを見てみると、椅子の背もたれにかけてる人や椅子の下に入れてる人、机の横のフックにかけてる人など様々である。御虎はなんだかいたたまれなさそうにしている。そりゃそうか。

あ、こっち見た。こっち来た。

御虎が歩いて俺の席に辿り着く前に、人が遮った。

「ねえ君。君もこのクラスなのかい?これから一年間よろしくね。」

長く続きそうだし、なにより御虎が困っているのがよくわかった。交互に見るな。どうすればいいかは自分で決めていいんだぞ。

「柏木。やめたれ。そいつは俺の親戚だ。」

「はぁ⁉こんなかわいい親戚いたなら紹介しろよ~。」

「お断りだ。ほら、」

机の間から殺意に近しいものを感じる。

「柏木?何してるの?私というものがありながら初めて会った女性にナンパしてるんじゃないよね?」

「え、なんで日向がここに・・・?」

「これから一年間同じクラスだからよろしくね?」

「え、えぇぇ、おれのハーレムライフは・・・?」

「ねえよそんなの。」

高校デビューってそういうのじゃないだろ。

「糀君も、柏木に女の子紹介したりなんてしないでね?」

「死にたくないのでしません。」

この二人はいつまでこうしてるのだろうか。あとそんな大事なら柏木のこと名前で呼んであげたらいいんじゃないですかね。とかいったら面倒なことになりそうなので黙っておく。

「こーじ?この二人って?」

「まあ、中学が同じだった人達だよ。いつもこんな感じだから、こいつに困ったら鶴見さんを呼ぶと良いよ。あ、鶴見さん。この子好きな人いるんで柏木には色目使わないっすよ。」

「そうなの?かわいい子だから心配したのよ。よかったぁ。」

その愛の重さは周知の事実で、素行は悪くないが情緒は気にしていない人だと伝わることが多いのである。

「糀。他の知り合いとかとあいさつしなくていいの?」

「沙紀よ。そんな相手がいたとしてもこいつくらいだ。」

「さっきからこいつ呼ばわりするのやめてくれない⁉」

「そのしょーもない高校デビューの夢をあきらめるなら私から言ってあげるわよ?」

仲が良くて何より。

なんて話していると、御虎が腕に抱き着いていた。

驚いたけれど、震えているのは、他人に慣れないからだろう。声をかけていたであろう男子の集団が立っていた。

「大丈夫だよ御虎。」

一言だけ御虎に言葉をかけてから、言葉の方向を変える。

「すまない。この子は結構な人見知りでね。なんていうか、警戒心が高いんだ。失礼だったかもだけど許してくれるとありがたい。」

なにやらぐちぐち言いながら帰って行った。

「よく頑張ったね。我慢して偉いよ御虎。」

「左之さん。ほどほどに深刻なやつ?」

事態を察した鶴見さんが、沙紀に問いかける。

「まあまあ深刻なやつね。ま、一番深刻なのは、モテることもなかった糀に可愛い女子が抱き着いているところだけど。」

あ、忘れてた。

「しかもその女子に対して慰めるような言葉ばかりかけてねぇ。」

「沙紀、お前。」「さっちゃんなにを⁉」

「さっきの好きな人がいるっていうのもお察しかも知れないわねえ。」

普段じゃしないような声量で言っているあたり、御虎を守るために本気なのだろう。それくらい気に入ってるなら、そうするだろうな。この場で告白する勇気なんかないけど。


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