劣っているのは人か、機械か

夜櫻 雅織

第1話 は……?

 今日も空振りだった。

 依頼により、サラマンダーと呼ばれているかなり破壊的なAIが逃げ出したと聞いてそれを強奪しようとした貴族の物だったが10日も粘ったが見つかる事はなかった。機械に弱い訳でもないが、そもそもAIが勝手に逃げ出したとなど聞いた事がない。

 依頼時間は10日だったので依頼主に謝罪してから帰路に就いているが「そうか、お主でも駄目なのか」と温かい言葉を貰い、かなり悔しい思いをした。

 クソ、いつか捕まえてやる。

 プライドに懸けて堅く決めたは良いが疲れていたので大人しく隠れ家の入り口へ回り、小さな穴“から”見えるように右目を大きく開いて虹彩認証を済ませ、鍵を使って中に入る。

 約数年前より暴走したアンドロイドと人間間での戦争や紛争が各地で起こっている。進化し過ぎたAI技術の所為で。アンドロイドの中には人間との共存を願うアンドロイドも居れば、人間を守る事が役目だと言うアンドロイドも居たが、中には人間を劣等種族だと見下し、自らの修理や知恵を持つ者以外の人間は不要だと、技術者や賢者の誘拐と一般市民の殺人行為が相次いだ。対人間アンドロイドと言っても自らが生きる為に技術者と賢者を未だに発見されていない何処かへ誘拐し、軍による反逆型アンドロイド軍と人間の兵器による衝突が相次いでいる。

 無駄だろうとは思うけどな。

 そもそも彼等は人間が作り出しておきながら、その創造主である人間が理解出来ていないコンピュータやネットワーク、ルータ、サーバ、セキュリティなどなどの“電気が通っているかデータである限り”自由に行き来出来る。つまり、アンドロイドを倒しても所詮は彼等か、彼等に攫われたであろう科学者や賢者の技術によって生成された巨大なネットワークで繋がっている。つまりはネットワークに繋がっているだけで、アンドロイド自体はただの人形でしかないのだ。

 人形が壊れただけで、本体はネットワーク内を移動して壊され、解体される前に脱出し、付近にある人形に入って壊された分の倍は殺してくる。……つまり


「見つかったら終わり。」


 対策としては強力な磁場を発生させるこの山に家を作り、独自にネットワークを構築する。磁場により、此方から外のネットワークからは断絶され、外のネットワークからもまた然り。お互いに干渉する事は出来ない上に磁場をコンピュータで乗り切る事は未だに成功していない。

 彼等が磁場を攻略出来るようになるまでではあるが猶予はある。サーモグラフィによって人間を殺しに来る奴も居るらしいが磁場の前では面目丸潰れ。

 門を施錠してリビングに荷物を放り投げてシャワーを浴びる。

 磁場を攻略出来ない物の、人間の脳波に近い電波を飛ばして人間の意識を朦朧とさせる事が出来る厄介なAIも居るらしく、なるべくAIには近寄らないようにしている。

 以前までは人間の方が脅威だと言われていたのにとうとう自ら作った物によって自らを滅ぼす事になろうとは。


「……人間も、大した事ないもんだな。」

『私はその意見に強い遺憾の意を表明する。』

「!?」


 スピーカーから零れ出た、とても低くて落ち着いた抑揚のない声が“機械らしい話し方”で意見を述べる。

 ……ま、まさか……!?


『お初にお目に掛かる、賢き人間。私はラグナロク。AIでありながら貴君に協力したく馳せ参じた。』


 は……?

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