九章 考える生活

 驚きが収まらないまま、神様たちと一緒に御虎と沙紀の待つお店へ進んだ。

「あ、糀、お疲れ様。」

「ん~、コージ戻ってきた?」

「戻ってきたから、そろそろ起きる?」

 なんだこの幸せな空間。

「可愛い女の子同士の会話って、ほんと素敵ね・・・。」

「えっ、サクヤ様・・・であってます?」

「あれ、ほんとだ、サクヤ様ともう一人いる。」

「もう一人?私に見えないってことはもう一柱って事?」

「あぁ、邪魔して悪い。さっき助けてもらった神だ。」

「・・・もしかして、まだ解決しきってなかったですか?」

 焦りと心配の声音は、できるだけ早く解決してあげたい。という優しさの表れだと読み取れる。

「いいや、問題はもう無い。手伝ってくれたこと、感謝する。」

「コージ、何を媒体にしてるんだ?」

 切り替えの早さ、というより興味の無さに驚きながら、察しの良い御虎に媒体を見せる。

「御朱印帳に何かしらの朱印を、本神たちに付けてもらったんだ。」

「わしゃ、いきなり血をよこせと言い出すのかと驚いたわ。」

「今は血じゃなくても印にできるのか・・・。」

 御虎の発言に、ここの二柱はどこか怯えているような・・・。

「あっ、御虎ちゃん!緊急時のためにインク買おうよ!」

「いんく?」

「あ~、染料って言うと高く聞こえちゃうよね、何て言えばいいんだろ。」

「染料みたいなのに、高価じゃないのか?」

「うん、そういう液体があるの。」

 それを聞いてから、御虎は何かを考え始めてしまった。

「二人とも、御虎は術の研究ができないか悩み始めたから、さっさと移動をしよう。」

考え始めたら止まらないことあるよね・・・。

「神様の頼み事も終わったし、後の時間は観光だね。」

「だね。でもどこ行く?」

「少年、浪漫を感じれる場所はどうだ?」

気持ちは分かる。でも同行者が女性だからここはこらえましょう。

「別行動はダメか?」

御朱印帳を媒体にしてるから、別れられないじゃないですか。

「いや、俺は御朱印帳とお前自身を別で媒体にしているから、別行動はできるぞ。」

それなら・・・でもせっかく来たのに二人を・・・それは神様も同じか・・・。

「なるほど、であれば今回は自制するとしよう。代わりに、また来てくれるな?」

それはもちろん。神様のおかげで俺も興味出てきましたし。

「そこの二人は話、まとまったか?」

「うん、待たせてごめん。」

他の客に勘違いされないよう、沙紀と御虎に向けて声を発する。

「糀、これから大涌谷に行くけど、糀はどうする?」「一緒に行こ~?」

一緒に行く以外の選択肢があるはずなかった。

「もちろん。」


バスとロープウェイを乗り継いて大涌谷。御虎はもちろん、沙紀も少しはしゃいでいたし、俺もはしゃいでいたと思う。

「すっごい、浮いてる!見てみてさっちゃん!」

「すごいのは知ってるしワクワクするのもわかるけど私に見せないで・・・。」

そう言いながら上を向いている沙紀は

「何にそんなに怯えてるの?」

「沙紀は昔から高いところが苦手なんだよ。今、真下みたら吐くかもね。」

可哀そうではあるが、苦手なものは変わらないのである。

「変に揺らしたりしないようにしようね。」

「まあでも、神様に一瞬だけ姿出してもらって、疑似的に客だらけにしてもらうのは本当に助かったよ。無邪気な子供は暴れまわるから。」

違和感はあったけれど、観光地だからこそ許された荒業だろう。サクヤ様と竜神様和装だし。

「高い場所が怖いか、俺にはわからぬ心だな。」

「ふぅん、竜神様ってどこまで高くまで飛んだことあるの?」

「せいぜいこのあたりの集落と池を見渡せる程度だが。」

「じゃ、日本全体を見えるほど高くは上がったことないんだ。」

「・・・そんなことができるのか?」

竜神様がロマンに目覚めたかもしれない。

若干喧嘩腰で話していることもあってか、沙紀の恐怖心がどこかへ旅立っている隙に大涌谷駅に到着した。

ドアが開いてすぐ、鼻に刺激臭が届く。

「な、なにここ、めっちゃ臭い・・・。」

きっと黒卵を食べるまでの感想だろうな。

「この臭いは硫化水素っていう物質、というか気体が原因だよ。その辺の理解は学校に行ってから学ぶんだけどね。」

「りゅうかすいそ・・・龍化?変化の術の類か?」

その変換かっこいいな、厨二心がくすぐられる。

「龍にはならないけど、まぁ、火山の熱が噴出してる場所だから、えっと、」

「つまり、火龍だな!」

「糀は黙って。」

「はい。」

「うーん、今は説明のしようが無いから、やっぱり学校の理科を勉強してからだね。」

「そっか、よくわかんないけど、知らないものが出てるんだね。」

「それよりほら、黒たまご食べよう?」

「売ってる売ってる。出来立てって書いてあるじゃん。」

「真っ黒い、石?」

「みこちゃん、これ実は卵なんだよ。」

「こんなに黒いのに卵なの?卵って白いじゃん。」

「カニが赤くなる・・・のとはちょっと違うかもだけど、ここで卵をゆでると、卵の殻が黒くなるんだよ。」

「化学反応っていう現象で黒くなるんだけど、それもまた学校で勉強だね。」

「あ、学校って勉強するための場所なんだね!」

二人して、(あ、説明してなかった)と顔を見合わせた。

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