第2話 それって卑怯じゃない?

 神殿を出て一人、シンは思った。この先、この町で生涯を過ごそう。と。

「終わった」

 レベル1のステータスで一生能力値の上がらない、状態異常にならないタンク!

「誰が、使ってくれんだよ、こんなクソの能力……」

 【豪傑(体力)】があるから1度だけは耐えることができるよ!

「いや、無理だろ。どう考えても。スライムに触れただけで死ぬぜ?」

 サポート魔法やスキルを使ってもらえたらきっと……

「【不変】……こいつのせいで強化すらできない」

 でも、【大器晩成】っていうレアスキルが……

「このお荷物をパーティの1枠潰して入れようと思うのはどこのもの好きだよ」

 どう正当化しようとしても、自分が役に立たないお荷物になったことを実感してしまう。まさか『祝福と呪詛』によってとどめを自分で刺してしまうとは。ステータスアップのないレベルアップとか、これ以上ない外れスキルを引いたものだ。

「あー、オヤジの定食屋でも継ぐかな……」

 この世界では3回死ぬと4度目の死亡で『死』が確定する。そのため、冒険者で3度死亡したら、町で営む人が多い。もちろん、そのまま冒険者として最後を迎える人も多くいる。シンの父は職業狩人であり現在は食堂を営んでいる。

「町にいるときでもダメージを食らわない【常時毒付与】とかじゃなくてよかった」

 そう呟きながら、俺は川を眺めた。朝には美しく見えた川が、いつのまにか疎ましく思った。どうしてこんなに世界は残酷なんだ。俺だって冒険者として世界を見たかった。アロンと一緒に……

「あー……アロン。お前は、しっかりとやって行けよ」

 友の名を呼び、呟く。お前は未来ある戦士だ。頑張れよ。

「なーにがしっかりやれよ、だよ」

 トンっと、背中を軽く押され、振り返る。アロンが嬉しそうにこちらを見ていた。

「で、職業は何だったんだ?魔術師だったかー?」

「いや、タンク」

「お、おぉ……前衛か……残念だったな。後衛としてこそこそ応援できなくて」

「はははっ……」

「……なんだよ。そんなにダメスキルだったのか?」

「……実はな。『祝福と呪詛』のスキルを受けたんだ」

「おぉ!やったのか!?」

「……まぁ、お察しの通り、このありさまですわ」

「とりあえず、教えてみ。解決策があるやもしれんぞ」

「……」

 俺は、3つのスキルと『祝福と呪詛』のスキルについて伝える。それを聞いたアロンは顎に手を当て、こめかみに指を当て、首を傾げ、頭を反らし、そして目を見開いた。

「ダメだ!思いつかん!!」

「……まぁ、オヤジと一緒に定食屋で頑張るよ。すまんな、親友」

「シン……」

 やめろ、そんな目で見るな。俺を哀れまないでくれ。

「……泣きたい」

「泣いていいぞ。ほら、野郎の胸でよけりゃいくらでも貸してやる」

「……お前、男前だな。今日なら抱かれてもいいぞ」

「弱ってるやつを落とすほど、俺は落ちぶれちゃいない」

 とりあえず、胸を借りて泣いた。鼻水がついたけど、アロンは嫌がらなかった。ちょっと落ち着いて離れたら露骨に嫌な顔をされたけど。

「まぁ、吉と出るか、凶と出るかは運次第だからなぁ」

「あー。今後はオヤジの定食屋の店舗拡大に向けて壮大な計画をたてるかー」

「あ、そういえば、お前ステータスみてねぇの?」

「あ?そんなもん、ダメスキル見て確認する気すら失せたわ」

「いやぁ、もしかしたらバグって最強ステータスになってたりして。とかなんとか」

「ったく、えーっと……」

 ステータス確認を行う。と、異様な割り振りに思わず目を疑った。

「んなっ!?『幸運』以外すべて1!?」

 あの神官!!なんつー割り振りしてやがんだ!!

「うわすっげぇな、お前神官になんて言ったんだよ」

「え?そりゃ……」

 思い返す。『全は一、一は全……』と言いながら割り振ってたな。そうか、だからステータスが全部1で統一されたのか…それで余った能力値は全て幸運に回されたと……ほんっとに雑魚が出来上がったな。こりゃ。

「あーでも、幸運が高いとレアスキルが出やすくなることがあるって聞いたな」

「意図してないんだがな。しかも、最悪なスキルになったけどな」

「ん?ちょっと待て?」

「まぁ、町にいる限りHPが減ることはないし、幸運があれば店舗拡大も夢じゃないかもだし」

 と、俺が言っていると、アロンが何か思いついたように顔を明るくしている。

「お前、最強じゃねぇか!」

「……は?」

「そのスキルの組み合わせ!うわ、えっぐいな!」

「……お前、ばかにしてんの?」

 喜んでいるアロンに青筋を立てる。しかし、奴はうれしさを抑えきれんとばかりにはしゃいでいる。くそっ、涙で鼻水がまた出てきた。今度は奴の服で鼻をかんでやる!

「おまえ、そのステータスとそのスキルの組み合わせを見てみろよ」

「あん?」

 そういわれて、ステータスとスキルを確認する。

「お前の体力は1だ」

「あ」

「そこで【豪傑(体力)】で常に体力はMAX。しかもスキル効果で常に体力は1になる!」

「ほんとだ……」

「しかも【不変】で体力を上昇させることもできないし、『呪詛』スキル【レベルアップステータス無効】で体力に変動が起きることがない!」

「しかも、『祝福』スキル【状態異常無効】が補助してくれる……」

「……なんかお前、卑怯じゃね?」

「卑怯じゃねーよ!っていうか、ホントに!?」

「組み合わせで言えばライトフォード戦士長より上かもしれんぞ」

「マジか……」

「とにかく、これで冒険者として一緒に旅ができるな!」

「……あぁ」

「なんだよ、その間の抜けた返事は」

「……いや、ホント……ありがとうな」

「……気にすんなって、相棒」

「よろしく頼むぜ、相棒」


―――。

「それでだ」

 ズガーン!ドゴォン!!

「どうあがいても俺が先陣切って的になるっていう!」

 火蜥蜴(サラマンダー)の火炎を受け、岩石男(ロックマン)の岩雪崩を受け、暗黒蝙蝠(ダークバット)からの超音波を食らう俺。

当初の後ろでコソコソ応援する後衛希望が俺だったのに!

「どうしてこうなった!!」

「おーいシン、こっちの巨大蛇(ナーガ)も頼んだー」

「くっそ!」

 タンクのアビリティ【敵意誘導:敵のヘイトを自身に集める】を発動し、敵の攻撃を誘導する。攻撃を受けるが全然痛くない。でも、飛んでくる炎は熱いし、岩は怖い。痛くはないけど、怖いもんは怖かった。

「あ、シンさーん、こっちもこっちもー」

「シン!こっちのも頼んだぜ!!」

「でええぇい!!もうどうにでもなりやがれええぇぇ!!!」


 ―――それが、最弱で最強の僕の冒険の始まり方でした。


おわり

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HP1だけど職業はタンクでした しろくじら @amesirokujira

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