5.1 竜なんかほっといて適当にスローライフ
一眠りして3人が揃い、今後の話し合いが行われます。
「まずは長井、ほんとうによくやってくれた。あの夜、封印が持たなかった時は生きた心地がしなかったが、結果的にはいいほうに転がった。おまえの力で竜そのものを倒すことができるかもしれないんだ」
「この世界を滅亡から救うには竜を倒さなければならない。その力を持っているのは現状では私だけ、ということでいいの?」
「その通りだ。長井こそが、この世界における織田信長だと言っても過言ではない。世界の混乱に終止符を打つのはおまえだ。頼むぞ」
「いや、そこはジャンヌダルクとか。せめて女性にしてよ」
なんでこう、男の子ってすぐ戦国武将だとか三国志だとか……。
織田信長とか知らない。いえ、もちろん知っていますが、そういう意味ではありません。
「そうか。……じゃあエリザベス・スミス・ミラーでいいか」
「ごめん、誰?」
「ブルマ考案した人だ」
「ブルマってあのブルマ? 昔の体操着?」
「そう。当初は違う形だったらしいがな。女性解放の象徴になった」
「……もういいよ、その人で」
「なんだその言い方は。失礼だろ」
「一応聞いてみたいんだけど」
「なんだ?」
「もし私が、竜なんかほっといて適当にスローライフしたいとか言ったらどうなるの?」
「……おまえには迷惑をかけた。もう元の世界に戻ることもできない。その点は申し訳なく思っている」
「え、ちょっとまって。私もう戻れないの?」
「だからおまえが竜など放っておく、というのであればそれを咎めることはできない」
人の話を聞いてください。
っていうか今スルーしてごまかそうとしましたね?
「巻くん! 元の世界はもう大丈夫なんでしょ? だったら戻れるんだよね?」
「……可能性はゼロではない」
またそれかー。
「で。スローライフについてはどうなの」
「好きにしていい」
こんなにあっさり認めてくれると思っていませんでした。少し意外です。
「だが4年で死ぬ」
「……なにそれ」
「竜をほったらかしておけばいずれこの世界は滅亡する。運が良ければ4年ぐらいは持つはずだ。もっとも後半は生きているんだか死んでいるんだか分からない悲惨な世界だがな」
だめじゃん。
「……で、その竜を倒すにはまずなにをすればいいの」
「まずはこの山を降りる」
「まあそりゃそうでしょ。どこだかは知らないけど、竜がいるとこまでは行かなきゃいけないんだろうし」
「そうだな」
「じゃあとりあえず降りようよ。体ならもう大丈夫だよ。ベルちゃんのおかげですっかり元気」
「降りられない」
どういうことでしょう。
「なにそれ。途中の橋が落ちたとか?」
「違う。包囲されている」
「なにに?」
「ルーフェの軍隊だ」
「なんて?」
「この山や近辺の森一帯にルーフェという村がある。そのルーフェが組織した軍隊に囲まれている」
「巻くん、なんか怒らせるようなことしたの?」
「俺じゃない。おまえだ、長井」
「こっちきてこのかた、寝てただけなんですけど、私」
「竜の力を定着させただろ」
「うん」
「それがもう、方々に伝わってしまっている」
「それがなにか?」
「強大な力だ。欲しがるものは多い」
ベルちゃんが少し悲しそうに話を継ぐ。
「竜を倒さなければいけないことは一応ことある毎にみなさんにお伝えしているのです。それでもなかなか現実感を持って頂けなくて。みなさままずは自分たちのことを優先して考えてしまうのです」
少し悲しい現実。
巨悪に一致団結して立ち向かう、などという綺麗な話では片付かないということなのでしょう。
「巻くん、私はどう使われちゃうの?」
「使う?」
「ほら、研究所でホルマリン漬けにされる、とか洗脳されて兵器にされるとか」
「考えすぎだな」
ベルちゃんがこほん、と咳払いをして自説を披露してくれます。
「おそらくもう少し単純ですね。自分たちの国の王子にでも嫁がせて、竜の力を持った世継ぎを作って欲しいと思っているところが大半かと」
「そういうものなの?」
「分からないな。ただ、実際に何の力も受け継がれなかったとしても、泊はつく。十分に利用価値がある」
あら私ってばなんて便利なのでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます