三章 歴史・常識研究班

そうして時間は過ぎていき(ちなみに俺はずっとゲームしてた)。

二人が帰ってきた。

「「ただいまー」」

一見、二人とも元気に帰ってきたように見えるが、沙紀はとても疲れてる様子で。御虎はすごくご機嫌だった。

「コージコージ‼ふーどこーととはすごいのだぞ‼たくさんの料理がたくさんの人のためにすごい速さで出てきて・・・」

まだ続きそうだったので軽く相槌を打って流しておく。

「お疲れ様。」

「うん、私しか適任者がいなさそうだからこれからも私を頼りなさい。間違ってあんたと買い物になんて行ったら警察沙汰に成りかねないわ。」

くたびれた様子で忠告をしてくれた。

「うん、顔見ればわかるけど、それ以外は無さそうだね。今後もお願いします。」

「はい、お願いされました・・・。」

疲れすぎてか業務連絡みたいになってるがまぁ、いいか。

「そうだ、コージ!もしかしたらこのあたりの神社を回ってみれば記憶が還って来るやもしれんぞ‼」

唐突にそんなことを言い出した、が

「なるほど、昔から残ってるものはたくさんあるだろうしな。でも、いきなりどうしたんだ?」

「なんかな、しょっぴんぐもーる?で歩いているとき花柄の着物を見てな、似たようなものを着つけている人物を見たことがあったことを思い出したのだ。」

「つまり、知ってたものや場所に行けば何かしら思い出すかもしれない、ってことか。いいんじゃないか。あっ。」

そう自分は快諾してしまったが、隣で青白い顔をしてる沙紀がいた。

「でも、それは沙紀と行くこと。沙紀が行っても大丈夫な時だけな。」

一応保険はかけておこう。効くかわからないけど。

「なんでだ、コージとじゃだめなのか?」

純粋な疑問なのだろうが、違う解釈もできるため少しうれしい。

しかしここは譲れない。本人のためにも。

「うん、誰かと歩いていると、色々ね。」

「あ、じゃぁ、三人で行けばいいんじゃない?」

沙紀が悪魔のようなことを言ってきた。

「なぁ、沙紀さん?今日なんで俺が付いて行かなかったか知ってる?」

「うん、下着もそうだけど、知り合いと会ったらまずいからでしょ?」

知ってるならなんで言ったの?

「でも、今時の中高生は中々神社なんて立ち寄らないよ。」

納得しつつも、神社めぐりが趣味の自分に指を指してみる。

「あんたは、例外よ、変な奴よ。」

「コージは普通ではないな。」

まさか、二人に一斉に罵倒されるとは思ってもいなかった。

「というわけで今後は三人で歴史的な場所に行ってみよう‼」

「おー!」

御虎も沙紀もノリノリだった。

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次の次の日。

このあたりで知名度が高い場所といえば沼津。そして、沼津城。とかその辺り。

というわけで、三人で駅から程近い神社に来ているのだが。

「特に何も思い出せない。」

そう、よくよく考えてみると、平安時代に沼津城なんてあるわけがない。

そうして沼津をあきらめて三島へ行く。

がしかし、三島大社で御守りを売っている神主さん(?)に聞くと、「一番古くて、慶応の初期あたりからだね」

といわれて、仕方なので沼津に行ってから興味を抑えてた報酬にアイスを食べて帰ることとなった。


「なー、コージ。なかなか見つからないな。」

「そうだなぁ、考えてみたら、ほとんど戦国とかそれ以降だもんなぁ。」

「弱気になってどうするの?ほら、三島広小路とかの辺りはいいんじゃないかな?」

元気に粘るが知識が足りてない。

「あそこは江戸、明治辺りが強いから行ってもわからないだろ。それに、この辺り東海道が発展したのは、やっぱり江戸以降なんだよね。静岡の駿府城だって徳川の城だし。」

「じゃぁ、糀は何か案が出るの?」

案も出さずに否定するのは、いつもの悪い癖である。

「発展したってことは、それ以前の物が無いってことだから、あんまり発展しないような場所なら・・・。」

あったわ、改札が壊れてても放置されるような田舎。

「もう一回金時神社の辺りへ行こう。」

御虎もこの時代に来たばかりで、街並みなんかの共通点は認識できてない可能性もある。

「そりゃ、みこちゃんが現れた場所だから何かしら関係はあると思うけど。それ以外に何があるの?」

一応、あるにはある。

「あぁ、金太郎の話は知ってるだろ。」

「あぁ、あの鉞担いで熊を従えた強いやつでしょ。」

もうちょっと表現をマイルドにならなかったかなぁ。

「うん、まぁ、その金太郎って平安時代にいた四天王の一人に数えられてるんだよ。」

「それだけ?」

「それだけ。」

突然、今まで空気だった御虎が

「いいんじゃないか、それよりも私を無視するでない。」

そんなかわいいことを言った。


翌朝、少し早い時間に例の路線の駅に待ち合わせをした、早い時間にしたのは中高生が使用する時間がもっと遅いからである。ついでに言えば、待ち合わせは駅だったはずなのに、家まで来て御虎を着替えさせてた保護者もいるから、あとは電車を待つだけだ。

「最初にも思ったのだが、そのでんしゃとやらはどうにも怖いなぁ。」

御虎は、電車におびえてるそうだ。

「大丈夫だよみこちゃん、慣れれば便利な移動手段だからね。」

「それなら、籠で運んでもらえればいいではないか」

ここは言ってもよかったのだろうか、一人で笑ってしまった。

「この時代にはないよ。あるとしたら、タクシーとかかな?」

「たくしー?」

「あっちで走ってる黄色い車と同じような感じ。」

とか話してる間に電車が音を立ててやってきたが、御虎は耳を塞いでいる様子。

「昔は同じことしてたっけなぁ。」

「な~に、糀はそんなにビビりだったの~?」

「慎重と言え、慎重と」

「コージー、やはりこれは怖いぞ~」

「まぁ、そのうち慣れるよ。ほら入ろ入ろ。」

電車に乗り、中は閑古鳥が鳴いているのでみんなで座り、御虎と沙紀が眠たい顔をしだした頃に着いたのでたたき起こして(実際に叩いてなんかないよ)現地へ到着。

「ねぇ、糀。ここの改札機能して無いんだけど・・・」

「あぁ、あきらめてタダで通らせてもらおう。」

「大丈夫なのこれ?」

「どうしようもないから、復旧させてない会社が悪い。」

すごく戸惑いながら通り過ぎ、御虎は「何の話だろう」と言いたげな顔をしている。

少し歩いて歩道橋の中央で御虎が、道を見ながら足を止めた。

「ちょっと、そんなところで止まってたら危ないよ?」

高いところが苦手な沙紀が注意しても上の空だったが、ハッと気づいて歩き出した。

「どうした御虎、いきなり止まって。」

とりあえず聞いてみる。

「ううん、何でもない。」

正直すごく気になった、沙紀は今にも問いただしそうな顔をしていたので、

「そうか、それじゃ、行こう。」

と、沙紀の質問を遮ることにした。

そうして、神社までの道を歩いて行ったが御虎の様子に変化はなく、そのまま金時神社に着いてしまった。

幸い、朝早いこともあって誰もいなかった。

前と同じように本殿へ行き。五円玉を入れ、思う。

(今までありがとうございます。これからも見守っていてください。)

そうして不思議そうに見ている二人の方へ戻ると。

『お主。今後それで私を呼ぶつもりか?』

と、少し懐かしい声がした。

「え⁉何⁉気のせいかな?」

案の定驚いてる。ついでにそれを見て御虎が笑っている。

『気のせいじゃないぞ、娘。私はここに鎮座している、神の一角じゃ。』

驚きの事で呆けている沙紀は放っておいて、聞いてみる。

「御虎が記憶を無くしちゃったみたいなんだ。どうにかならないかな?」

そう言うと、少し愉快そうに

『ふふ、私を神と知ってその口調か。良ければ変えないでくれよ。』

「一応は姿を見たといっても過言ではないんだ。このくらい良いだろうと思ってな。それで?」

『そうじゃの、今までのお前の行いとここに来た理由は分かっておる。御虎、ここには私とお前たち三人しかおらん、話しても構わん。』

と、神様は言ったが・・・

「どういうこと・・・?」

実際、分かってはいた。この時代に来た理由はともかく、記憶がしっかりとあることは、術が使えていることから分かってはいた。

「ごめんなさい。その、実は記憶はちゃんとあるんです。」

そう言って御虎は、頭を下げた。

「元の時代でいろいろあって。その時代に居場所がなくなって。陰陽術については自己流でいろいろ作ってたから。みんなから悪魔とか魔女だとか言われるようになって。それで・・・」

少なくとも幾度と人と関わる機会があり、沢山人がいる場所に行ったのに普通に戻ってきた。だから多分、時間まで飛んだ理由はそれじゃない。

『一時であればそこの男もにたような時を過ごしたと言えよう。』

「コージも?」

二人とも驚いていたが、例えに自分を出してきたことに驚いた。

『そうじゃ、そやつも一時は相当な嫌われ者だった。幼馴染なら知っておろう。何なら、お前でさえ邪険にしていたではないか。』

身に覚えがあったのだろう。沙紀は黙っていた。

「それでね、15になって少したった後、町の皆が山賊に私を貢ごうって言っていたらしいの。」

15の女子を山賊に一人貢いで収まるのか・・・日本だな。

「それで、町の人は私の家を地図で記した紙を山の目立つ場所に置いた。そしてそれを見つけた山賊が一人、私の家にやってきてね。」

捕らえられて連れてかれるか、撃退したのか。

「私、陰陽術の研究の真っ最中で、その山賊を拠点に送り返しちゃったの。」

「「・・・は?」」

神様は愉快そうに笑っている。

流石に驚きが隠せなかった。

「空高くに飛ばしたとか、うっかり倒しちゃったとかじゃなくて?」

「うん、怪我してた鳩を巣に戻そうとしてたんだけど、そこの陣に入ってきちゃって。」

予想の斜め上の答えとはまさにこのことだな。神様、まだ笑ってるよ。

「それで、私の家に防御の術を張ってたんだけど、上位の封印の札で全部破られちゃって捕まったんだよね。」

結局捕まったんだ。

『じゃが、こやつは他人にあれだけ言われてる最中、お主と同じように私に礼を言ってきたのじゃ、それも毎日。』

確かに、神の力を借りるのが術式の定義だとしたら、それは当たり前の事か。

『それに、ここまであの術を使いこなすのは、かの安倍晴明でも無理じゃっただろうから、野放しにするのももったいない気がしてな。』

ふと、気になった。

「その時の陰陽術はどれくらいが基準なんだ?」

『大体、十人単位でお祓い程度が普通は限界じゃ・・・』

「今の神職ができるやつ?」

『効き目はあれの数十倍じゃが、そやつに頼めば神の加護ごと消え失せるじゃろうな。』

沙紀が恐れながら

「みこちゃん、なんでそんなに使えるようになったの?」

もっともな疑問だが、こういうやつは大体・・・

「えっと、それ以外にすることが無かったから。」

そう言う。

「話、そらしちゃって悪い。そろそろ本題に戻ろう。」

「うん、そうだね、それで捕まってた私はそのまま山賊の長の息子に嫁がされそうになって。そんな時に神様が『お前の力と私の力をつかって、未来に逃げる気はないか?』って、聞いてきて。その時の私は逃げられれば何でもいいと思ってその提案に乗った。でも、」

『さすがに時間と場所を丸ごと移動させるなんて荒業は有名な神でもなければできないからな。そこから脱出して私のもと、つまりここへ来ることを条件とした。』

「それで、私は、ここで待っていても人生は辛いだけ。それなら、成功確率が半分くらいだとしても、逃げることのできる選択を取ろうと。」

『こやつは無茶をしておるから、私が手伝って術は成功させた。』

「それが、私を兎にした人体変化の術なのです。」

おお、なんか息があってて面白い。

『それで、この時代に来たのだが、どうにも説明して聞いてくれるような奴はこの時代には中々いなくてな、おまえを頼んだわけじゃ。』

「あ、そうか、きっと、さっきも同じようなこと思ってたんでしょ糀。」

『その通りじゃ。似た者同士なら、いや。この時代にしては神を信じすぎている心があるこやつじゃから、頼んでもわかってくれると思ったのじゃ。』

不意に、御虎が聞いた

「そういえば神様、コージに頼むとき何と言ったのだ?」

『あぁ、言うてなかったな。『こやつを幸せにしろ』と命じたぞ』

女子二人が少しづつ赤くなってた。

「ちょっと糀⁉それってつまり、神様のあの要求をのんだってこと⁉」

「え、じゃぁ、私は無意識にコージに求婚してて、今までは同じ屋根の下にいたから何があってもおかしくなかったわけで・・・」

二人とも超早口、自分は少しうんざり。

「ちがう、そういうことじゃない、神様がそう言ってから、そのまま御虎を置いてったんだよ。だから、それ以外の選択肢がなかっただけだよ。」

『それなら、御虎を置いて行けばよかったではないか』

「いいわけないでしょ⁉」

流れで神様に向けて沙紀が怒った。

『なんでじゃ、そのまま置いて行けば私が勝手に回収してたのだぞ。』

「そうじゃないよ、なんでそんな、空腹の熊の前に子供を放り投げるみたいなことするのさ!」

何の例えか全然わからなかったけど、どういうことなのか。

『えっと、ごめんなさい?』

「不満しかないけど、相手が良かったので許します。以降押し売りみたいなことはしないでください。」

神様を相手してるって忘れてそう。

『ふう、では、最後に説明しておこう。』

何の話だろうとみんなが耳を傾ける。

『御虎は、この時代に来て今日で5日だ。こやつはあと2日、この時代へ来て一週間でもとよりこの時代で暮らしている人として扱われるようになる。』

「衣食住はどうするんですか?」

『問題ない。一番長く暮らしていたやつの関係者となり、何かしらの理由で同じ家に住むことになるからな。』

『さぁ、説明は以上じゃ、これ以降、お前たちと関わることはきっと無いだろう。だから最後に言っておく。人の子の生は日の元にある。すなわち星である。いつでも見ているぞ。』

そう言って消えていったのだけど。

こっちの三人は、御虎が間違いなく雨井家に関わって、雨井糀と暮らすことに対しての驚きを隠せないでいた。


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