第2話 1226
「これが……俺が好きだった飲み物?」
「ああ。イギリス産のレモンティー。お前、味覚と舌の神経が少し死んでるから俺からしたら味が濃いんだけどな……。」
少し疑問を抱きながらも口を付ける。
濃いと言う割に俺にはほんのり薫る程度でしかない。
「どう?」
「……美味い。けど、全然濃くないな。」
「だから味覚と舌の神経が死んでるんだって。俺はお前の飲んでる奴飲めないんだよ、濃過ぎて。」
そう言いながら蓮燔は珈琲を飲む。先程角砂糖を4つも入れていた。
こいつ、甘いのが好きなのか。
「何で……死んでるんだ?」
「その言い方怖いな……。俺もお前から聞いた話しか知らないけど、昔に実家でストレスを溜め込んでたらいつの間にか味が分からなくなったって聞いた。実際、精神科と内科の両方に行ったけどもう治らないらしい。かなり酷いから……。薬で緩和する事も出来るけどお前は断ったんだ。なくても困らないって。」
なくても困らない……か。確かに、困りはしないな。少し物足りないだけで。
「お前は甘い物が好きなのか。」
「ああ、大好き。お前は逆に苦手だったな。甘い物より辛い物の方が好きだったぞ。」
「……お前は、俺とどんな関係だった。」
「ライバルであり、唯一背中を預けられる友人であり、情報も、苦楽も共にしてきた親友、俺はそう思ってる。記憶を失う前、お前がどう思ってくれてたかは何度聞いても教えてくれなかったけどさ。」
……なら。
「……これ。」
「ん?携帯とノートパソコン……?しかも、お前がいつも持ち歩いてる奴じゃん。」
「暗証番号が分からないんだ。」
さっきからこの中が気になって仕方ない。俺は一体何者なのか。俺はどんな人物なのか。
「んー……答えてやりたいけど、これも教えてくれなかった。お前、自分からよく質問はするけど俺の質問には答えてくれなかったんだよ。」
ブスーっと頬を膨らませるが同性であるお前にそんな事されても何も思わないし、何も感じないからな。強いて言うなら鬱陶しい。
蓮燔を無視し、携帯の電源を入れてみる。
だが、どうやっても画面は暗いままだ。
……。やっぱり駄目か。
「ん?ああ、それ普通のじゃないぞ。」
「普通の?」
「それは俺とお前で作った世界にたった2台しかないスマホ。動力源は魔力だから魔力込めてみろよ。」
魔力を、込める。
やった事のない事で戸惑い、まず魔法がよく分からないが体中の気をここに流せば良いのかと思い、やってみると本当に画面が点く。待ち受け画面は何処かの夜空で星が綺麗に映っている。
「軽い不眠症持ちで眠れない時はいつも俺の寝室にある窓から外覗いてたな。」
「お前の寝室で……?」
「傍に誰か居た方が安心出来るんだってさ。」
でもやはり暗証番号が分からない。どうしようかと思っているとサファイアが埋め込まれたネックレスの裏に何か刻まれている。
番号……?
裏側からしか見えないようになっている番号は1226。それを打ち込んでみると何とかロックを解除出来て安堵の溜息を吐く。
「お、開いてんじゃん。パスワード、何だったんだ?」
「1226。」
「……え。」
蓮燔の顔が蒼くなり、ホーム画面の待ち受けを見て更に引き攣った顔をする。
ホーム画面の待ち受けは何故か真っ黒。それなのに縁は薔薇の茨のような模様が刻まれている。
……何だ、この待ち受け。
「なあ、何かあるのか?その1226って。」
「……なあ、奏。本当に……思い出せないのか……?」
?
「ああ。」
「……なら、忘れておいた方が良いよ。」
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