6.3 ベルちゃんの横に座っているモブのほう
「……あの。竜の力を手に入れるには相当なご苦労があったのでしょうか?」
エルさんが探りを入れてきます。さすがにただのおっぱい星人の馬鹿というわけではなかったようです。少し目の色が変わりました。
「ええ。何日も生死をさまよい、食事もほとんど取れず。ただひたすら苦しむ日々でした……」
と、沈痛な面持ちで『ベルちゃん』が答えます。
(ほんともう、なんでベルちゃんが答えてるの? さすがにもう私の番でしょ?)
(ずっと看病してたんですし、嘘じゃないですよ。わたしが、とは言ってません)
(さっきからずるい!)
(もうとっくに戦いは始まってるんですよ。エルさんは私がもらいます)
「それはお気の毒に」
「でも、その苦労も今日報われた気がします。」
しつこいようですが返答しているのは私ではなくてベルちゃんです。
(だ・か・らっ! ベルちゃんじゃないでしょ!)
(看病が大変だったのは本当ですってば!)
「あなたのような方と結ばれるかもしれないなんて……夢のようです」
「ナガイさん……」
エルさん、あなたが今見つめているのはベルちゃんです。ナガイは私です。ベルちゃんの横に座っているモブのほうです。
もうかたく両手を握らんばかりのエルさんとベルちゃん。
見つめ合う二人。
……ここで流れをぶったぎって元気よく手を挙げます。
「はーい!」
エルさんがようやくこちらを見てくれます。
ベルちゃん、そのいいところでしゃしゃり出てきやがって、みたいな顔はやめて下さい。
「え?」
「呼ばれたので返事をしました。長井斗貴は私です。その子はベルちゃん。ずっと私の看病をしてくれていた優しい女の子です」
エルさんが困っています。もう一度座り直してから私たちを見比べます。
「そうなんですか?」
ベルちゃんに確認するエルさん。
「ご想像におまかせします」
ベルちゃん往生際わるっ!
そうでした。あるじゃないですか、最強の武器が。
竜の力を持つのは私、長井斗貴である、というまぎれもない事実です。
「なるほど。……お願いがあるのですが、よろしいでしょうか。」
やっとエルさんが私のほうを向いてくれます。
「なんでしょう?」
だからなぜベルちゃんが答える。ほんと強いな、この子。
「私も勉強不足なところがありまして。具体的に竜の力というのはどういったものなのでしょうか?」
え。
「不躾で申し訳ありません。簡単にで構いませんので、何か力を見せてもらえませんか。」
「……」
私もベルちゃんも沈黙。
勝った、と言いたいところですが私もどうしていいのでしょう。竜の力の使い方などわかりません。
……やつに聞こう。
両手をちょっとふっくらさせて、右肩の上で2回ぽんぽん、と叩きます。
きびきびした動きで巻くんが来てくれます。
お呼びでしょうか、みたいなかんじのアレです。一度やってみたかった。
(用か?)
さすが巻くん。ビジネスに関しては頼りになる男です。
巻くんが来たのを見てベルちゃんが少しおおげさに場所を空けてくれます。
(あのさ、竜の力ってどうやったら使えるの? なんかやって見せてくれって言われちゃったんだけど)
(適当にごまかせ、そんなもの)
(そういうわけにはいかないんだよ)
(難しいのか)
(やらないとベルちゃんにエルさん取られちゃう)
(……何言ってるんだおまえは)
(とにかくなんかない?)
(どうかな……体の中は相当活発になっているはずだ。便秘とかあれ以来よくなってるんじゃないか?)
なんでこの男は……ことある毎にお通じの話に戻すのはやめて頂きたいです。
……いやまあ確かに調子いいな。竜の力なのか、これ。やるじゃないか。
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