十三章 平穏
「ねえみこちゃん、もうウサギにはならないの?」
沙紀の疑問の意図が読めない。
「成れないことは無いけど、成る理由が無いし・・・」
「あのさ、耳だけできたりとか、しない⁉」
もしかして沙紀ってそういう・・・
「やったことなかったけど、索敵ならそれ用の術が」
「やってみない⁉」
沙紀さん沙紀さん、ちょっと怖いよ。
「沙紀の言いたいことは分かるけど、粘土いじってるわけじゃないんだから」
『なんじゃ、面白そうじゃな。ほれ。』
え、神様何s・・・。
顔の横にあるはず耳に違和感がある。いや、「無い」という違和感がある。そして頭の上に、柔らかいものが垂れるような重力感・・・これは、
「なにそれこうじかわいいー‼」
「やめっ、掴むな!舵じゃねぇんだぞ!」
「おぉ、こーじ、それ似合ってる」
「御虎まで!ちょ、あとでなんでも許すからこれ何とかして!」
「これだなんてもー、あーもふもふしてるー!」
「ほ、ほら沙紀?御虎の方が良いんじゃないか?俺より抱き心地良いと思うぞ⁉」
「そんなの知ってるよー、だからあとでー。」
「ひえ。私、先に部屋に戻ってるね。」
「逃げるなら今すぐ飛びつくよ♡」
「お、おとなしくしてます・・・。」
俺も御虎も逃げ道を失った。
神様、戻して。頼むから。
『なんでもいう事聞くかい?』
聞かない・・・。
『なら、わしは戻さない。』
「御虎~。」
「ウサギ耳のこーじ可愛いからもうちょっと見てたいかも・・・。」
「御虎―!」
しばらく沙紀にもふられながら、御虎が解除の術を準備しているのを眺めるしかできなかった。
「もー!なんで解除しちゃうのさー!」
ご立腹の理由は簡単で、沙紀が御虎のウサギ耳を堪能する前に戻してしまったからである。
「だ、だって、こーじのあれを見たら・・・。」
俺がどうしたかって?疲れて倒れてるよ。可愛がられる猫ってこんな気分なのかな。気力湧かない・・・。
「ご、ごめんね糀。今度みこちゃんの可愛い写真送ってあげるから許して?」
「それは私が許さないけど⁉っていうかそういう写真あるの⁉消させて!」
ワイワイしてる二人をよそに休憩する俺に、原因(神様)が話しかけてくる。
『同い年の女子に撫でまわされる気分はどうじゃった?』
見えない顔がニヤニヤしているのがよくわかる一発殴りたい。
『粗暴じゃのぉ。まあよい。ほれ。』
「ほれ」だけで、御虎と沙紀にウサギ耳が生えた。
「あぁ~神様ありがとー。かわいいー!」
『せめてもの詫びじゃ、一枚くらいは気付かれんじゃろ。』
速やかに、かつ静かに指示に従った。悪趣味だって?神様にいってくれ。俺はただ、「心底幸せそうに御虎を愛でる沙紀と、耳を触られて恥ずかしがってる御虎の二人が映った写真」を撮っただけだ。
余談ではあるが、夕飯は沙紀が申し訳なさそうに作っていた。作られた西洋風の料理に、御虎は魅入られていた。また、若干上機嫌なのがバレて、怪しまれたりもした。
「そういえば学校ってどういう仕組みなんだ?」
唐突だけれど、疑問に思うのは当然か。
「学校はね、小学校・中学校・高等学校の三つが主で、他には、小学校に入る前に幼稚園とか保育園。中学校卒業後か高等学校卒業後に専門学校。高等学校卒業後に大学って感じかな。」
話ながらスラスラと図をノートに作っているのは慣れているからなのか、分かりやすい解説図を書き上げてしまった。
「どれも知らないけど、図がビックリするほどわかりやすい。」
同意見だよ。理解してても他人に理解させる図を作れるのは凄い。
「へへへ、ありがと。それでね、私たちがこの後入学するのは高等学校で、本当なら入学試験も受けなきゃなんだけど、神様がどうにかしてくれたらしいね。」
『試験は何とかしたが、実力は何ともできんからな。御虎に頑張ってもらうしかない。』
「でもすごいんですよみこちゃん。もう中学校の内容をほとんど理解してるんですよ。」
『研究の仕方が身についてるからじゃな。理論的に考える事が上手くいっとる。』
「数学とかむしろ教えてほしいレベルになりましたし・・・。」
悲しそうにしているのは、たった一か月もせずに実力を追い抜かれたからだろう。
『苦手な教科とかは無いのか?』
「う。」
「社会科全般が苦手なんだよねー。」
「こーじー」
恨めしそうにこちらを見る御虎も微笑ましい。
「だって、県とか市とか、多すぎるし、歴史とか私にとっては未来のことだし、公民とかは社会規則っぽいけどそうじゃないのも入り混じっててわけわかんないし・・・わけわかんないんだもん!」
なんだか現代の中高生らしくなってきたように感じる。
「でも予想外だったのは、理科ができることかなぁ。てっきり反発するかと思ってたし。」
「あぁ、基礎概念が違うだけで、結局やってることが術と変わらなかったし、考え方の違いも大きくなかったから、すんなり理解できたよ?」
『数学は予想通りだったが、理科もできたのか。他はどうなんだ?』
「英語は文法と単語記憶だけだからすぐできるようになりましたよ。国語も古文はとっても読み慣れてましたし、現代文もカタカナが出なければ問題なく解けてましたね。」
「長ったらしい説明文は読み慣れてるからな。古文も書物とそう変わらなかった!」
『そうか、こちらの社会に問題なく住めそうで何よりだ。』
その大きな安堵は、もはや親のそれじゃないか。
「大学とか専門とかは後で考えればいいから、今は高校生を楽しむための準備をしないとな。」
神様の感情に感化されてしまったかもしれないけれど、
「うん」
もう少しの間だけ、この平穏が続いてくれることがうれしかった。
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