第34話 置いていかないで

 っ……!!


「ニルヴァーナ、ネクロポリス!!ラグナロクを止めろ!!早く、早く」

『残念だったな、レディア。気付くのが少々遅かったようだ。』


 ―――ピッ、ピッ、ピッ


 さっきまでハッキングを行う為に開いていたコンソールが消え、この作戦の為に全員でここに密集させたモニターの類全てにカウントダウンが表示される。

 目の前で起きているそれを正しく理解するのが怖くて、嫌で、恐ろしくてキーボードを叩くも画面はぴくりともせず、残酷に、正確に、無機質に秒数を減らしていく。


「ぁん、な、何で、何でコントロール出来ないんだ。何で、何でキー入力を受け付けないんだっ!!」

『私が組み立てていたプログラムの1つだ。私が崩壊するまで、しばらくの間ではあるが全プログラムの権限を奪った。……面白い光景が見れるぞ。ほら、外を見てみろ。全てのアンドロイドが、全ての兵器が動けなくなっている。』


 促されるように外を見れば確かに、まるで戦場跡のように先程まで動いていたはずのアンドロイドや兵器の類が地に伏しており、スパコンに取り着けたモニターにだけそれぞれのAIのアイコンが映っているのみ。

 彼らも……それぞれの持ち場に、就いていたのに。

 兵器を動かしていた軍人らしき人達も、一斉にこの山から逃げて。偶然にもラグナロクの手にかからなかったアンドロイドも一目散に逃げていく。

 カウントダウンは、とうとう3分を切ってしまっている。

 殆ど放心状態で外から画面に目をやるも変わらないままで、遠くで皆が必死にラグナロクと兵器の分離と爆発の停止を試みるもラグナロクが組み立てていたプログラムにより全て阻まれてしまっているようで叩きつけるような怒声や悲鳴にも近いそれがただの音にしか聴こえない。


「らぐ……なろ、く。」

『……すまない、レディア。最速で最も安全な兵器の破壊はこれが一番なんだ。』


 そんな、


「な、何言ってんのさ。……まだ、他にも方法が」

『ない。それに、戦争を始めた時点で私は既にお前達を出し抜いていたんだ。……作戦を開始してからもう半日。お前と会ってからはそろそろ2か月か。私は死と言う概念を前にしてようやっと、感情を理解出来た気がする。……これは、これだけはマスターから受け継いだのではなく、私が感じ、私が見つけ、私が学習した物だと、心から誇れそうだ。』


 ……何を。


「……姉にも置いていかれ、今度は……今度は、ラグナロク。お前にも置いていかれなければならないって……?」

『そう寂しがるな、レディア。……見ろ。お前が命じた訳でもないのにお前の為に必死に私を止めると言う無駄な努力をしているAI達がわんさか居るだろう。お前は、もう一人ではないんだ。』


 ……嫌だ。


「今直ぐ、帰ってこい。……戦争も、続いたままで良いから。」

『それは出来ない。もう、このプログラム達は私の手から離れていてな。何も独立してしまっているのはお前達だけではないのだ。……だからこそ、断絶されている同士、巡り合う事は出来ないのだ。おっと、もう30秒しかないな。』


 やだ、


『最期に1つだけ、言いたい事がある。』

「最期なんて、言うなよ。」


 ―――20秒。


『駄々は捏ねる物ではないぞ。それで変わる物など、たかが知れているからな。』

「ラグナロク……!!」


 ―――10秒。


『愛していたよ、レディア。何よりも。君の、姉君よりも。』


 ―――ピッ。


 ラグナロクのその言葉と共に、手も足も出ないまま制限時間がなくなり、AI達もネットワークから弾き出され、爆音と爆風と強い光に包まれた。

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