いつぞやの約束は夜空の向こう(旧)

夜櫻 雅織

第1話 目が覚めれば

 初めに目を開けて入ってきたのは白い天井だった。周囲を見回しても誰も居なくて、ゆっくりと体を起こせばあちこちが痛くて悲鳴を噛み殺す。

 ここは……何処だ……?見覚えが……ないんだが。


「あ、気が付いた?ちょっと待っててね。先生呼んでくるね。」


 ナースらしき人が慌てた様子でカーテンの向こうへと消えていく。

 ……ならば、ここは病院なのか?でも、こんな怪我した記憶は……。


「ああ、良かった。具合はどうかね?」

「……右足と……左の脇腹が痛いです。……ここは?」

「ここはアトラ魔法学園の医務室だよ。君は自分の事が分かるかな?」


 自分の事。……あれ……?


「……分かりません。アトラ魔法学園……とやらは、学校、なんですよね。何の……?」

「君の名前は湊澪胤そうれいいん かなで。アトラ魔法学園と言うのはこの国で1番成績の良い魔法について学ぶ学校でね、君はそこの全10学年中第2学年。そして、主席だよ。」




 その後も沢山の説明を受けたが実感のある物は何1つなかった。

 とりあえず、記憶障害以外に大きな問題は見られず、俺の希望で学生生活へと戻る事となった。まだ傷も塞がっておらず、体育の授業はドクターストップ。……興味あったんだけどな、魔法学校の体育。

 そして今はこの学校の制服だと言う長くて黒いローブと誰かの形見だと言うサファイアが埋め込まれたネックレス、対怪異用に特注で作ってもらったと言うブレスレットを右に。後、蓮燔れんやと言う俺の友人で、寮も同室だと言うのとお揃いの黒い十字架のピアスを右に着ける。

 そのまま先程まで俺が寝ていたベッドに座ってそのご友人とやらのお迎えを待っている。

 ……でも、年齢的にはもう18なんだし、別に迎えなんて……。

 そう思い始めると我慢していた好奇心が爆発する。

 渡された俺の私物だと言うショルダーバッグを開けて中を漁る。携帯、ノートパソコン、幾つかの小説、財布、メモ帳にペン。

 ……。……社会人か、俺は。

 ペンはボールペンじゃなくて万年筆だし、それもかなり高そう。

財布の中身はまあまあ多いかなって思えるぐらい入ってる。日用品とか買う時に、商品の単価が分からないからこれで一般的に見てどれくらいなのかは判断出来ないけど。

小説はジャンルも世界観もバラバラできっと目に入った物、特にグラフィックが綺麗な物で題名も面白そうなら何も考えずに買ったのだろう。でも栞が本の中盤にまで差し掛かっているのを見るとこれは気に入ってるのだろう。携帯とノートパソコンはやはり暗証番号があるがどうしても思い出せないから諦める。

 ……絶対この中に何か入ってると思うけど。

 メモ帳に記されている様子を見るとかなりマメな性格で、かつ想像力が豊かな人物だった事が読み取れる。

 にしても、字が綺麗だな……。

 試しにペンを手に取り、教えてもらった名前をフルネームで、かつ漢字で書いてみると特に意識もしてないのに筆跡が一致する。どうやら、これが普段の字らしい。

 一縷の望みを抱いてメモ帳を最初から最後まで読んでみるもこのメモ帳はまだ全体の10%にも満たしていないし、そういう個人情報は一切載っていない。

 結構警戒心高いな……。そうだよな、落としたら困るし……。……あれ。


「……杖。」


 魔法と言えば杖を使って行うイメージだが、杖らしき物は一切ない。そういえば俺のカウンセリングをしてくれた先生も杖でメモ帳とペンに魔法を掛け、それ等を宙に浮かし、ペンが勝手に俺の発言と先生の発言をメモっていた。

 後で気になって見せてもらったがそれはもう一字一句抜け目なく。

 ……便利だな。

 そう思ったけどよくよく考えたら俺はこの学校の首席だったんだからそれくらい……とも思うが今は記憶がないから何とも言えないんだよな……。


「奏、ごめん!遅くなった!」


 声と共にカーテンがシャッと捲られる。

 俺の視界に入ってきたのは青い髪と目に眼鏡をしたこれまた身長の高い男。俺もまぁまぁ高いけど、恐らく俺よりも高い。


「……お前が、蓮燔?」

「あ、そうか……。おう、俺が蓮燔。悠祇飅ゆうしりゅう 蓮燔だ。第2学年次席でお前と同室。ほら、このピアスは俺とお前の仲を示す為にお揃いなんだ。」


 そう言って蓮燔は左耳に着いている黒い十字架のピアスを指差す。


「……ピアスをしないと、示さないと分からないような仲なのか?それともこれがないと保たれない仲なのか?」

「……良かった。記憶はなくてもその厳しさと遠慮のなさは健在だな。じゃあ……まずは俺達の部屋に行こう。とりあえず部屋から慣れるのが先だよ。」




 ……これが、部屋。俺の、部屋。


「ここが俺達の部屋。ちょっと特殊な造りでここは談話室なんだ。」

「談話室。」

「俺と奏専用のな。中央の扉が手洗い場で、風呂場にも行ける。右が奏。左が俺の部屋で、右の廊下を行けばキッチンがある。キッチンの奥は食糧庫。お前の魔法で時間が止まってるからそこに入れておけば賞味期限なんてないからすっごい便利だぞ。」

「……色々、聞きたい事があるんだが。」

「おう!何か淹れるからそこで待っててくれ。いつもの……。……いつもお前が好きだった奴で良いか?」

「任せる。」


 俺が……好きだった飲み物。





改定版、執筆中です

→「https://kakuyomu.jp/works/1177354054896798897

※2023年8月11日6時公開予約中

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