第16話 まぁ、腹は立たないな

「(深い溜息)」

「アハハ、相当眠いんだろ。」

「……かなり。」

「怪我すんのだけは辞めてくれよ?」


 俺の半歩前を歩く蓮燔が時々俺の方を確認しながらも声を掛けてくれる。それに着いていきながらも辺りを見回す。

 クローゼットの中に入っていた1つのハンガーに纏めて掛けてあった私服一式を身に着けてそのまま蓮燔と共に商店街に向かう。

 ……。


「何買いに行くんだ?」

「食材とか、後は本とか。」

「……本は欲しいな。……まだ、よく分かんねぇから。」

「……。」


 ふと静かになったなと思って周りから蓮燔に目線を移せばじっとこっちを見ていて少しびっくりする。


「……何だよ。」

「いや、記憶喪失って……ううん、先生からさ。記憶喪失になると目が覚めてからパニックになる可能性があるから覚悟しておくようにって言われてたんだ。だから不安、だったんだけど……お前は記憶を失っても殆どお前だなって。」


 ……おい。


「説明になってないじゃないか。」

「俺、説明下手なんだよな。」


 アハハ、と力なく笑うそれは意外と不快ではなかった。

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