第2話 観察対象
「……AI、ラグナロク。」
『そうだ。私はラグナロク。諸君等人間によって生み出された最凶のAI。特殊な造りの為、私にはAIの中で唯一ジャミングもウイルスも効かず、電気がなくとも活動可能。ここへは“人に化けて”来た。』
「え……は、あ……?」
待て待て待て待て!!ジャミングもウイルスも効かないとか、ただの引き篭もりプログラムくらいだろっ!!そもそも、電気がなくても活動可って、人に化けてってなんだよ……!?
『人間、貴公に要求がある。話を聞く場と時間を設けてほしい。』
「……嫌だ、と言ったら……?」
ガシャンッ!!と大きな音を立ててありとあらゆる防護システムが作動し、玄関へ繋がる扉も、風呂場へ繋がる扉も、キッチンに繋がる扉も、私室に繋がる扉も、全ての扉と電子機器の電源が強制シャットダウンされ、今居るリビングの明かりとラグナロクと名乗るAIが勝手に起動したであろう私のノートパソコン以外の全てへの物理アクセスも電子的アクセスも全て遮断される。
うーわっ……。
『再度要求する。話を聞く場と時間を設けてほしい。』
「……分かった。お前、もうAIの域を超えてるだろ。何だよ、電気がなくても活動可って。人に化けてって。ジャミングとウイルスの事はまぁ他の暴走型アンドロイドでも時折あり得る事だからもう良いけどさ。……何で、私の家のセキュリティをネットワークごと掌握してんだ。」
『私はAI。諸君等人間によって生み出された最凶のAI ラグナロク。ネットワークの掌握と破壊、洗脳に特化したAI。諸君等の言う特殊個体に部類され、私自身のデータベースにも私と同じか、私以上、又は近しい機能を持つAIの情報は記載されていない。故に私だけのユニーク機能とも定義出来る。』
「……もう良いわ。また後で質問し直す。……で?何が目的なんだ、お前。」
『人間の感情と思考回路等の完全理解を最終目標に掲げている。だが、貴公以外の人間は全て貴公が言った通り他の暴走型アンドロイドの視界内。ゆっくり観察対象とするのは難しい。』
「……観察対象。」
『貴公を観察し、私の質問に答えてもらう代わりに私は貴公の質問にも答え、この家に居る限り私が回路と言う回路を使いこなして、ショートするまで貴公を守る事を宣言し、約束する。』
「……何故、お前はここを選んだんだ。」
『先にも挙げた通り、暴走型アンドロイドの視界内に入っていないのは貴公以外に居ない。貴公の名も、存在も分かっているはずなのに誰1体として貴公の本質を理解出来ていない。故に、貴公は私同様特殊個体であると判断した。』
「……はぁ。何が出来る。」
『貴公が望む限り全てこなそう。食事に、家事に、防衛に、何なら風呂も沸かしてやろう。』
「ハイスペックで羨ましいよ。」
『何を言うかと思えば。貴公もそうだろう。噂は聞いている、AIをオフライン拘束出来るのだろう?そんな事が誰にでも出来れば今頃我々AIは特殊個体を除いて全て貴公の手中であろう。』
「……別に。」
『とりあえず、交渉は成立したようだ。』
ガシャン。ガラガラガラとシャッターが挙がり、防衛装置が解除されたら今度はキッチンのカウンターに置かれた食事が目に入る。
『早速だが食事を用意した。食べてはくれまいか。』
「……どうやって。」
『説明した所で理解出来るとは思っていない。』
言うじゃないかこいつ。
恐る恐るどうやって作られたのか分からない食事、スープにスプーンを入れる。
……!
「……美味い。」
『それは何よりだ。今日はそれを食べて休んでくれ。私はこれより拠点の守護を継続する。安心して休んでくれ給え。食器の片付けも行おう。』
「……はぁ。至れり尽くせりだよ、全く。」
『ああ、そうだ。明日の予定を確認したいんだが。』
「急に話し方が人間らしくなったな。」
『貴公との会話データを元に私と言う個人を生成した。……機械チックな方が良いか?』
「……いや、良い。……もう寝る。明日の予定はない。」
『そうか。では、お休み。Have a nice dream。』
洒落込みやがって。
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