第15話 早く、治してください
弱った師匠の姿を見るのは初めてだった。
いつも気だるげで、でも大切な物が壊されると存在を消すまで暴虐の限りを繰り返す魔術師らしくない、義を通す魔術師。周りからは何を言われても平気な癖に、死にかけてた俺を拾ってここまで育ててくれた師匠。
今まで病気になった所も、大怪我をした所ですら見た事がない。
「はい、あーん♪」
「……、あ、ー……ん。」
「食えるだけで良い、無理だけはしてくれるなよ。」
人間だとは全く思えない両手に、息がし易いように首元を緩められた所為で首や鎖骨の辺りに黒くて禍々しい鱗がまばらに生えており、まるで師匠の体力を吸い尽くすヒルでも付いているように見えて余計に不安を煽られてしまう。
やっぱり見続けていた所為か此方に気付いた師匠が小さく名前を呼んでくれるので地に足が着いていないような不安感を抱えながら近寄れば俺とルディオの頭を優しく撫でてくれる。
「し、ししょ、う……?」
「……す、ぐ……。直ぐ、治す……か、ら。泣きそうな……顔、するな。」
「きゅうぅう。」
「……何言ってんだよ。1番辛いのは師匠だろ?こんな時まで俺らの心配なんてしてんじゃねぇよ!少しは、少しは自分の心配をしてくれ!少しくらい、少しくらい頼ってくれよ!」
少し呆けた様子の師匠に、更に悔しくなって俯く。
俺は、未熟だ。師匠が旅に出る事を許してくれたから勝手に1人前になったなんて思い込んで。こんな時、何もしてやれないのに。貰うばっかりで何も返せないのに、何で、何で
「じゃ、あ……少しあま、え……よう。」
「え……」
ベッドにではなく、ベッドに腰掛ける俺の膝を枕に横になり、心配そうに甘え続けるルディオを懐に抱き込んで微睡み始めてしまう。
いや、いやいやいや!
「ちょ、な、何して!?」
「あははwそりゃ良いや。」
「少しだけ甘えさせてあげたら?」
……でも。……いや、そうか。
「……これで、師匠が本当に楽になるなら、良い。師匠、他に欲しい物はないのか?俺があげられる物なら何でもやる。」
「……温もり、が……欲しい。」
「……はは。素直な師匠って気持ち悪い。……早く、治してくれ。」
優しく師匠の両手を包めば静かに寝入ってしまった。
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