5.2 王子様に次々に言い寄られちゃう

「しつもーん」

「なんだ」


「巻くんじゃなくてベルちゃんに。……ちょっと巻くんは耳塞いでて?」

「なんでだ」


「いいから。ちょっとベルちゃんに聞きたいことがあるの」

「そうか。じゃあ少し席を外そう」


 このへんの素直にすぐ行動に移してくれるのは巻くんの数少ないいいところです。きびきび巻くん可愛い。


「えとね、ベルちゃん。巻くんには内緒にして欲しいんだけど」

「なんでしょう」


「これから私は各国の王子様に次々に言い寄られちゃう、てことでいいのかな?」


 俗っぽい言い方をすればイケメンほいほい状態ってことですよね?

 

「……」


 やめて! 生ゴミを見る目はやめて! 分かってる、分かってるから!


「ほら! 誰かとくっつけば少なくとも巻くんのお相手になる可能性がなくなるよ?」


 ベルちゃんがあからさまにぱあぁ、と上機嫌な顔になります。

 なりますが、その後顔を曇らせて続けます。


「ナガイ様が妄想している状況とは少し違うかも知れません」


「だめかー」

「2つほど理由が。まず、色恋にうつつを抜かしている間にすぐ4年経って世界が滅びます。もちろんバカップルごとです。」


「うぅ……」

「次に、そんな正攻法で来る勢力だけではないのです」


「正攻法?」

「ナガイ様が気に入るような男の子をきちんと用意するのが正攻法といえるでしょう。ですが、要はナガイ様をさらってきて強制的に嫁がせてしまえばいいわけです。このほうが手っ取り早く、他の勢力も出し抜きやすいですし」


「……いやでもそれじゃ悪評も立つでしょう?」

「そうですね。そこまであからさまなことをするところはないと思います」


 この世界の常識はまだ全く頭に入っていないのです。安易な先入観で警戒を怠ってはいけません。ベルちゃんの話の続きを待ちます。


「ですからこう、対外的にどうにかなる範囲で強制するといいますか。まあ例えばなんですが」


 ベルちゃんが苦笑して続けます。


「軍隊で包囲した上で『見合い』を『勧めて』くる、などですね。おそらく、今われわれが直面しているのがその状況です」


 話が終わるか終わらないかのタイミングで巻くんが帰ってきます。


 タイミングが良すぎてどこかで隠れて聞いていたんじゃないかと疑いたくなりますが、こういうビジネスっぽい間を読むのは得意なのでしょう。


 そのエネルギーやセンスを少しは私との関係にも使って頂きたいところです。

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