二章 俺と兎と一般常識
今さらだが、彼女は裸だ。年も自分と同じくらいだろう。ついでに言うとかなり可愛い。
ところで、ところでこんなところを誰かに見られでもしたら事件性を疑われるだろう。どうしたものか
『その点については大丈夫じゃ。』
⁉
「え、どこにいるんですか。」
少女は動いていない。
『直接頭に送ってるのじゃ。それと、そのあたりにだけ事前に人を近づけない術を張ってあるから大丈夫じゃ。服とかについても本人が起きれば大丈夫じゃ。風邪とかも気にせんでいい。そこで寝かせておいてやれ。』
言ってから緊張感が薄れていった、社に戻ったのだろう。理性、保てるかな・・・
そうして、太ももが暖かいので寝てしまった。
「ふあぁ・・・」
起きると私は見慣れたようでそうじゃない場所に来ていた。
そう、裸で、同じ年ぐらいの男の子に膝枕をしてもらって・・・
「⁉」
恥ずかしい思いで全身が火照るが、それよりも少し申し訳ない気にもなった。
「とりあえず、服が見つかるまでは兎になるしかないわね。」
五角の星を描き、唱え、願う。
「数多に注ぐ星の奇跡よ、我を包みて神の使いと成せ。」
視点がぐっと低くなった。体の構造が変わる瞬間は何度やっても慣れない。でもなんだか、それ以外の違和感もあったような?
彼女から、目映い光が放たれていて、目を閉じていてもわかるほどだったので、起きることができた。
目を開けてみると、最初に見た黒兎がいた。
「あなたがあの方の選んだ方なのですね。」
しゃべった・・・
「基本的に私は周りの人には見えないので気にしないでください。あと、けられたりなんてしませんよ。」
「えっと・・・失礼ですが。お名前を聞いても?」
「名を聞くときは自分から。では?」
「あ、雨井 糀です。」
「私は御虎、よろしくね。」
これからどーしよ、とか思っていると
「それで、その、私、こっちに来たはいいものの、思い出せないのよね。」
何を?という顔をすると、照れながら答えてくれた。兎だけどそんな気がした。
「名前と術以外、全部」
術・・・?
「あっ・・・、言っちゃった・・・」
何故かは知らないけれど何となく青ざめているのはよくわかった。
すると、涙を浮かべて。
「お願い、今のは聞かなかったことにして。神様に聞かれても知らないと言って。誰にも話さないで。じゃないとまた、元の時代に戻ることになっちゃうから。ほんとお願い‼」
とまぁ、全力で頼んできた。
「興味はあるけど、そこまで頼むなら聞かないわけにもいかないし。それに、」
「それに?」
「わざわざ喋る相手もいないし・・・」
「うーん、それなら安心ね!」
ポジティブにしてくれた。優しい。
「所で、元の時代に戻りたくないって?」
そっぽ向いた。
「まぁ、答えたくないならいいや。これからどうするの?」
すると、こっちを向いて。
「私でも着れる服が欲しい。」
その日はとりあえず帰ることにした。
御虎(名前で呼べと強制された。)は、兎の状態であろうとなかろうと透明化することができるらしく、一週間は神の御加護で生理機能的な問題がないと言っていたのでとりあえずは大丈夫だろう。
それに、高校からの一人暮らし準備を始めたばかりで不安だらけだったのが一人増えるだけでだいぶ楽になるだろう、今は兎だけど。
「コージは16なのか、私もだぞ。それじゃぁ、そろそろ女は作ってるのか?」
一瞬、何を言ってるんだ。と思ったが昔から来た人間だと・・・術という言葉からすると平安辺りから来た人からしたら、それが普通なのだろう。
「こっちの時代じゃ、結婚なんてまだまだ先の先だよ。」
そう言うと不思議そうに。
「ふうん、そんなもんなんだな。コージが弱気なわけではないのだな。」
そんなこともあるのだけれど・・・
そんな雑談をしたりしなかったりしていたら家に着いた。
「ここだ」
「ここかぁ。こっちに来てから思っていたが、不思議な建物だな。」
「そうか、そっちはどんな時代だったんだ?」
「聞くなと言ったが、まあいいだろう。きっと、未来では『へいあん』とか言われてるころじゃないか?」
やっぱりその辺りか。
「それなら、これから見るものもびっくりするだろうな。」
「ビックリ?」
「あぁ、平安時代にはそんな言葉ないよな。驚くだろうなってことだ。」
神様の御加護か、現代の言葉をカタカナ以外は理解できていそうだ。
「これでも時を越えてきたのだぞ。それぐらいのものは他にはあるまい。」
どや顔で言ってきた、あぁ、楽しみだな。
そう言って入ると。
「えぇ⁉いきなり光が灯ったぞ⁉なんだこれは⁉円盤が勝手に動いてる・・・・・・・」
と、こんな様子で驚きっぱなし。とりあえず、着れそうな服を探してる自分をよそにピョンピョンしてる。可愛い。
「コージ!今、私の事をお可愛いとか思っただろう‼私はただ、知らないものを見ていただけだぞ‼」
と、注意されてしまった。
「これはどうだ。」
そう言って服を差し出す。もともと自分はウエストが大きくないから、昔からズボンは女物ばかり着ていた。服に至っても、基本的には白黒灰色などの単色ばかりだからダサいまでは行かないだろうし、女子が着ていても問題ないだろう。が、
「なんだこれは?」
まぁ、そうなるわな。
「この時代の普段着だよ。和服とかは特別な時ぐらいしか着ないよ。これは洋服って言って、意外と動きやすいぞ、まぁ、女性用の下着とか持ってないからどうしようもないけど。」
「?」
あぁそうだった、いちいち忘れちまうな。
「俺以外の誰かに御虎が昔から飛んできたって言っても大丈夫?」
「居るのか?」
痛いとこをついてくる。が、
「頼りになるやつ位はいる。」
「ならば、口の固い奴がいい。この時代を知るには良い。」
それを聞いて。自分はスマホを取り出す。隣で御虎がすごく不思議そうに見ているが無視する。電話をかける。幼馴染に。すぐに電話はつながった。
「もしもs・・」
「かけてくんなっていったよね!?」
自分と一緒に隣で御虎もおびえている。
「で、何の用?」
キレつつも用事を聞いてくれる。ツンデレかな?
「ちょっと来てほしい。ある意味緊急事態だから。」
「唐突ね。構わないけど私、あんたの家知らないわよ。引っ越したんでしょ?」
「あぁ、住所はこれから送る。それじゃ、よろしく。」
「あぁ、まって、用事ってなn」
そこで電話を切った。
「その板は何だ!?」
興味津々の御様子。その証拠に耳が立っている、とても高く。
「スマートフォンって言って、遠くで同じものを持ってる人と話せる道具。」
必要以上の説明は、興味をそそる可能性もあるから自制。
「なるほど、それは画期的だな。」
それから、落ち着いて休憩していると・・・
「おーい、来たぞー。さっさと出てこーい」
「はいはい、今開けますよ~」
「おお、さっきの電話の相手か‼」
大声だったから聞こえたのだろう。
「は?!ちょっと、糀早く出てこいこの野郎。」
ご立腹の様子。ドアを開けるとすぐに突入してきた。
「どこだ、糀に連れ込まれたかわいそうな女の子は⁉」
「おれはそんなことしてねぇ‼」
「はぁ、だってさっき女の子の声が・・・」
「それは私の事では?」
兎がしゃべった。そう思ったのだろう。動かなくなった。
落ち着いてから兎は、幼馴染(佐之 沙紀(さの さき))にこれまでの事を話した。
昔から来たこと。一週間は神の御加護で空腹はないこと。そして
「で、あんたは私に何をしてほしいわけ?」
「女物の服とかは俺が買いに行くわけにはいかないだろう。だから、そこら辺のお使いをお願いしたくて。」
「はぁ、仕方ないわけね。でも、交換条件。」
「出来る事ならいいけど・・・」
「この子は私がコーディネートする。」
「ご自由にどうぞ。」
「それって私が言うことじゃないの?こーでぃねーとが何かは分からないけれども。」
明日には、下着を含めていくつかの洋服を持ってきてくれるそうだからそれまでは兎のままでいてもらおう。いまさらだが、沙紀は御虎(人ver)よりも背が高い。いや、御虎が小さいだけ。よってお古をもらう形になった。下着以外。
加えて、沙紀曰く「身長くらいなら大体でも平気だけど、女子の服はそれだけじゃないからね。外に出られるようになったら、新しい服買いに行くけど問題ないよね?あと、中学の卒業式サボって女の子連れ込んでた。って脅迫素材は大事に覚えておくから。」最後、少し怒ってたのはなぜだろうか。
寝る前に風呂に入ろうと思ったとき、ふと考えた。
「御虎って風呂、入らないの?」
「兎だから構わん。戻った時に堪能させてもらう。」
「それまでに、風呂の中を紹介して、使い方を教えなきゃだな。」
そしてこの日は風呂に入ってから寝た。
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私は少しやつを信用しすぎているのだろうか?
よくよく考えると、知り合ったばかりの男の家に上がって寝床を作ってもらうなどおかしな話じゃないのか?いや、もしかしたら、それもこの時代では当たり前なのだろうな。
彼には言わない。私が人として一週間を迎えるとこの時代にいる一人の女子として、何をしようとこの時代に居続ける事が出来る事。なぜ、時間を超えることをしたのかを。
でも、私はわからない、何故あの神様はこんな男を選んだのか。まぁ、そのうち分かるのだろうな。神様はいつも先を知っている。
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翌日
「・・・じ、こ・・・じ、糀‼早く起きなさい‼」
「はわっ!」
「やっと起きたわね。もう、御虎には服を着せてあるし、ほかの服の使い方についても教えてあるわよ。」
「はい、寝てる間にありがとうごぜいます。」
「コージは寝坊助なのか?」
「まぁ、いつも眠そうにしているわね。」
そこには、しっかりと服を着た美少女がいた。
「え、どこの美少女ですか?」
「寝ぼけているのか、わたしだ、御虎だ。」
「どう、かわいいでしょ。私のセンスを誉めなさい。」
そのドヤ顔に文句の一つも出したくない。ここで、ちょっとした案が浮かんだので実践してもらう。
「なぁ沙紀、御虎とお出かけしてやってくれないか。」
「はぁ、なんで私なの?別にいいけど、自分で行けばいいじゃん。」
「俺といたら女子との話し方なんてわからないだろう。それに、今から御虎と外出して、同級生と遭遇したら、沙紀の脅迫素材は効力が下がる。」
我ながら無理やりだったが、納得してくれた。
「仕方ないわね、いいわよ。今日は暇だし。というわけで軍資金ちょうだい。」
「もちろん、楽しみにしてる。」
そう言って諭吉数人を渡す(出費が痛い)
「それじゃ、可愛くしてくるから‼」
「コージは来ないのか?」
気にしてくれたことがかなりうれしかったけど、それはそれ。
「うん、女子二人に囲まれてる俺なんかを知り合いが見たら、噂でひどいこと言われるからな。」
「そうなのか、それじゃぁ行ってくる!」
笑顔で飛び出ていった。
「あぁ、まって、みこちゃん、それじゃ、行ってくるから。」
バタン、と扉は閉まり。再び静寂の時間が訪れる。これからすることを考えると。まずは布団をもう一つだな。幸い自分は布団で寝ているからベッドについて聞いてくることはなかった。
その後、ネットショッピングですこし値段の張る布団を買った。
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時間は巻き戻り、今朝
「お邪魔しまーす。なんでこの家は鍵をかけてないんだろう。」
「それは私が外したからだ。」
気が付いたら足元に兎がいた。御虎だ
「お出迎えありがとう。それじゃ、さっそくお着換え始めちゃおっか‼糀が起きる前に。」
「よ、よろしくお願いします。」
そう言って兎はいきなり光だした。
光が収まったと分かってから目を開くと、そこには少女がいた。それも少し驚いてしまう美少女が、裸で。
「よし着替えよう、今すぐ着替えよう。」
「まてまて、押さないでくれ~」
さすがに今の光で起きてたりしないよね。
「そうだ、えっと、みこちゃんって呼んでいい?」
そういうと、とっても嬉しそうに。
「うん‼私もさっちゃんって呼んでいいか?」
「うんいいよ。これからよろしくね。」
「うん、よろしくね。」
こうして、仲良くなった。
時は進み、家を出てから。
「みこちゃん、何か好きなものとかある?」
「うーん、私はあんまり外に出たことがないからわかんないや。」
「そっか、平安時代って確か、女性は男性の求婚を受け入れて、正式に結婚するまで顔を合わせられなくて、家からも出れないんだっけ。」
「うん、別荘とか持ってる方なら別だけどね。」
少しだけ悲しそうな顔をした。いや、辛そう、だったかな。
「それじゃ、これからたくさんの好きなことを探そう‼」
すると、御虎は不意に
「ねぇ、コージの好きなものとか知らないかな?」
「えっ、いや~、あの人特殊だから私にも・・・」
「周りの人たちがね、みんな、自由にしてるように見えるの。知らないものに乗って。上下もなく自由に動いていて。だからね、ここは私にとっては自由すぎる気がして、でも、私も自由に生きたいから・・・。私にこの時代の生き方を、自由に生きるための当たり前を教えてください。」
そこまで言って彼女は頭を下げた。少し驚いたけれど、新しい後輩ができた気持ちになった。それに多分、その感覚を私も知っている。
「わかった、私で教えられることなら何でも教えるわ。まぁ、あいつの好きなものとか知らないけど。」
「ありがとう、さっちゃん‼」
抱き着いて近づいた頬は、汗で濡れていた。
速達で頼んだから一時間程度で布団が届いた。
今はまだ十一時半くらいだ、昼はカップ麺でも食べるとして夜はどうするか。
せめて、卵焼きとみそ汁ぐらいは作ってみるか。
某掲示板サイトで
「時をかけてきた少女(兎)がうちに住み着いたんだがどうするべきだろうか」
とか書いて、兎verの写真を載せたりしても誰も相手にしないだろうなぁ。
「あー、これからどうすんだろ。」
一人部屋でこんな感じだった。
「ねぇ、みこちゃん!こっちも着てみて、あと、これとこれとこれも‼」
「ねぇ、さっちゃん。そろそろ休憩したいんだけど・・・」
そう言ってみると。
「あ、確かにもう12時前だもんね。それじゃ、フードコートでも行こっか。」
「ふーどこーと?」
聞いたことがない。
「行ってみればわかるよ。だけど、家の中みたいに騒いじゃ駄目だよ。」
コージといいさっちゃんといい、皆私を馬鹿にしているのか?
「そのくらいの常識は持っている!」
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