愛らしさ
きっと明日だって、何事もなかったかのようにこの店は開く。
ネリネちゃんがきっと怒るんだ。サボっちゃだめよって。
アマリリスにも徐々に笑顔が戻ってきたように思える。シラーも前よりもすっきりした顔立ち。モクレンは相変わらず。
従業員が1人減ったからといって、なにか店が困るようなことはなかったみたいだ。
むしろ、ネリネが最初からいなかったのかと勘違いするくらい、彼らは店を回すのがうまかった。絆というやつだろうか。
兄が結婚を決めたのを知ったのは、手紙でだった。ポポ国とは関係が悪化していて、とてもじゃないがポポ人との結婚は褒められたもんじゃなかった。
ポポで暮らす兄から、甥の写真が送られてきた。
兄の妻のハクレンの真っ赤な髪と、兄の白髪をうまく混ぜ合わせた、本当に綺麗な髪色の男の子。
ああ、国なんて関係ない。きっと、この子は幸せにしてみせる。そう誓った。
次に兄と会えたのは戦場だった。アヤメ兵として、ポポ国の首都ドントで兄と僕は共に戦った。
真っ赤な髪か、真っ黒な髪か。大体そんな色の彼らポポ軍の頭は自らの兵と区別がすぐについた。
兄とはあまり会話しなかったけれど、最後のその瞬間、兄が父親として、あの可愛い可愛いモクレンを前ににっこり笑ったのが見えた。
「タムシバさん、どうです、コーヒーでも」
穏やかな顔のアマリリスにそう言われ、思わず頬が緩んだ。また閉店間際まで居座ってしまったようだった。いつかと同じように、モクレンが掃除を始める。
「モクレン、モクレン、いらっしゃい」
そういって手招きすると、モクレンはむすっとしたいつもの顔で近づいてきた。
「綺麗な髪色だね」
モクレンはぎょっと目を丸くして、そのあと納得したように口角を上げた。
「君はきっと父親似だ。違うかな?」
温かい空気が、僕たちを包んだ。
「その菖蒲色のピアスもよく似合ってる」
モクレンはだんだんと顔を緩める。
「実は僕には兄がいて、君みたいに寡黙な人なんだけど、1人息子の前ではそんなふうに笑うんだ」
モクレン。君が失った心のピースの分だけ、僕が君を愛してみせよう。
モクレン。夢のような時間だね。君が兄に重なって見える。おかしな子だよ、本当に。
本当に本当に、可愛い子だよ、モクレン。
「モクレン、君はきっとご両親にたくさん愛されてきたんだね。そして今も変わらないよ」
ここへは何度でも来るよ。兄と僕を繋いでくれる場所だ。
モクレン。僕の兄は、君をきっと、誰よりも愛しているよ。
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