6.4 ご当地イケメン

「あの……」


 エルさんが声をかけてきます。


 しまった。巻くんの話に気を取られてついエルさんへの対応がおろそかになってしまいました。


 あれ、ベルちゃんがいない?


「……ってちょっとベルちゃん! なんでエルさんの隣座ってるの!」

「マキ様がいらしたので席を空けました」


 巻くんが来たときそのままエルさんの横に行ったんですね……。


 ベルちゃん策士。まずい。

 

 明らかに劣勢です。巻くんも少しは役に立って!


「もしかして、力の使い方はまだ分かっていなかったりしますか?」


 話を聞かれてしまったのでしょうか。この手の直接的な指摘に私は弱いのです。

 

「はい……」


 つい正直に白状してしまいます。


「さしでがましいようですが、少し試してみてはいかがでしょう。例えば私たちが精霊の力を借りるとき、慣れないうちは体の一点に意識を集中して力を集めることから始めます。指先などですね。」


 ほう。


「火の精霊であれば、じんわりと温かくなります。そういったことを積み重ねて、火をおこせるようになります」


 なるほど。


「同じようなやり方で力が発揮できるのではないでしょうか」


 そういうことなのですか。

 

 ……意味が全く分かりませんでした。


(……どういうこと?)

(今言ってたろ。普通に魔法覚えるときの訓練と同じ事したらどうか、って言ってるんだ)


(普通は魔法なんて使えないよ)

(こっちでは普通使えるんだよ。もちろん個人差はあるしそうたいしたもんじゃないけど。ほら、ベルを見ろ)


 ちゃっかりエルさんの隣におさまっていたベルちゃん。

 上を向けた手のひらから柔らかい、淡い炎の塊を発生させています。


(えええ!? ベルちゃんも出来るの?)

(出来るもなにもベルは治癒魔法の使い手だ)


(なにそれずるい!)

(いや、そのおかげでおまえは助かったんだぞ……)


「エルさん、言われたとおりにしてみたらできました! これが……竜の力……」


 違うでしょ……。

 全然関係ない治癒魔法とやらなんでしょ。ベルちゃんの得意な。

 

 さもたった今初めて出来たかのようにうっとりとした顔をしているベルちゃん。


「ありがとうございます! エルさんのおかげです!」

 

 ベルちゃんが大喜び(しているふりを)してエルさんの右腕に抱きつきます。

 流れるようにエルさんに胸を押しつけるベルちゃん。


 手強すぎる。


 もう何コンボつながったのか分からない。

 完全に劣勢です。

 

 すごいですね、と賞賛するエルさんの顔がゆるんでいます。けっ。


(あんなの昔っからできるだろ。なんでベルは喜んでるんだ?)


 巻くんが不思議そうな顔をしてなにかつぶやいています。

 そんなんだから巻くんは巻くんなんですよ。


 所詮はご当地イケメンの巻くん。

 ワールドワイドイケメン、エルさんの争奪戦では戦力になりません。


「どういうことでしょう。ベルさんが竜の巫女ということですか? それともお二人ともが?」


 竜の巫女って言った!

 なにそれかっこいい!


 私もなりたいです。いや、私なんですよね? それ。

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