六章 明るい夜

 自分の腹と前方から、腹の虫の鳴き声が聞こえた。

「コージ!これはどうするのだ?このままかぶりつくのか?」

「それも面白いかも。そのカッターで何等分かに分けるんだよ。」

「それじゃ私がやるよ。六等分でいい?」

「「はーい。」」

 沙紀が切ってくれているのだが、それを見ているだけでもおなかが減ってくる。苦手なはずのトマトのしわも光り方も、おいしく見えてきてしまう。これが「空腹は最高のスパイス」というやつなのだろうか?なんにせよおなかが減ったので、切り終わった六分の一に手を伸ばす。

 それぞれの前に置いてある取り皿に乗せることなく、三人とも、手に取ってから「いただきます」と言って、細くなった中心部分から咥えていく。

 口から離そうとすると、案の定チーズが伸びていく。必死に切ろうとしながら、御虎の様子を見てみると、あわあわと動揺していて、どうすればいいのか迷っている。面白い。

 御虎は困りながら二人の方を見るけれど、二人ともピザを咥えながら笑顔で御虎を見守っている。

 分からないなりに解決しようとしたのか、両手でピザを引き離しながら、チーズを伸ばしている。チーズはすぐに切れたけれど、切れ端が鼻まで伸びていて、吹くのをこらえるので精いっぱいだった。


 三人で二切れづつ食べ終わると、御虎も食べ方を理解していた。

「二人ともひどいよ。食べ方教えてくれないなんて・・・。」

「ごめんよ。ちょっと抜けてたんだよ。」

 とはいうものの、思い出すとまた笑いが・・・。

「むぅ・・・。次を頼もうよ!まだおなか減ってるから。」

「そうだね。糀も普通にトマト食べられてたから、どれ頼んでも大丈夫そうだね。」

「うん、なんか思ってたより気にしないで食べれたよ。」

 先に決めていたのか、てきぱきと二枚目を注文して、三人ともそれの調理過程を眺めている。あっという間に完成したピザが、似たような皿に乗ってやってきた。御虎が「切ってみたい。」というので任せてみると、とってもきれいに五等分されてしまった。

「・・・なんでだ?」

「えっと、なんとなくやりやすかったから?」

 五芒星・・・?

「これ、私の好きな奴だから、私二つでもいい?」

「うん?もちろん。それじゃ俺は一つでいいかな。御虎がもう二つ食べると良いよ。」

「やったー!」

 という感じで食べ、三皿目は御虎が選んだ。沙紀が「なんとなく。」と言ってカッターを回すので受け取り、しっかり六等分にして三人で食べる。

 お腹が落ち着いてから店を後にすると、外はそこそこ暗いものの、思っていたよりは明るく見える気がする。街灯が明るいせいかもしれない。

「この後は帰るだけでいいか?」

 卒業式後とはいえ、まだ中学生なのだ、日が落ちるのなら早めに帰ろう。

「うん、賛成。」

「もちろん。早く帰ろう!」

 満場一致で帰路についていたのだが、妙に御虎との距離が近い。

「御虎?どうかしたか?なんか、近くないか?」

 理由がわからないので聞くしかない。

「い、いや?別に何でもないぞ?」

 言いながら離れてしまった。何なのだろうか?

 沙紀が閃いたような顔をしてから、御虎に抱き着く。

「なるほどね~そういうことね~。気持ちは分からなくないよ。というか糀もきっとそうだよ。」

 何の話をしているのかわからないけれど、御虎の顔が赤い。ほんと何?

「え、そ、そんなことないよ。だってこんなに明るいし・・・。」

「明るい・・・?」

 沙紀は予想が外れたようだ。虚を突かれた顔をしている。

 明るい。と言ったってことは、明るさが関係する話だろう。そりゃ夜は暗いけど・・・。あ。平安時代には在っても灯籠とかの火しか光源がないのか。

「俺なんかじゃ頼りないだろうから、沙紀と手をつないでると良いよ。」

 御虎にそう言うと、御虎が「いい?」という風に沙紀を見て、沙紀が「もちろん。」と手を握る。一生見てられそうこの二人。

「それで、結局どういうことなの?」

 沙紀はまだわかってなかったようだ。

「昔は日が落ちたら真っ暗だったからな。夜は基本的に外には出なかったんだよ。」

「なるほど、そりゃ怖いわ。」

 察しが速いおかげで長い説明しなくて済むからほんと助かる。

「二人は怖くないの?」

 知られたからか、怯えていることを隠さない声で聴いてきた。

「いや、めっちゃ怖いよ。」

「うん、私も結構怖い。」

「それにしては・・・とっても楽しそう・・・。」

 その疑問に対する答えは迷う必要がない。

「「今は一人じゃないから。」」

「・・・その回答が被るのはどうかと思うぞ?」

 我ながらかなりびっくりしたが、沙紀も驚いた表情をしている。

「糀って、意外と寂しがり屋だったりするの?」

 うなづくのは恥ずかしいが、間違っていないのだからうなづくしかない。

「まぁ、割とな。」

「そっかぁ、じゃぁ、私とかみこちゃんとか来てくれて結構うれしかったり?」

 弱点見つけたり。みたいな表情しやがって。そっちだってそう変わんないだろ。

「そうだな。結構うれしいよ。毎日楽しいしな。」

 若干やけで言ったのだが、御虎も同意してくれた。

「私も!私も二人と居れて楽しいよ!」

 場が一気にあったまった。今のセリフの温度がちょうどいいな。

 バス停に着くと、ちょうどバスが止まっていたので乗り、そのまま行きの反対を通って帰る。

 家の最寄り駅の回りは結構暗く。一層怖く感じるけれど、一人で歩かせるわけにもいかないので沙紀を家に送ってから、御虎と二人で家に帰った。(終始片手が使えなかったけど。)

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