友情
「やあ、また来ちゃったよネリネちゃん」
ひょうきんなその声に、シラーもアマリリスも振り向いて笑った。
彼はDiamond lilyの常連、タムシバ。ネリネたちアヤメ出身の人に多い、白い髪をしている。
いつものようにネリネと、入り口の1番手前の席で話し込む。
彼は不思議な人だ。ネリネやアマリリス、シラーと会話しながらいつもヘラヘラしている。不気味なくらいだ。俺と話すときは少し落ち着いた口調になって、いつも菖蒲色のピアスをじっと見つめる。
彼は黄金色のピアスをしている。アヤメ出身だと直接彼の口から聞いたことはないが、白い髪に青い瞳をしている。ネリネたち姉弟と同じ、アヤメ出身の人の特徴を持っているのだ。
黄金色のピアスは、自分がアヤメ出身であってもポポの味方であることをアピールしているのだろうか。
アヤメ差別が激しい今、そういった人がいてもおかしくないのかもしれない。
ポポを象徴する黄色。無論金色も使われたりする。戦争に勝った直後は、アヤメ出身の人に黄色い旗を振らせるなど、ポポ軍がよく街中で列を作らせてアヤメの人たちを洗脳しようとしていたのを思い出す。
いやあれは洗脳だったのだろうか?もっと幼稚で、もっと簡単なものだろうか。長い我慢の末、勝ったのはポポだと、ただ証明して安心したかっただけじゃないだろうか。
「モクレンくん...だったかな。本当に綺麗な赤髪だね」
閉店間際の掃除中、彼に話しかけられた。
「君は今、27歳だろう?」
眩しい笑顔だ。そして正解している。
俺が驚いて固まっていると、彼はそのまま会計を済ませて外へ出た。やっぱり不思議な人だ。
「モクレン、タムシバさんとなに話してたの?よく話しかけられるわね」
ネリネは、彼と会うと少し明るくなる。恋に落ちているのとは違う、心の底から、ポポ国にいてタムシバに会えたことを喜んでいるような明るさなのだ。
アマリリスと2人、アヤメに帰ることを選ばずに戦後20年もここに居続けるネリネ。
ここにレストランを開いたときも、初めは全く客が入らず、それどころか毎日のように酷いアヤメ差別に遭っていたらしい。
1年くらい前、ネリネに恋をした常連客がいた。彼は本当に一途で、ネリネに会いに毎日ここへ訪れた。
アマリリスも、姉の結婚に頷いて、もう少しでネリネは結婚するはずだった。
けれど相手の両親は、ネリネがアヤメ出身であることを許さなかった。生まれた土地、生まれた国、生まれた血筋。ネリネの涙を見たのは、そのときが最初で最後だった。
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