第1話 過保護な弟子の所為で

「やっぱり、また飯抜いてただろ!確か……前に来た時は……。んー?前に来たのいつだっけ……💦」

「……10日前。」

「あ、そうそう。んで?ちゃんと料理作り置きしたけどちゃんと食べたんだろうな?」

「……置いてあった分は。」

「言ったな?そこで大人しくしてろよ、ちょっと冷蔵庫見てきてやる。」


 ……最後に食ったのいつだっけ。ああ、6日前だ。

 先程図書館を出ていったはずのグロウディが世間では鬼の形相と言うに相応しい顔で走ってくる。

 足速くなったな、あいつ。


「お前、冷凍食品置いといたのに1つも手ぇ付けてないだろ!?ちゃんと食えって言ったろ!?おい、フィウルーティ!!最後に食ったのいつだ!!」

「……6日前。」

「はぁ!?お前、よく空腹に耐えられるなぁ!?チッ、キッチン使うからな!」

「……後片付け、ちゃんとやれ。」


 遠くから「いつもやってるだろうが!!」と罵声が飛んでくる。

 ここからキッチンまで1kmはあるんだがあいつの耳と喉はどうなってるんだ。しかも移動速いな。俺でも36km以上は聴こえないってのに。知らない間に成長したもんだな……。

 俺は気にせず、あいつの罵声で落ちてきた本を拾い、読み始める。

 ……うん、なかなか懐かしい本が落ちてきたな。折角だし読んでから戻すか。




「おい、師匠。おいってば。」

「……師匠って単語、久々に聞いたな。お前、起こす時以外俺の事をお前呼ばわりか名前で呼ぶから……。」

「言い易いんだよ、こっちの方が。」

「……口の悪い奴め。」

「うるっせぇな。そんな事よりたかが20分の内に寝るって、睡眠も碌に取ってないのか?風呂は―――」

「毎日朝7時と夜10時に10分ずつ入ってる。城の掃除も毎日。」

「重度潔癖症患者め……。やっぱり病気だろ。病院行こうぜ。」

「そして魔術師を悪と罵る教会に通報され、お縄に……か。悪いが……俺はこの城から出る気はない。ここは……居心地が良い。」

「この引き籠もりめ……。」

「何とでも言うが良い。俺は余程の事がない限りこの城から出るつもりはない。」

「……ハァ。どうせ何言ってもお前には勝てないさ。ほら、フィウルーティの好きな梅酒も手に入ったからそれに合う料理を作ってみた。ほら、食べるぞ。」

「……うぅ。」


 さよなら、俺の癒し本とベッド。また後でな。

 渋々体を起こし、本殿の食堂で梅酒の入ったグラスを傾けながら久し振りの食事を堪能する。


「……腕、大分上がったんじゃないか。」

「本当か!?いや~……魔術師だからって理由でレシピを教えてくれない奴が多くて苦労したんだ。だから、見様見真似なんだが口に合って良かった。酒の方は?」

「……割と好み。度数も低めだから幾らでもいけるな。」

「度数が高くても酒強いから樽単位で飲める癖に……。」

「それで……?面白いネタ、とやらは?」

「この湖を出て直ぐの街、シルヴァスの向こうに山があるだろ?あそこの地下奥深くでかなり古い城を見つけたんだ!ただ、罠が多くて……💦久し振りに一緒に外に出ないか?俺も一応結界を張ってきたから誰か入れば直ぐに分かるし、何か面白い物があるかもしれないぞ?」


 シルヴァスの向こう……。確かそこはドラゴンが住んでいたって……。


「……そうだな。少し興味がある。」

「よっし!明日行こうぜ、明日!」

「……ああ。今日はもう好きな部屋で休め。」

「先に旅の途中で手に入れた物も沢山あるから仕分けしねぇと♪」

「……勝手にしてくれ。」

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