第5話 私は無知だ。私はお前に何を与えられる

 ―――ぽちゃん……


「ぁあ”……?」


 どうやら、浴槽で寝てしまっていたらしい。

 あの後、ラグナロクに促されて風呂に入る事になった。勿論食事も済ませて。

 ラグナロク曰く、「人間は疲れると風呂に入ってゆっくり休むと言う。1度気分転換にどうだろうか」と言う割にはかなり強引に脱衣所に投げ込まれた。

 ……ほんっと、あいつって感情があるのかないのか分かんねぇ。

 逆上せて倒れてしまう訳にもいかないので駄々を捏ねる体に鞭を打って脱衣所へ。そのまま服を着て、タオルを肩に掛けてリビングのソファに沈めば何処に行っていたのか、すたすたと傍に来たラグナロクが私の髪をタオルで拭いてくれる。

 そういう事するから人間臭いって言ってんのに。


「AIでありながら無知だ。」


 突然何なんだ。


「……機械の癖に。」

「機械故に分からない事がある。」


 皮肉だって気付け馬鹿。


「機械なのに?」

「そうだ。機械に必要なのは命令とそれを実行する為のプログラムのみ。他には何も要らん。……はずだった。しかし、我々機械が諸君ら人間のように自ら考えて戦争をしている今、やはり“機械らしいが故に戦術を見透かされてしまう”。それの対策としてAIが生まれ、それぞれ適性を持った。人間のように、“個性”や“才能”と呼ばれる物を。それの対策としてだまし討ちを覚えた。人間のように、“ブラフ”や“偽装”と呼ばれる物を。レディアは“機械と人間に然程の差異はない”と言った。私はそれに酷く同意する。……所詮、機械など人間のクローンでしかないのだ。」


 ……クローン、ねぇ。じゃあ、人間は機械のオリジナルとでも言うつもりかお前は。

 髪を拭き終わったらしく、話したい事は全て話して満足したのかまた気配が消えるラグナロク。

 何でもかんでも自身の種族を中心に考えてしまうのは生物としての性なのだろうか。

 しばらくして、わざわざ私の正面に回り込んだラグナロクは冷たそうな、甘い匂いのするココアの入ったマグカップを差し出してくる。


「私は、AIとしては優れているやもしれん。しかし、アンドロイドとしては優れてなどいないのだ。」

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