十二章 負の対策

春休みも半分が過ぎそうな頃、いつも通りに居間で二人が常識の勉強をしていて、俺は退屈しのぎに茶を入れていたときに、久々に神様がやってきた。

『よ。御虎は楽しんでおるか?』

「居酒屋じゃないんですけど。見てのとおりですよ。」

促すように勉強中の二人を見る。二人とも笑いながら勉強している。すごいなぁ。

『そういえば、箱根のこと以降、何か見えたりしないか?』

「え?神様の姿くらいですけど。」

『そうか・・・。』

しみじみと言う返事は、きっと御虎に関係することで、なおかつ悪い事ではないのだろう。

「正直心配ではありますね。現代の高校一年という年で、天真爛漫好奇心旺盛、割と天然だけどしっかりしてるところはしっかりしている。そんな女の子がモテないはずが無いし、沙紀が言うには女子からの嫉妬の対象になりやすい。」

少ない沙紀と二人きりの時に話す内容である。

『もはやふう・・・。何も言うまい。多少のストレスなら耐えられるだろうが、実害を出そうとし出したら危険だな。常識が。』

そりゃやり返すよね。強いもんねあの子。

『策が無い事もないが。できれば参人で決めてほしい・・・。が、空気が重くなるだろうなぁ。そんな話振るのやだなぁ。』

「策はあるからお前の口から言え。って素直に行ったらどうです?」

『察しが良くて助かるぞ。』

神様はその策を話し、ついでにお茶を飲みやすい温度にして飲んでいった。俺の分だけ熱湯じゃん。


言うかどうかは別として、とりあえずお茶を持っていく

「あ、糀。やっぱりみこちゃん天才だよ。もう方程式やってる。」

「え、少数とか分数とか引っかからなかったの?」

「それくらいは調合で何回も考えてたから。普通に理解できたぞ。」

 術といっても色々あるんだなぁ。

「そいえばさっき独り言言ってた?」

「いや、神様と話してた。学校行ってからの御虎が心配だねって話してた。」

「あー、私も神様とその話したいな~。」

「呼べば来ると思うよ?神様割と暇してるし。」

『御虎、神様が暇みたいなこと言うでない。勘違いされるだろう。』

「ね?」

「神様誘い出す信者がいるのか・・・。」

『それよりいいのか?言うなら早めの方が良いと思うぞ?』

「糀?」

『そうだ。』

逃げ場を無くしやがった・・・。

「前に、御虎が学校でモテたり嫉妬されたりはぶられたりしたら嫌だよねって話したでしょ?それに対して、神様が単純で簡単な解決策を持ってきたから、教えてやってくれと。」

「なんで自分で言わないんです?」

ナイスド正論。

『いやその、糀に言わせた方がおもしろいかなと。』

「「ふぅん。」」

「神様、だんだん威厳を失ってない?」

『お前が言わなければ失わなかった。』

「俺に言わせようとしたからだな。」

神様のせいにしたとはいえ、これを話すのかと気が重くなる。

「それで、何かいい方法あったの?」

やめて、若干期待しながら聞かないで、割としょうもないから・・・。

「えっと、付き合ってれば、誰かに深く入り込まれることなくて平和なんじゃないかなーって・・・。」

「付き合うって何?」

そっか、そういう文化なかったもんね。

「えっと、結婚する前の段階って言うか、互いに好き同士だって認識し合った仲っていうか・・・。」

頑張ってくれてありがとう。若干困惑してる沙紀さん。

『ま、愛人みたいなものだ。友達以上夫婦未満じゃ。』

分かりやすい。

「なるほど?でも、そんな相手こーじしか・・・。え、あ、いやでも・・・。」

御虎と沙紀が同じように照れていていたたまれない。どうしてくれるんだ神様。

『どうと言われてもなぁ・・・。』

あ、現代風な方法があるじゃないか。

『やめておけ糀。それは悪手だぞ。』

いいや、俺はこの選択を推すね!

「御虎と沙紀で付き合ってることにすればいいんじゃないかな。男女だといろいろあるが、女性同士なら割り込もうとする男だっていないだろうし、いたとしたら俺が・・・なんでそんなごみを見るような表情してるの?」

『だから言っただろう。』

いやでも、合理的にはこれが良いと

「ま、外面だけだし、良いんじゃない?糀とみこちゃんが付き合ってても。」

「まぁ、どうせ外面だけならこーじとでもいいよ。」

なにか責められている気もするけど、解決したなら、良しとするか。


「糀って、どうしてあんなに理解しないんだろうね。」

着替えをも手伝ってもらっている間に、さっちゃんが愚痴を漏らす。

「だね~。こーじが付き合うならさっちゃんだと思うんだけど・・・。」

「わ、私⁉別に嫌いじゃないけど、昔から仲いいし、別に男の子としてとかは・・・。」

幼いころから仲がいいと、友達以上に認識できないのだろうか。

「昔から仲がいいからそのまま・・・って感じにはならないの?」

よくありそうな、幼馴染同士の恋愛話。さっちゃんは少し困った顔をする。

「両親はなんとなくそうなったらいいな。みたいに思ってそうなんだけど、糀に押し付けることじゃないし、迷惑がられても嫌だから。」

きっと、前々から考えていたことなんだろうなって思うと、

「ごめんね、変なこと聞いて。」

「いいよ、小学生の頃はよく揶揄われてたから。それよりみこちゃんはどうなの?神様はあんなこと言ってたけど。」

好きじゃないのか。ってことなんだろうな。確かに、幸せにしろとか実質婚姻みたいなことを、あ、顔暑くなってきた。

「わ、わからない。好きになったことなんて無いから。」

逃げるように言ったのだけれど

「ふうん、その割には、何を考えて顔赤くしちゃったのかな?」

逃がしてくれなかった。

「だ、だって、神様が実質婚姻しろみたいに言うから・・・。」

「あれはまぁ、神様が悪いよね。」

「そうだよねぇ!」

あぁ、私、こんなふうに誰かとおしゃべり出来たんだ。

そんな気持ちは、口にも表情にも出さないけど。

いや、ちょっと頬があがっちゃったかな。

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