第17話 新たな手掛かり、未完成の大魔法
「あ、英雄様じゃないか!」
「(ビクッ)」
「あ、八百屋のおばちゃん!久しぶり!」
「蓮燔君も久しぶり。怪我は?具合はどうなんだい?」
「まぁ、初めは熱とか出てましたけど俺は大丈夫ですよ。」
「……お、おい。」
「ああ、そうか。奏、この人は俺達がいつも野菜を買う八百屋さんのおばちゃん。よく俺達の事を気に掛けてくれててさ、魔法は使えないけど料理、すっごく上手いんだ。」
「……?奏君……だよね?」
「そっか、街の方には通知が来てないんだ……。おばちゃん、奏は記憶喪失になったんだ。原因も分からないみたいで、でも怪我の悪化にさえ気を付ければ普通に生活しても、普段の授業にも出て良いんだって。まぁ……怪我が治るまでは魔法体術の授業はドクターストップなんだけどさ。同室なのと、仲が前々から良かった事も兼ねて俺も学校を公欠扱いで奏がなれるまでは学校を休む事になってるんだ。まぁ……その分、宿題は多いんだけどね💧」
「なんてこった、まさか……あれの所為かい?」
「あれ?」
「奏、俺達を守る為に製作途中の、未完成の大魔法を使ったんだ。魔力が足りなかったから大気中の魔力や使い魔の魔力、そして勿論自身の魔力も全て使い切って。で、結局お前が目を覚ましたのは昨日。……2か月も眠ってたんだ、お前は。」
2か月……。未完成の大魔法……。
「蓮燔、お前はその大魔法の事を知らないのか?」
「教えてはもらってた。……でも、俺は理解出来なかったんだ。いや、多分あれはお前以外には分からない。」
「えっ、」
「大魔法ってのは元々、他者に分かるように作られてないんだ。悪用されるのを防ぐ為に。……俺は確かに、お前のオリジナル魔法も自分で作った魔法も覚えてる。でも、俺は使えないんだ。根本を理解出来てないから。お前に教えてもらった用途しか知らない。」
そう、か……。
「……奏君。」
「あ、は、はい。」
「記憶を失って、色々戸惑う事はあると思う。でもね、それでも私達は君に助けられたんだ。君が居てくれたから私達はまたこうやって生きていられる。私には魔法なんて難しいもんはさっぱりだけど、野菜で何か困ったり、普段の生活やこの街の事で分からない事があったら遠慮なく聞いとくれ。」
「……はい、その時は宜しくお願いします。」
「……うん、うん。記憶がなくてもその誠実さと真面目さは奏君だねぇ。おばちゃん、安心したよ。……あ!そうだ、2人共!さっき新鮮な野菜が入荷した所なんだ!寄ってかないかい?安くするし、今なら昨日の夕飯、作り過ぎちゃったから少し持ってかえっとくれよ!」
「わっ、良いんですか!?奏、行って良い?」
「まぁ……良いんじゃないか?厚意はありがたく受け取っとくべきだ。」
「じゃあ、おやっさんにも挨拶しようぜ!魚屋の夫婦んとこにも挨拶だな!」
嗚呼……俺の周りって、こんなに温かかったんだな。
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