十章 少しだけ未来を


大涌谷の黒たまごを食べてから、他の場所に点在する歴史館や美術館をいくつか観光した。

歴史館は、自然館の役割もしているらしく、化学的な話もあって飽きなかったし、御虎は「こんなものができてたんだね~」とちょっと未来の道具を見ている様子だった。美術館に関しては、沙紀と御虎がひたすら「きれ~・・・」と、感動している様子を後ろから見ていて退屈はしなかったし、同じ感想を持っていた。

色々見て、神様たちとも別れて、帰りのバスの中。

「コージ、移動中ずっとすまほを見てたけど、誰かとでんわしてたの?」

そういえば、スマホの説明をかなり飛ばしてたね。

「スマホっていろいろできてね、この前言ったみたいに電話もできるし、今日は地図として使ってたんだ。」

「地図・・・そんな高価な・・・。」

中学生にとって高価なのに変わりは無いけど、御虎が思ってるほどではない、と思う。

「ほかにもね、こっち見て。」

沙紀の言葉に引かれた御虎が従うと、直後にカシャッとシャッターが切られる。

「あ、ボートで聞こえてた謎の音。」

「そうそう、こうやって写真も撮れるんだ。」

「しゃしん?きれいな絵が描けるの?」

「ん~、まぁ、そんな感じかな!」

「・・・さっちゃん、眠いなら寝てていいんだよ?」

「バレちゃってたか、じゃ、ちょっとだけ。」

空元気なのも眠いのもわかっていたけど、俺はそんな風に声を掛けられないな。

「こーじも、眠いなら寝てていいんだよ?三島って地名は知ってるから。」

「俺もバレてたか、沙紀はいいけど、俺には膝枕とかするなよ?」

「私はしてもいいよ?」

「遠慮しておくよ。外見ながらゆっくりしてる。」

「うん、おやすみ~。」

どうしてバスの揺れはこんなにもあっさりと睡魔を引き寄せるのか、緑と青とオレンジの景色を見ている間に寝てしまった。


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二人とも寝ちゃった。こーじは顔見えないけど、呼吸と雰囲気でわかる。

こっちに来てから見たことない物ばかり見ていたけれど、久々に見覚えのあるものを見た気がする。あの湖もあの煙も、お父様に連れられて行ったことがあった。もうほとんど覚えていないけど、懐かしいな。

感傷に浸るのもいいのだけど、今は少しだけ、二人との約束を破る仕方ない相手がいる。

気付かれないように威力は控えめに、このばすとやらから離れさせるだけの調整で、外さないように。

動いているこの場所を軸とすれば、周りが動いていることにできる。大丈夫。今までの攻撃と何も変わらない。威力が控えめなら陣もいらない。

妖精さんには善悪が無いから、ただ邪魔することになるけど許してね。

「風の精、力をかして、その弐人を守って。」

二人が起きないように、周りの人が気づかないように、小さな声で術を起こす。

『二人を守るくらいなら、もう一人増えても変わらないじゃろ。』

私が掛けた守りよりはるかに強い結界が掛かる感覚とともに、神様が帰ってきた。

『わ、私は何か来てもなんとかできるから、自力じゃ何ともできない二人に、って・・・。』

『言いたいことは分かるが、結局弾くのに変わりはないだろう。なら、もう少し効率的にやればいいじゃないか。』

『そ、それはそうだけど・・・』

言われてみればその通りだ、参人に等しく術を掛けたほうが効率的だ。それなら、なんで?

『ま、気付いてないなら何も言わないよ。その理由は頑張って見つけるんじゃな。』

あ、神様どっか行っちゃった。

気持ちがわからないなら、とりあえず、やったことから考え直そう。

私は自衛ができるから、二人を優先して守っただけだ。私が、私より二人を優先した・・・?自分以外を?誰かを守ろうとした?そんなのまるで、私が、母親を守ろうとしたそれじゃ・・・。

それじゃ、私にとって、この二人って・・・?

膝の上に置いた、さっちゃんの頭がこちらを向いた。

「顔赤いね、夕焼け、きれいに見える?」

寝言か寝起きか判別しづらい声でそういうのだけど、私は、陽を見る余裕なんて無かった。


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心地よい揺れが止まった。バスが止まったのか。

エンジンの振動は続いてるから、信号で止まったのだろう。

目を開けると、覚めたばかりの目に夕日が突き刺さる。

痛いなぁ。

そう思いながら左隣を見ると、御虎と沙紀が入れ替わっている。

「おはよ。」

声のボリュームを抑えてるのは、膝枕されている御虎が寝ているからだろう。

「おはよう。」

同じように声を抑えて返事をするが、お互い、それ以上の会話をしようとはしない。

『二人とも起きたか。』

バスの上に乗った神様が話しかけてくる。

なにかありました?

『いや、とくに用事は無い。ただ、学校について行かせるべきか悩んでてな、二人の意見を聞かせてほしいんだ。』

それは、本当に悩むな。

『沙紀は即答か、心配なのはよくわかるんだが・・・。糀が考えているように、御虎が私と関わっているタイミングは、周りから見たら異常だろうから・・・。』

あ、神様に頑張ってもらって、沙紀と同じクラスにしてもらえば。

『互いに御虎を押し付けるとは、実は嫌だったのか?』

そんなわけ、入学初日から女子と仲良くしてる男子とかめっちゃ目立ちますし。

『ふむふむ、互いの言い分は理解した。どちらかと同じ教室にすることは決めたから、当日、楽しみにしておくと良い。あと、もう少し悩ませてくれ。』

言い残してどこかへ飛んで行ってしまった。

高校は御虎と同じか、何もないより騒がしくて楽しいかも。

なんて、憧れの高校デビューとかよりも楽しみになっている。


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