6.2 のっけやがりました

 では後は若い人同士で、と他の方には退座していただきます。


 あとはエルさんと私の2人だけです。

 ……だけのはずでした。


(なんでベルちゃんまで残ってるの!)

(……あとは若い人同士、って言ってたじゃないですか。わたしも若いので問題ありません)

 

(そういう意味じゃないよ……)


 今はエルさんの対面に私とベルちゃんが並んでいます。

『若い人同士』、3人でお見合いをするはめになりました。

 

 エルさんが困惑していますがもう始めてしまいましょう。


「ご趣味は?」


 って、ひねりがないにもほどがありますね、私。

 

 いえ、同じ状況になってみて下さいよ。話すことなんて思いつきません。困ったときのテンプレ頼みです。


「そうですね。精霊たちとただのんびり過ごすのが好きなんです。つまらない男ですみません」


 元の世界で男の子が精霊たちとか言い出したら大爆笑もんです。

 でもこちらの世界で、しかもエルさんが言うとほあぁ、ってなります。異世界イケメンずるい。


「素敵ですね。わたしには精霊の姿すら捕らえることができません。今度ご一緒させてもらえませんか?」


 いつのまにか復活してた『ベルちゃん』がエルさんに答えます。

 

「もちろんです」


 エルさんがにっこりと『ベルちゃん』に微笑みかけます。


(ちょっと! ベルちゃん、私がエルさんとお話してるんですけど!)

(ナガイ様だけとかずるいです。私もイケメン浴したいんですよ)


(あとなんか微笑みかけてもらってるし!)

(返答したもん勝ちですからね。ほら、ちゃんと相手しないとだめですよ)


 ついエルさんを置いて二人でバトってしまいました。

 

 笑顔のままのエルさんが幾分困った表情でお茶菓子に手をつけます。


 しかし。そこで気付いてしまいます。

 エルさん、お茶菓子を手に取ったときさらっと視線がさまよったのです。


 私の胸とベルちゃんの胸。

 そして何事もなかったように口元をぬぐってまたにこにこしています。


(むぅ、これだけイケメンでも所詮は男か。胸か。胸なのか。……どう思うよベルちゃん?)


 ベルちゃんは(なんのこと?)みたいな顔をして返事をしてくれません。


 こういう視線ってベルちゃんのほうが敏感そうですけどね。私が気にしすぎているのでしょうか。


 ……違いました。めっちゃ気付いてました、ベルちゃん。

 そして一気に攻勢に出ます。


「ふぅ……」


 どさ。

 

 自分の胸をテーブルにのっけやがりました、この女。


 エルさんの目が所在なさげにさまようのを確認して、さも今気付いた、みたいな顔をして顔をうつむかせます。


 しかも今きゅっ、って腕少ししぼったろ。胸強調するために。そんなのずるいずるい。


 ベルちゃんはしらじらしく俯いて、エルさんと目を合わさずに言い訳をします。


「申し訳ありません。はしたないとは思うのですが、どうしてもこのほうが楽で……」

「いえ、どうぞ気になさらず」


「ありがとうございます」

 顔を俯かせたまま視線だけを上げて、エルさんに心にもないお礼を言います。

 

 イケメンに1,000ポイントのダメージ(推定)。


(ずるい、ずるいよベルちゃん!)

(ナンノコトダカワタシニハサッパリ)


 なにか対抗する手段はないのかと頭をフル回転させているところにエルさんが口を開きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る