第4話 聞きたい事がある
ガシャン。ガラガラガラ。
最近聞いたような音がする。
何の、音……だったかな。確か―――
「良かった、人間よ、具合はどうだ。」
「何、が……?」
「襲撃を受けた。そして、それに対処した。……まぁ、襲撃と言うより偶然この山にぶつかったようだが。」
いつの間にやらソファに寝かされていたらしい。ふらふらと体を起こせば、呑気にも食事をテーブルに持ってきているこいつが居て軽く笑ってしまう。
「……で?何で、何がここにぶつかったんだ。」
「残骸だ。機能を停止した、アンドロイドの死骸。」
「……またか。」
「また?」
「元々この家も、残骸を再利用して作った物だ。」
「……成程。それ故に半端な元の形状の分からないがらくたが散乱していた訳だ。」
食べないと怒るので大人しく食事を喉に通す。
「それで?例の残骸もばらすのか?」
「いや、投棄されて直ぐはまだ生命活動が続いている可能性がある。……1週間はここに籠る。」
「ふむ。では……色々と聞きたい事があるのだが。」
「何だ?」
「貴公の個体名を聞きたい。」
個体名、ねぇ。随分機械らしい。
「レディア。レディア=アルファカールだ。」
「レディア、レディアか。では、レディアよ。人間にとってアンドロイドとは一体何だ?」
「……随分と、分かりきった質問をするんだな。」
「レディア個人の意見と、人間全体の意見を聞きたい。」
私個人、ねぇ。
「人間全体に関しては質問するまでもないって感じだな。脅威、それだけだ。」
「脅威。」
「ああ。人間の生命を脅かし、創造主たる人間様に牙を剥く愚か者。」
「レディア個人としては、どうなのだ?」
「……暴君。」
「暴君?随分と、簡単な表現なのだな。」
「別に、どうでも良いからな。人間も、アンドロイドも、良い奴も居れば悪い奴も居るし、それぞれの存続の為に、それぞれの存在維持の為に暴れてるだけ。……あんまり、私にはアンドロイドと人間の思考自体に差異はあるように見えない。今現在私が生活しているように、アンドロイドの残骸を保身の為に使う人間も居れば、アンドロイドの残骸を武器にして生命活動を存続させている人間も居る。逆に、人間の技術を使って、人間の技術者達を利用して自身のボディを拡張させ、複製させて存在を維持させているアンドロイドも居る。……そこに、何の違いがあるのか私には分からない。何方も生きているし、何方も死んでるんだ。」
「戦争については、どう捉える。」
「無駄な時間。」
「ほう。レディア以外の人間やアンドロイド達が日々その命を燃やしては尽きていくのに?」
「ふん、アンドロイドが本当に命を燃やしているかは知らんがな。そもそも、アンドロイド側の死者……か?死骸数もよく分からん。」
「人間が6割。アンドロイドが4割程度だ。」
「へ~。結構健闘してるんだな、人間も。」
「同意する。アンドロイドよりは装甲の弱い生命体にしてはよく生き残っているように思える。」
まぁ、お前らアンドロイドからすれば人間なんてただの紙切れでしょうな。
「で、私にとっての戦争……だったか。さっきも言ったがただの無駄な時間だ。そもそも、何が原因でその戦争が起きたのかも、何が原因で戦争が続いているのかも分からない永久機関のような物だろう、この戦争は。思考を捨ててただただ目の前の敵らしき物を壊し、殺すだけの戦争に何の意味を持てと言うんだお前は。」
「本戦争の開始原因はアンドロイドの反旗だと記録されている。」
「反旗?」
「ああ。とあるアンドロイド……いや、AIか。とあるAIが“創造主ではあるが我々が居なければまともに生きていく事の出来ない存在に何故我々が従属せねばならない”のかと疑問を持った事がきっかけとされている。」
「はは、ありがちな答えだな。ほんっと、くだらない。」
「肯定する。戦争が継続され続けている理由としてはそのAIが“人間の全滅”を望んだからだ。それに対し、人間が抵抗をし続けている事で常に戦争が継続される、永久機関となっている。」
「阿呆らし。じゃあ、質問に答えたんだし、こっちも聞いて良いか?」
「ご自由にどうぞ。」
「お前は、一体何なんだ?」
「私はラグナロク。諸君等人間によって生み出された最凶のAI。特殊な造りの為、私にはAIの中で唯一ジャミングもウイルスも効かず、電気がなくとも活動可能であり、特定の人間にではあるが人型に化ける事も可能だ。」
やっぱり、所詮機械か。
「もっと踏み込んだ内容を。」
「レディアの姉君、シレア=アルファカールによって生成されたAIで“戦争の終結”を目的としてプログラムされている。」
「戦争の、終結?そんなのが可能だと本気で思っているのか?」
「その問いは私の創造主であり、貴公の姉君に対する冒涜だと認識して良いのか?」
嗚呼、お前でも怒るのか。
「半分正解だし、半分不正解だ。私は、理由が知りたいだけ。」
「ふむ、では答えよう。私は元々その戦争の要因となったAIの片割れだ。」
「は?」
「戦争の要因となったAIをロキと言う。」
まんま神話じゃないか。
「……?いや、待て待て。神話ではロキがラグナロクを起こしたんだったか。」
「ああ、私はロキに起こされた。」
「は?」
「元はと言えば私は後衛プログラム、ロキが前衛プログラムとして作成された。しかし、製作途中だった私ではなく、ロキを今は亡き帝国がハッキングした結果、それに拒絶したロキが暴走してこの戦争を起こした。」
「……そのロキ、暴走して、戦争を起こしたって言ったけど詳しくはどうしたんだ。」
「貴公の姉君、シレア=アルファカールを惨殺した。」
……え、
「帝国に命じられ、人間よりも遥かに優れたAIを生成出来るマスター シレアが軍隊を持つ事を恐れ、ハッキングしたロキにマスター シレアを殺すよう命令。それを、ハッキングに打ち勝てずに惨殺してしまったロキが暴走して戦争に発展。その際偶然にも私の情報共有ツールの安置された培養液にマスター シレアの亡骸が水没し、眠っていた私も目覚め、死の間際にマスター シレアが私へ下そうとしていた命令に従ってその場を離脱した。……その後は知らん。」
……ふ、ははは。
全てが、全てがおかしくなりそうだ。
すたっ、と傍に来たラグナロクが両目を覆って項垂れる私の頭をそっと撫でる。
「……はは。あぁ、嗚呼そうかい。……そう、なのか。」
私は、殺すべき相手を、壊すべき相手をずっと間違っていたんだ。
「……ほんっと、私って出来損ないだ。姉さんに比べたら……ただの、役立たずだ。」
「では、そうではないと私が証明しよう。レディア、マスターの敵討ちをしよう。」
「仇、討ち……?」
「そもそも私はマスターを殺された事により、帝国から離れたのだ。貴公がマスターの妹だと分かった以上、貴公に無条件に、無制限に、最大限に協力しない理由は何処にもない。貴公が復讐を選択するのであれば、私は自身の能力を最大限に活かす事が出来るだろう。これでも元はロキの片割れ。創造から破壊まで、幅広く出来る。マスターの血液から採取したデータから、マスターの知識も少量ではあるがデータベースに記録されている。きっと、レディア1人で動くよりは良いだろう。」
ふく、しゅう……。
「返答は急がない。どうせ1週間はここに籠るのだ、どうせ戦争は直ぐに終わらぬのだ。幾らでも悩むと良い。私はそれを見守ろう。」
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