十一章 通学練習

家族が正気に戻ったのか、唐突にアパートの隣の部屋が御虎の部屋となった。また、世間的な本名が御崎琴(みさき こと)となった。

「次は、私たちの関係だけど、幼馴染でいいよね?」

「仲良くできるならなんでも!」

「仲良くしてて違和感ないならなんでも・・・」

そして俺は、春の波乱を受け入れつつあった。

「設定考えるって大変だね、まさか名前からとは。」

「何にも決まってなかったからな。そうだ、近くに住んでて違和感ないように、御崎は母親の旧姓ってことにしとこう。」

「そこまで気にする人いないかもだけど。無いに越したことは無いか。」

「学校ってどこにあるの?」

「「あ」」

というわけで散歩決定。まだ着替えを不安そうにしている沙紀が御虎と部屋の一室に入る、御虎が術で壁を透過できるようになっちゃったから、部屋の一室は実質廊下である。

神様の提言で、「家の中だけ」という条件を設定して、術を使用することを許可した結果である。

まぁ、俺もちょっと不安だからいいんだけどさ。

幸せにする云々の時はあんなにびっくりしてたのに、現状がなぜ許せるのか。不思議で仕方ない。などと考えながら、自身の着替えを手早く済ませ、日傘と飲み物などを入れたバックをテキパキと用意する。

「糀~!帰りにスーパー寄っていい⁉」

「いいよ~!」

マイバックも入れておこう、念のため三つ・・・四つにしとくか。

親からの支給と沙紀との買い物で、御虎のクローゼットも丁度よく埋まってきたらしく。どうやら今日もお気に入りの服を着ている。

服装もかわいいが、嬉しそうに着ている姿がなによりかわいらしい。という意思を込めてサムズアップすると、沙紀が察してくれたようで、同様に返してくれた。さすがだ、沙紀。

「どうだこーじ、似合ってる~?」

「良く似合ってるよ。」

嬉しそうに回ったりしている御虎は、本当に無邪気な子供である。

「どしたのさっちゃん?」

「え?いや、なんでもないよ?」

二人はそのまま玄関を出て、俺はその後ろを追って外に出た。目の前には住居者用の小さな駐車スペースがあり、すぐの道路は車がすれ違えるかギリギリの細さである。

「ここ、全然車通らないからいいよね~、たまに遊んでる子供もいるくらいだし。」

「子供は遊んでないのか?」

「まー、今までの道とか思い出せばわかるけど、結構車が動いてるじゃん?」

「うん、正直いっぱい動いてると怖い。」

「ぶつかったら危険なのに変わりは無いからね。道路で遊ぶ子供は、というより、道路で遊ばせる親が居ないかな。子供も遊ばないけど。」

「それじゃ、子供たちってどうやって?」

遊んでるのか。その質問に答えられる場所が、歩いている通学路のそばにあるのだ。

「ここだよ。公園。」

ほどほどの高さまでのフェンスで区切られていて、水道とトイレとブランコと、あとは、少しだけ広めの土地と木陰があるくらいの、特別大きくはない公園だ。

「こーじの言ってた通りだ~!」

「何か言ってたの?」

「少しづつ一般常識をね。沙紀に手伝ってもらった後も、御虎の好奇心がなかなか止まらなくて。」

最近はずっと、沙紀と御虎で一般常識のお勉強中だが、たまに爆発する好奇心で、沙紀の帰宅後にへとへとにされることがあるのだ。下手にゲームを出せない。

「あれ、この公園広くないのに、多くなかったよね?子供ってそんなに減ってるの?」

まさか平安から来た少女に少子化問題を指摘されるとは思わなかった。

「現代の子供の遊びは、なにも外じゃなきゃいけないわけじゃないんだよ。みこちゃんの知らない遊びもいっぱいあるんだよ。ね?糀?」

「なぜ俺にその話題を振るんだ・・・。」

「こーじ!」

やめてくれ、そんな最高峰の期待を込めた目で俺を見るんじゃない・・・。

「・・・あるけど、それは一般常識が定着してからだ。この世界のげ、遊びは・・・薬品のようなものだからな。」

沙紀、そんな「なーんか言ってるよ」って目やめて。御虎も素直に「少し危険なんだね」なんて納得しないで・・・。


歩いて十分もかからずに、学校が視界に入る。住宅街の中だからか、近づけばすぐにわかる。

「ここか⁉」

「そうだよ~思ってたより小さいかも。」

「小さいの⁉丘よりよっぽど大きいのに・・・。」

校舎内からは音が、体育館や運動場がある場所からは人の声が聞こえることから、春休みだというのに部活をしているのだろう。運動部は入りたくないな・・・。

「こーじ。この音ってなんだ?」

「何か、って聞かれるとなんて答えるべきか悩むな。楽器の音だよ。曲の練習、だとおもう。」

「学校って楽器の練習もするんだな・・・。」

詳しく話すのはしばらく後にするとしよう。

「とりあえず、今通ってきた道が、この学校に通うための通学路だから。一人でも通えるようにね。」

「「はーい。」」

なぜ沙紀も答えたんだ?

「私方向音痴だから、しばらくは三人で通学しようね。ねーみこちゃん。」

「もちろん!」

なんか聞かれたら家族に頼まれたから仕方なくだって答えるしかないな・・・。

「糀。近くにスーパーがあるらしいんだけど、道わかんないから連れてって?」

「はいはい。」

場所くらい自分でだな・・・。なんて思いながら、マップを開いて最寄りのスーパーを検索する。

「あ、ここここ。」

横から覗いてきた沙紀が画面をタップして場所を指定する。ちけぇ。

「それじゃ、ちゃんとついてきてよ。」

二人の返事も待たずに歩き出す。なぜなら、隣の道だったから。

「さっちゃん。やっぱりこーじとそういう仲なんじゃ・・・。」

「違うけど⁉なんでそんな風に⁉」

「だって、十未満ならわかるけど、今あの距離感は近すぎるし・・・。」

本人にばっちり聞こえてるんだけど。考える事変えよ。

入学後の生徒って、御虎と同じくらい無垢に人間関係を知りたいのかもしれないな・・・。

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